第226話 トロイワ砦の攻防!(前編)
前回のあらすじ:トロイワ砦に潜入したガンダブロウに御庭番番候補の手練たちが襲いかかる!
「ちっ! やるしかないか!」
犬叉率いる御庭番候補者と思しき六行使い軍団との戦闘が始まりそうになったその時──
「水行【黄壓欠泉】!!」
犬叉と俺たちのちょうど中間あたりの地面から突如として石畳をぶち抜いて水流が吹き上がる!
これは……また新手か!?
「うぶあああっ!?」
先程石畳に潜って俺の足を掴んだヤツが、潜伏していた足場を破壊した水流に巻き込まれてその勢いのまま天井に激しく叩きつけられる!浅黒い肌に縞模様の入れ墨のある男だが、天井にめり込んだ状態で失神し、戦闘不能となった。
「ああっ、なんじゃこらあ!?」
犬叉もこの突然の事態に驚いた表情を見せる。
むむ……この犬叉の驚きようと、敵も巻き込まれた事から見るに、この攻撃は一連の奇襲とは無関係か。では一体誰がこの術を放ったのか?
そう思い、石畳に空いた大穴から階下を覗き込むと……
「ちょ……浄江沙湖! アナタ、手っ取り早い方法てこれの事なの!」
聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。
「そうそう。だって階段の場所とか分かんないし、壁が崩れた位置の下辺りでこうやって穴あけちゃうのが一番早いじゃん?」
「太刀守殿に当たったらどうするんですか〜!」
無鉄砲に陰陽術をぶっ放した術者を怒るこの甲高い声……間違いない!
「サシコ!? 何故ここに!?」
そこにいたのは紛れもなくサシコであった。
そして、彼女と共にいて今の陰陽術を放ったのは踏越死境軍の浄江沙湖。そして、その周りには地備衛たち他の踏越死境軍の者たちもいた。
「たっ……太刀守殿!! それに……コジノさんも!!」
サシコもこちらに気がつく。
「サシコちゃん……!?」
コジノちゃんも突然現れたサシコたちに驚きを隠せないでいた。
ぬぅ……なんだこの状況は?
一体何が起きているのだ?
頭が状況に全く追いついていかない……
「なんや貴様ら!? 太刀守の仲間かァ!?」
犬叉は混乱した様子だが、無理もない。俺自身、何故彼女たちがここにいるのか分からぬのだから。
だが、今はあれこれ推察したり深く考えているような余裕はない。
「コジノちゃん!」
俺がコジノちゃんに視線を向けると、彼女の方も俺の意図を察したのかこくりと頷いてみせる。敵が呆気に取られているこの隙に一旦サシコたちと合流して体勢を立て直す……という目的のため俺とコジノちゃんは空いた大穴からサシコたちのいる一層下へと飛び降りた。
「あっ! おどれら待ちやが…」
遅れて反応した犬叉たちが俺たちを追って来ようと大穴に向かってきたその時……
「おっ! 強そうな敵はっけーん! とうっ!」
「ワシらもようやく暴れられるのお!」
踏越死境軍の沙湖と紅孩が俺たちと入れ替わるように大穴から上の階へと飛び移り、犬叉他残り4人の六行使いたちに戦闘を仕掛けた。
「水行【打止泳弾杓子】!!」
沙湖はオタマジャクシ型の水行の式神を四方八方に放つ。
「ぐぅっ!!」
犬叉たちは乱入した踏越死境軍の二人によって足止めされ、俺たちを追ってくる事ができない……よし、この隙にサシコと合流しよう。
「ああっ……ちょっ……待って! オイラもそっちに……」
六行が使えない孫悟朗は上階に飛び移る事が出来ず、階段を探して走り去る。
むう……あやつが敵の六行使いがそこかしこにいるこの砦で単独行動するのは危険極まりないが、今はヤツを気にしてる余裕はない。
「太刀守殿!! アタシ、アタシは……」
サシコに合流するとサシコは何やら色々な感情を抑えきれない様子で何かを話そうとして口淀んでいた。そして、その横には猪村地備衛が神妙な顔でおり、何故か他の踏越死境軍の動きには追従しない。
どういうつもりだ?
……まさか、この後に及んでまた俺に攻撃を仕掛けてくる気か?今のところ呪力も殺気も放ってはいないが……
「なんだ? さっきの音は」
「侵入者どもめ! こっちにいるぞ!」
今の騒ぎに呼応して砦内の守備兵たちも集まってくる。
いよいよ面倒になってきたぜ。
「話は後だ! とりあえずここを離れよう!」




