第237話 最弱のジョーカー!
前回のあらすじ:絶対絶命のサシコの前に孫悟朗が乱入する!
※一人称視点 サシコ
「木下……? はて、お前のような奴が踏越死境軍にいたかな?」
孫悟朗の大見得を切った大層な名乗りに鞍馬刑部は首を傾げる。踏越死境軍は反乱軍の中でも行動がまったく読めない不穏分子。もしもの時に備えて、構成員の戦闘力や六行の技についてはある程度情報を持っていたのだろうけれど、孫悟朗は新入りの上に六行使いですらない。故に彼の情報は鞍馬刑部は持ち合わせていないようである。
「はん! 知らねえってんならよく覚えときな! オイラは……」
孫悟朗は孫悟朗で目の前にいる相手が反乱軍の指導者の一人である亜空路坊だと気づいていない様子……亜空路坊は常に顔を隠していたし、素顔を晒している今、声だけでは気づかないというのは分かるが、恐らくこの阿呆は亜空路坊の事自体を認知していない。まあ、余計な説明や問答がないのは助かるけど……
「いずれ大陸最強と呼ばれる事になる男だ!」
孫悟朗は威勢よくそう言放つとお馴染みの愛槍・如意槍を構えて鞍馬刑部に突撃を敢行した。
が……
「せえぃッ!!」
「……ふん」
鞍馬刑部はアタシを捕え時と同じように「殺界縛鎖」をもう片方の袖口から射出!真っ直ぐ突っ込んでくる孫悟朗の身体に巻き付く!
「ぐえっ!?」
孫悟朗は畳一枚離れた位置でアッサリと捕縛される……いや、何しにきたんだコイツ……
いや、普通に考えれば六行使いでもない孫悟朗が御庭番十六忍衆に敵うはずもないか。ほんの少しでも期待したアタシが馬鹿だった……
「お前などに構ってる暇はないのだ。殺している時間すらも惜しい……」
鞍馬刑部はそう言うと懐から再びマガタマの欠片を取り出す……あっ!まさか孫悟朗を瞬間移動の力でどこかに「転移」させるつもり!?
また以前のように上空にでも転移させられれ非六行使いの孫悟朗はひとたまりも……
「さっさと消え失せろ。転…」
「へっ! 伸びろ、如意槍!」
孫悟朗は不敵に笑うと、如意槍の持ちて部分にあるからくり機巧をカチリと押す。すると槍と柄の接合部かビヨンと伸び、鞍馬刑部のマガタマの欠片を持つ手を掠めた。
「むおっ……!?」
マガタマの欠片は鞍馬刑部の手から勢いよく弾き飛ばされ、畳2、3枚離れた位置に落下する。
「なにィ!!」
意表をついた仕込み武器による奇襲!完全な雑魚と侮った相手からの思わぬ反撃に鞍馬刑部は一瞬面食らう!そして、その瞬間にアタシを捕らえている縄もわずかに緩む!
……この好機を待っていた!
「てえいっ!!」
アタシはこのわずかの隙きを見逃さず、すかさず刀を抜いて縄を切断すると、マガタマを落として動揺している鞍馬刑部へと斬り込む!
「くっ!!」
しかし、これには反応してみせて嵌めていた鉄の手甲に攻撃を受け止められる……流石に御庭番十六忍衆、簡単にはやらせてくれないみたいね。
このまま、次の攻撃に移行してもいいのだけれどその前に……
「とう!!」
アタシは後ろに跳び退きつつ孫悟朗を捕らえていた縄を断ち切り、彼を引っ張って一旦間合いを開ける。
「礼を言うわ、孫悟朗」
「特攻斎だ! 大人しく捕まってりゃあいいものを!」
木下はそう強がってみせるが、実際今回に限っては彼の働きは価千金だったね。正直、逃げ出す隙きを突く為のきっかけを作ってくれれば良いくらいに思っていたけど、まさか最大の脅威であるマガタマを弾いてくれるとは。
なんの予備動作もなく、自他を瞬間移動させる事ができるのは異界人の「地異徒の術」以上に反則的で、あれがある限り勝負にすらならなかった。その絶望的状況を打開し、逃走どころか反撃の機会まで巡ってくるなんてね!
無論、相手はあの御庭番十六忍衆。一筋縄では倒す事はできないし、油断はならないのだけど……なんか今まで見てきた他の御庭番十六忍衆と比べると威圧感が少ないというか、そこまでの恐ろしさは今のところ感じていない。これは意図的に実力を隠しているからなのかしら……?
「へっ! 宮元住蔵子! まさかお前と肩を並べて戦う事になるとはなあ!」
体勢を整えた孫悟朗はアタシの隣に立つ。
「……いや、アンタ邪魔だから引っ込んでて」
「何!? オイラがいなきゃ縄から抜けられなかった癖して偉そうに!」
いや、それはそうだけど……
隙きを突いて一泡吹かせたとはいえ、あんなのは2度も通じない。鞍馬刑部はマガタマを持っていた事で慢心していたからかまだ六行の技は使ってきていないけど、本格的に六行を使い始めれば孫悟朗など全く相手にならない。むしろ足手まといになるからここからは大人しくしていて欲しい。
「いいからアンタは黙ってて…………て、おおっと!」
鞍馬刑部が無言のままアタシたちの右斜め後方発射した殺界縛鎖に反応し、斬撃を与えて断ち切る。
今回の狙いはアタシたちを捕える事ではなく、床に落ちたマガタマを回収する事……危ない危ない。アタシが孫悟朗を宥めようとしている隙きに再び絶対優位を確保しようとしたのだろうけど、そうはさせない。マガタマを狙ってくるのは最初から読めているし、来ると分かっていれば六行の力を付加できないこの縄に対処するのは容易い。
「ちっ! とんだ失態……あんな雑魚に一本取られるとはな」
「誰が雑魚だ!」
マガタマを簡単には回収できない事が分かると、鞍馬刑部はこちらに向き直る。条件は五分と五分。アタシは初めて異能の戦士・御庭番十六忍衆に一対一で相まみえる。
「どこまでも予想外の事をしてくれる……もうこれ以上計画の不安要素を野放しには出来ん。この手で貴様らを始末してくれるわ」




