第231話 危険領域!(後編)
前回のあらすじ:コジノ&サシコは膰䳝梵蔵を欺こうと策を練ったが失敗してしまう!
※ 一人称視点サシコ→ガンダブロウ
「ハクオカ理心流『天巌』! "東天紅"!」
膰䳝梵蔵に嘘を見破られた瞬間、コジノさんは即座に攻撃を敢行!空行の斬撃を飛ばすと、膰䳝梵蔵の肩口に直撃する!
「おおっ!!」
奇襲成功!
膰䳝梵蔵の肩は大きく傷つき血が噴出する……あれ?この人、御庭番十六忍衆でも1、2を争うほど強いんだよね?不意打ちに近いとはいえ、アッサリと致命傷を負わせてしまったけれど…………て、ええっ!?
「……なんじゃ、やっぱりお前ら敵かい」
膰䳝梵蔵は六行の技の直撃を受けながらも何事もなかったかのように得物の金棒を構える。そして、コジノさんの攻撃が直撃した肩口の傷がみるみると塞がっていく…………な、何なの!?この異常な再生力は!?
「サシコちゃん! 先に行って!」
コジノさんは膰䳝梵蔵に相対すると、身体を半妖化させて剣を構えた。
「コジノさんは!?」
「できる限り時間を稼ぐけん、その間にアカネさんを解放するんや!」
コジノさんは一人でこのバケモノと戦う覚悟……!
しかし、それはあまりにも無謀だ!
「……っ!」
逡巡……!
コジノさんに加勢して膰䳝梵蔵と戦うべきか、それともこのまま彼女を置いてアカネさんを救出に行くべきか……迷ってる暇はない!
「早くっ!」
「……分かりました!」
アタシはコジノさんを置いてアカネさんを救いに行く方を選択し、膰䳝梵蔵の塞いでいた道の先へと走った。
「おお、逃げたか。情けないが、むざむざ両方死ぬより片方だけでも生き残る方がよいか」
……なんとでも言えっ!
確かにアタシはコジノさんを置いて行くが、彼女を見捨てる訳じゃない!
恐らく今アタシとコジノさんが二人がかりで膰䳝梵蔵と戦っても万に一つの勝ち目もないだろう。だが、アカネさんを解放して3人で戦う事が出来れば話は別だ。何と言ってもアカネさんは異界人。敵を傷つける戦い方を自ら禁じているとはいえ、まともに戦えばどんな六行使いも彼女を倒す事は難しい。
膰䳝梵蔵が先程見せた凄まじい再生力は得体が知れないが、まさか不死身という訳ではないだろう。三池乱十郎のキノコ兵士や六岐蓑亀のように弱点があるはずで、それさえ分かれば対処も可能なはずだ!
であればアタシが今やるべきはアカネさんをいち早く解放して、彼女と共にコジノさんの元に戻る事。それまで何とか持ちこたえてくれさえすれば、今度はこちらが有利になる!何度かの戦闘経験のおかげで、感情に流されずにその状況判断が出来た……これでいいんですよね?太刀守殿。
アタシは後ろ髪を引かれる思いで薄暗い回廊を突っ走る。コジノさんによればこの道は一本道で奥まで進むとアカネさんの囚われている部屋があると言うが……
「あった!!」
道の突き当りに物々しい扉が見えた!
あの中にアカネさんがいるのね!
「エイモリア無外流『武蔵風』……」
モタモタしている余裕はない……一気に扉をぶち破る!
「"蹴速抜足"!!」
風行の力で加速したまま、扉に突進。
扉を破壊した勢いのままに入室し、アカネさんの姿を探した。
「アカネさん! 助けに来ました!」
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「はあっ!」
一気に懐に飛び込んで剣を振り下ろすと、燕木は片腕で槍を巧みに操り斬撃を受け止める。三叉の槍の矛先で刀身を絡めとろうするが、俺は力押しせずすぐさま剣を引き、袈裟がけ、横薙ぎ、突きと連続で斬りかかる。
「……フン!」
燕木は下がりつつ、槍の矛先だけでなく柄の部分も駆使して俺の攻撃を防御。そして、呼吸の切れ目を狙い逆に踏み込み突きを放つ。まともに受ければ剣と槍の重さの差で押し負ける。俺は突きを斜め後ろにいなす様に捌く。燕木が踏み込み過ぎて、重心が槍に引っ張られれば体勢が崩れて隙きとなる……が、燕木は絶妙な押し引きで決定的な反撃の機を掴ませない。むしろ、迂闊な飛び込みを誘っている様であり、クギ湿原で手合わせした時には俺はこの誘いに乗って幾度も手痛い反撃を被った。しかし、もうその手には乗らない。俺は燕木の打ち込みにあえて深く反撃はせず、間合いを調整して槍を打ち込み辛くさせるだけに留めた。
「……フハハッ! 乗ってこないか!」
剣と槍による純粋な武芸合戦は一進一退。技量に大きな差がない者同士が抜き身で打ちあえば、この様にお互いに牽制しあって決定打を欠く事は珍しくない。だが、六行使いの武芸者同士であれば、武器での攻撃以外に六行の技がある。戦場ではお互いに相手の技を知らない事が常であり、初見で打たれる六行の技に完璧に対処する事は至難だ。故に戦いの均衡は六行の技の打ち合いですぐに崩れるのであるが、今回は互いに手の内を知り尽くした者同士の勝負。燕木は俺の『逆時雨』を警戒している故に六行の技をおいそれとは使わないだろうし、俺は相手の六行の技を利用できなければまともに技を放てない。よって戦闘は六行使い同士ではほとんど見られない様なただの武器による攻防に終止していた。この展開は戦う前から予想していた通りだ。やはりこの戦い長引きそうか……
「くくく。懐かしいな」
「……あっ?」
「これでは、まるであの時の試合の様じゃないか」
燕木にしては珍しく戦闘中に無駄口を叩く。
……あの時の試合……そうだ。あの時……俺が初めて燕木に勝った試合も、ちょうどこんな展開だったな。




