第21話 旅は道連れ!
前回のあらすじ:ガンダブロウは二人目の刺客、伊達我知宗を撃破! そして、アカネはからくり人形を通して首都で待ち受けるキリサキ・カイトに宣戦布告をするのであった。
「ああいう、自分だけ安全圏から好き放題な事を言うやつってホント許せないんですよねー!」
御庭番十六忍衆の襲撃を退けた後、虹の泉周辺から引き上げようと荷物をまとめていると、アカネ殿が自ら打ち倒したからくりについて感想を述べた。
「自分がいた世界にもああいう連中ってたくさんいましたケド……言いたい事があるなら自分が目の前に出て来いって話ですよ!」
語気を荒げてこそいないものの、いつも飄々としているアカネ殿にしては珍しく、はっきりと怒りの感情をを示していた。
「裏からを糸を引いて上手く立ち回っているつもりなのだろう……まあ、首都に向かっていればいずれヤツの本体とも会う事になるだろう。人形劇が台本通りにはいかないって事は、その時に教えてやればいいさ」
御庭番十六忍衆の人形使い・能面法師……その正体も気がかりであるが、今は考えても答えは出ない。まあ、今後も御庭番十六忍衆が暗躍を続けるというのなら決着をつける時はいずれやってくるだろう。正体を知るのはその時の楽しみに取っておこうじゃないか。
「さて、もうここに用はない。そろそろ出発を…」
「あっ、あの……」
ふいにサシコに話しかけられる。
「あ、あの……本当にすみませんでした……」
「んっ? 何の事だ?」
俺は満杯に「ハッコーダ草」を詰め込んだ袋を担ぎ上げながら、サシコのほうを向く。サシコの表情はいつになく固い。
「いや、その……さっきのアイツらって、たぶん……というか確実に……あたしの後をつけて来たんですよね?」
「さァー、どうだろう」
「はぐらかしたって分かります! アイツらはあたしが来た途端に姿を現したんだから……そんな偶然て無いですよね?」
サシコの瞳は涙でにじんでいた。牛鬼の襲撃の時もそうだったが、サシコは係る事態に対してずっと無力であった。目の前の困難に対し、何一つ対抗する手段を持ち合わせていないという屈辱感……その姿は、まるで……戦乱の世を終わらせるという信念のもと剣の道を志した、かつての俺自身のようでもあった。
「……まあ、そうかもしれんな」
「うぅ……太刀守殿をお助けするつもりが、敵を呼び寄せる大失態……もう、これ以上ご迷惑をおかけできません!」
そう言うとサシコは背を向け足早に歩き出した。
「待て、どこへ行く?」
「村に帰るんです」
サシコはきっぱりとそう言った。
先程まではあんなに旅に同行したがっていたというのに……この心変わりは心根が純粋すぎる故か。
「馬車と中にある備品は使って下さって結構ですから。私のような足手まといは、目障りでしょうから……もう……二度と目の前には……うぅ……」
ふう、やれやれ……
「いま村に帰ってどうするつもりだ? お前はやつらに顔か割れてしまっているんだぞ。俺たちと繋がりのあるお前が村に帰ればまた奴らに狙ってくれと言ってるようなものだ」
「……」
「やつらの襲撃を受ければ今のお前に対抗する手段はあるまい。それで仮にお前が人質にでも囚われればどうなる? 俺たちは今回以上の迷惑を被ることになるんだぞ」
「ちょ、ちょっと! ガンダブロウさん、言い方っ……!」
「…………その時は……太刀守殿に迷惑をかけるくらいなら……いっそこの命を…」
「ならん!」
バカな事を言い出すサシコに俺は強い口調で叱りつけた。
「己の命を軽々しく扱うな。命を投げ出す覚悟というものは……」
そこまで言って、かつてキリサキ・カイトと相対した時のことを思い出した。主君を、姫君を、守ることもできず無様に地に伏したあの時のことを……
「……命を投げ出す覚悟というものは、もっとしかるべき時に取っておくものだ」
そうだ。屈辱の中、どんな卑しき立場に落とされようとも、生き長らえれば反撃の機会はある……俺は自分自身に言い聞かせるようにそう言った。
「それにお前の身に何かあれば悲しむ者がいる事も忘れてはならん」
「……では……では、一体どうすれば?」
「サシコ、お前には俺たちの旅についてきてもらう」
「……え!?」
サシコはハッとなって顔を上げた。その表情は驚きと戸惑いに満ちていたようであった。
「合理的判断だ。俺の目の届くところなら俺の剣で守れるからな」
「で、でも、あたしは……あたしが付いていけばまた太刀守殿に迷惑をお掛けしてしまうやも……剣術も陰陽術も出来ない……あいつらに対抗出来る手段は何一つ……」
「ああ、だからこれから強くなってもらう」
「え?」
「旅をしながら剣術を教える」
サシコの表情がみるみると晴れていく。
ふう、本当は気乗りはしないのだがな。戦乱の治まったこの時代に若いオナゴなどは戦わないに越したことはない。剣術とはつまるところは殺し合いだ。サシコをそんな血なまぐさい世界に引き込むのは本来なら避けたかった。だから当初は旅への同行も拒絶したのだ……故にサシコの憧憬の視線にはまっすぐ見つめ返すことは出来ない。
「一応約束でもあるしな」
「あ、あ…………ありがとうございます! 宮元住蔵子! 全霊で太刀守殿のご指導をお受けします! 」
アカネ殿の方をちらりと見やる。
うんうん、と頷いて彼女もどこか満足気であった。
ハア、人の気も知らないで……
「さあ! そうと決まればすぐ出発だ! まずは、すぐ南の町ヒロシンキに向かうぞ!」
こうして旅に一人の仲間を加え、首都ウラヴァをめざす徒然なる珍道中はまだまだ続くのであった。




