第239話 対決・御庭番十六忍衆⑤! VS鞍馬刑部(中編)
前回のあらすじ:御庭番最弱の男・鞍馬刑部。サシコは彼との戦いを有利に進めているかに見えたが……
※一人称視点 サシコ
「"白鉄大蛇・改"!!」
鞍馬刑部が両腕に装着していた金属の手甲が鎖で繋がった何節もの輪に分離し、接近するアタシに向けて発射される!
「ぬくゥ〜!!」
とっさに反応し、刀で射出された鉄輪を防御!
直撃は避けたが衝撃で詰めた間合いを押し戻される!
むむ……まだこんな隠し武器を仕込んでいたとはね!
でも、この武器、どこかで見た事があるような……
「あっ! それって鬼雷坊とかいう山賊が持っていた……」
「ほう。ヤツを知っているのか」
そうだ!
以前、山賊の根城で太刀守殿が倒した山賊の頭・鬼雷坊が得物にしていた仕込み金棒!あれも確か何節もの鉄輪に分裂していた!
「ヤツは昔の山賊仲間でね。ヤツにあの武器を提供したのは私さ」
鬼雷坊は北ジャポネシアの旧ヤマガ王国領を縄張りにしていた山賊。かつて北ジャポネシア4カ国で活動していた鞍馬刑部の影響範囲とも確かに重なるけど、まさかそこが繋がっていたとはね。
と、今はそんな事より目の前の敵に集中しなきゃ!
「ヤツが白鉄大蛇を所持していた事を知っているならば、この技も知っているかッ!」
鞍馬刑部は十数節の蛇腹状に分裂させた手甲を鞭のように操ると、各節の鉄輪が空行の力を発して帯電する!これは、山賊の砦で鬼雷坊が見せたのと同じ技!
「この"白鉄大蛇・改"は空行の電撃を通しやすい特殊な金属で出来ていてね! 私の貧弱な呪力でも充分に威力を発揮する事ができるのだ!」
鉄輪からバチバチと迸る稲妻は鞍馬刑部の身体から発する呪力に比べてかなり強力なものだ。陰陽術を主体に戦う六行使いは術式の底上げに自身の属性に近い性質を持つ「触媒」を用いる事が多い。でもまさか武器そのものの素材から加工して未熟な技を補うなんてね……
「そして更にッ!」
鞍馬刑部が腕を振ると、両腕から伸びる鉄輪がうねりながらこちらへと迫る!帯電した鉄輪は直撃しなくとも触れた瞬間に感電してしまう!
なんとか回避しなければ……
「さきほど数度に渡り炸裂させた火薬玉! あれに混ぜていた砂鉄が周囲に飛び散り、貴様の身体には付着している! 砂鉄には鉄輪を引き寄せる磁力がある! すなわち……」
アタシは迫る鉄輪を避けようと地面を蹴って身を翻す。
が……
「白鉄大蛇は生きた蛇のごとく獲物を自動追尾するのだ!」
「えっ!?」
回避したと思った瞬間、突如攻撃の軌道が変わりアタシの身体目掛けて鉄輪が飛んでくる!
反応し切れず数発の鉄輪が命中!
打撃のにぶい痛みと共に電撃がアタシの身体を襲う!
「ぐうぅ……っ!!」
呪力による自動追尾ならば気配を感じ取る事ができる。しかし、磁力は自然の力であり気配を察知することは難しいし、攻撃をかわす瞬間に軌道が変わるので対処しづらく被弾は免れない。
「くっ! それならっ!」
攻撃が避けられないなら、やられる前にこちらから攻めるのみ!そう思って再度鞍馬刑部との間合いを詰めようとするが……
「無駄だ!」
今度は鞍馬刑部の周囲に展開された鉄輪がアタシの接近に呼応するかの様に磁力で引き寄せられて前進を阻む。無理に進めば四方を鉄輪に囲まれ返り討ちにされてしまう……
むむぅ。隙がない。まさに攻防一体の技……ここまでの戦闘が全てこの技の為の布石だったなんて。きっと戦いが始まる前から様々な状況を考慮し、自分が有利になる為の戦法を準備していたんだ。これはまさしく太刀守殿が常々口にする戦闘の工夫……
「つ、強い……!」
確かに鞍馬刑部は六行使いとしては手練とは言い難いだろう。それでも頭脳と武器を駆使して他の御庭番十六忍衆と遜色のない戦闘力を発揮する。
技や呪力だけじゃない。戦場ではこういう強さもあるのか。
「くっくっく! 追い詰めたぞ、宮元住蔵子! 天に稀なる才を持つ貴様を! 才に乏しきこの私がな!」
鞍馬刑部は言った。
アタシよりもずっと力なき者の事を理解している。どんなに力を欲しても手に入らぬ者の絶望と苦悩を知っている……と。
「力無き者の力による逆襲……これこそ革命! これこそ我が反乱軍の目指す理想の形なのだ!」
アタシは六行に覚醒してからは人並み以上に研鑽を積んできたと自負しているし、己の寿命という重い代償も支払っている。また、不本意な形ではあるものの金鹿馬北斎の人体実験で五属性の呪力を操ることも出来るようになった。しかし、今の力は大部分が持って生まれた龍の玉視というやつの恩恵とさまざまな偶然が重なった結果、奇跡的な速度で身についたものである事は否めない。これだけの力を普通の人が手に入れるには気の遠くなるような長い期間が必要なのだろう。いや、もしかしたらいくら時間をかけても手にできない事もあるかもしれない。
鞍馬刑部はそのような奇跡に頼る事無く、きっと長い時間をかけて試行錯誤と挫折を繰り返してようやくこの戦闘技法にたどり着いたのだろう。その間に味わった絶望と苦悩はアタシには想像すらできない。
「さあ、止めだ!」
鞍馬刑部はさきほどよりも更に苛烈な勢いで鉄輪を放つ。帯電する稲妻もさっきよりも大きい。
鞍馬刑部……考え方には共感できないけど、その執念と工夫には素直に敬意を覚える。でも……
「アタシだって負ける訳にはいかないのよ!」




