第234話 ゲームチェンジャー!(中編)
前回のあらすじ:サシコの前に突如現れた亜空路坊!御庭番と内通する彼の真意とは……
※一人称視点 サシコ
「だが、こうなっては仕方がない。貴様には消えてもらおうか」
……なっ!?
やっぱり、コイツ最初からそのつもりで……
「……と言いたい所だが、君はなるべく生かしておけと言われていてね」
アタシを生かす……?
確かにアタシを殺そうと思えばわざわざこんな回りくどい事をせずとも、以前吾妻榛名がやったみたく、マガタマの力で空高くに空間転移させてしまうなどもっと楽な方法はいくらでもある。それをしないという事は、少なくとも今すぐにアタシを殺すつもりはないという事だ。
しかし、それは一体何故?そして、それは誰が亜空路坊に指示した事なの?
「だったらどうするつもり?」
「くくく……何もせんよ。だが、せっかくの機会だ。少し話をしようじゃないか」
くっ……!
アタシは今そんな悠長な事をしてる時間はないというのに……
「裏切り者の弁解を聞いている程暇じゃないのだけど」
コジノさんは今もあの化け物と戦っていて、すぐに救援に向かわないと彼女が危険だ。しかし、アカネさんの行方が分からぬ今、アタシが駆けつけてもどうにかなるかどうか……だけど、彼女を見捨てる事もできないし……そもそもマガタマを持っている亜空路坊を突破する方法が今のアタシにはない。
まさに八方塞がり。一体どうすればいいのか皆目見当もつかない……太刀守殿……アタシは……アタシは一体どうすれば……?
「裏切り者か……少し違うな。私は最初から御庭番側だ。それに、そもそも各地の反体制組織をまとめて反乱軍にしたのも私の立案した計画。私からすれば、計画から逸脱して勝手な行動を取る君たちこそ裏切り者だよ」
……くっ!
勝手な事をっ!
「なにが計画よ! アタシらを騙してたって事には変わりないじゃない! というか、御庭番側の癖に反乱軍を組織したって何? ワケ分かんないんだけど……」
亜空路坊が最初から御庭番側の人間で反乱軍も御庭番の意思で組織されたというなら解せない事が多過ぎる。【統制者】と手を組む御庭番は少なくとも現体制を転覆させるつもりはないという事だから、帝や統一国家の打倒を目指す壇戸さんや織江さんたち反体制派組織とは主義主張が異なる。大陸全土に散らばる反体制派組織を一箇所に集めて一網打尽にするという事なら、アタシも最初予想していた事だし納得できるのだけれど、彼は貴重かつ強力な兵器「銃」を反乱軍に用意して提供した。その事が大きな要因となって数で圧倒的に劣る反乱軍は共和国軍との緒戦に勝利する事が出来たのだから、矛盾も甚だしい。
「アンタたちの目的って一体何なのよ!」
アタシは真意の読めない亜空路坊を苛立ちながらも問いただす。まともな答えを期待して言った訳ではなかったのだけれど、亜空路坊は意外にもすんなりと自分たちの目的を話し始める。
「くくく……以前に吾妻が話した通りだ。御庭番の目的は純然たる力が秩序を決める正しき世界を再構築する事……反乱軍はその手始め、最初の一歩という訳だ」
…………??
反乱軍が力による秩序の再構築の為の一歩目??
意味が分からない。一体何を言っているの、コイツは?
「おや、分からんかね? 反乱軍の武装蜂起、そしてそれを粛清せんとする共和国軍の抵抗……この力のぶつかり合いを制し、生き残った強者が世界に覇をとなえる。くくく……実に健全な事じゃないか。これこそ我らの求める秩序。活力あふれる闘争の大地……戦国ジャポネシアの復活だ」
……っ!?
「じゃ、じゃあ反乱軍を組織したのは、わざとサイタマ軍と争わせて戦争状態を作る為……?」
「正しく」
そうか……言われて見れば戦争状態にある今のこの状況は「力」が最も求められる世界……すなわち異能の力を持つ御庭番十六忍衆が最も輝ける世界だ。アタシたちは彼らの野望を阻止する為に戦っていたつもりが、計らずも彼らの理想の世界を作る手助けをしてしまっていたって事なの……?
「……イカれてる。アンタたちの勝手な理想とやらの為に始めた戦争で反乱軍に参加した人たちは何人も命を落としたのよ! 彼らの家族だって不幸になった!」
「どのみちキリサキ・カイトへの不満は爆発寸前だったのだ。我らがやらずともいずれ武装蜂起は起こっただろう。そうでなくても弾圧や粛清で彼らの人生は不当に奪われる事になったはず」
うっ……!
それはそうかもしれないけど……
「そう考えれば、大義の為に戦って死ねただけ少しはマシな死に方だったと言えるんじゃないのか? 少なくともキリサキ・カイトに媚びへつらうだけのクズ共が何の抵抗も受けずに、支配階級でのうのうとしているより多少は筋が通っていると思うがね」
たぶん亜空路坊の言っているのは正論だ。彼らにどんな思惑があるにせよ、戦争や弾圧が不可避なのであればせめて大規模な組織として対抗すべきだし、それによって罪なき人の命が奪われる事になろうとも、多少なりとも希望を持って死ねたのなら本望なのかもしれない。
「……アンタたちの思い通りになんかさせない。今は確かに秩序を築くのに力が必要なのは否定しない。でも、サイタマ軍を倒して帝を異界に追放すれば力を必要としない平和な世界が……」
と、そこまで言ってハッとする。
「分かるだろう。そんな世界など訪れんという事は……お前も反乱軍の連中を見たはずだ。話し合いでは何ひとつも決められず、戦場では我先にと功を焦り、一枚岩とはほど遠い様を。今は共通の敵と闘う為に辛うじてまとまってはいるが、それが無くなれば今度は奴らの中で諍いが起こる。諍いは次の争いの火種となり、やがては戦となる。その連鎖が止まる事は決してないだろう」
……何も言い返せない。
亜空路坊の言うとおり反乱軍の中でも主義や思想はまちまちで彼らの意見が話し合いで統一される事はないだろう事は、初めてクギの砦に訪れた時から分かっていた。反乱軍だけじゃない。元々アタシがそうだったようにサイタマ共和国に不満を抱いていても、反乱軍のやり方には反対だって人たちも大陸にはたくさんいる。サイタマ軍と反乱軍の争いがどっちの勝利で終わったとしても、それは変わることはない。だとすればやはり一度点火した争いの炎は無限に燃え続けるのだろうか?
「くくく。まぁ、それもキリサキ・カイトが本格的に介入し始めればご破算。奴一人の力で全てが塗り潰されてしまうかもしれん。そうならぬ為にまだ色々と手を打たなければならない訳だが……と、そんな事よりもだ。お前自身はどうなのだ?宮元住蔵子」
「……えっ?」




