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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
224/262

第222話 夕暮の襲撃者たち!

前回のあらすじ:コジノの手引で砦に侵入したガンダブロウ。その背後から迫る影あり……


※一人称視点ガンダブロウ→三人称視点


「危ない!!」



 突如として背後から迫る攻撃!


 俺とコジノちゃんは寸でのところで横っ飛びして、放たれた六行の技──狼の姿を象った式神の突進──はそのまま砦の壁に衝突、貫通して虚空へと消えた。



「ほー、今のをようかわしたなァ」

 


 振り返るとそこには先程去っていったはずの犬叉狂志狼(イヌマタキョウシロウ)がいた。犬叉の手には青く巨大な獣の爪が装着されており、それが戦闘用の触媒であると思われた。



「……何の真似や」



 コジノちゃんは犬叉をギロリと睨みつけると、腰の剣に手をかけ臨戦態勢を取る。



「ウチを倒して御庭番になる為の実力を証明する気か?」


「へっへへへ! それもあるが……」



 犬叉は自身の鼻を親指で軽くこするとスンスンと匂いを嗅ぐ仕草をしつみせた。



「ワシは常人より数十倍は鼻が利く。近づけばそいつのあらゆる情報……それこそ呪力量や六行の属性まで手に取るように分かるんやが……」



 そう言うと犬叉は俺の方をビッと指さす。



「アンタ、相当な呪力の持ち主だね。隠してても無駄や。足運びや筋肉の発達から見ても六行使い……それもかなりの達人だと分かる。それなのにアンタ、こんなに近くにいても全く六行の匂いがしない。通常なら畳二十枚隔てても分かるのに……」



 こやつは恐らく識行使いだろう。しかもマキ以上に感知能力か高い性質を持っている様子。とすると俺の六行を持たない特異な体質に気付いて違和感を覚えたとしても不思議ではない。しかし、それだけでは怪しまれたとしても砦内でいきなり奇襲を仕掛ける程の理由にはならないはずだが……



「ワシは一度だけこの性質を持つ男を見た事がある。かつてダイハーン軍の兵士としてフューゴとの戦争に従軍しとった時、遠目に見た一人の若い剣士──その男は膨大な呪力の気配を感じさせながらも六行の匂いが一切せん。それやのに凄まじい剣技を使い、次々と仲間たちを斬り伏せていきよった」



 !?

 こいつ……まさか……!?



「いやあ、あれは衝撃やった。今でも思い出すと寒イボ立つわ……へへへ! あの時はソイツもワシもまだ無名やったが、いずれ大陸に名が知れ渡るゴッツい剣士になると確信しとったで」



 ……まだお互いに名が知れていなかった時代、戦場ですれ違っていたのか。相縁奇縁……この旅では本当に様々な因果が巡ってくる。これも戦場で背負った業の1つか。



「……どうして太刀守がここにおる?」



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 所変わってさきほどガンダブロウとコジノが通過したトロイワ砦の正面口。



「……なあ。見た?」


「はい?」



「さっきここ通った武佐木小路乃(ムサキコジノ)ちゃんだよ。どうだった?」



 交通の要衝からもはずれたこの砦は基本的には人の出入りは少なく、反乱軍が迫っているとはいえ戦略上はほとんど意味を成さないこの地では兵士たちの仕事は少なく、本来ならば警戒態勢にあるべき門番の兵士たちが暇を持て余し、こうして他愛ないおしゃべりに興じる事も珍しくなかった。



「あ、はい。自分、初めてお顔を拝見しましたが……まるで妖精の様に美しかったです」


「だろ? 言った通りだろ?」



 先輩と思しき中年の門番が、若い兵士に得意げに語りかける。



「こんな所にいても娯楽なんかほとんどないけど、俺ら見張りはあの人を見るのだけが楽しみでさ〜。今日話しかけられてホントよかったよ〜」


「あ、今度自分も話してみてもいいっすか?」


「ダメダメ。新入りは黙って扉の開閉だけ…」


「おいそこ! 私語は慎めよ!」



 二人の様子を見かねて門番の兵士長が注意を促す。



「ここは砦なのだぞ。門番たる者、常に気を張り、周囲の警戒を怠ってはならぬ」


「いや、そうは言いましても兵士長。こんなところに敵襲などあるはずないじゃないですか」


「……むぅ」


「反乱軍の連中はこんな所来る暇あったら首都を直接攻めるでしょう。それに今この砦には何故か御庭番の方々がおりますから、例え敵襲があっても彼らが……て、どうした?」



 と、敵襲どころか敵の大将を城内に通してしまった事など露知らずノンキな会話をしていると、新人門番がある異変に気付く。



「あ、いやその……なんか聞こえないですか? 遠くから何か……近づいてくる様な」


「え?」



 そう言われて先輩の門番たちも耳を立てて音に集中。

 すると風を切る様な遠鳴りが次第に砦に接近してくるのをここでようやく門番たちが認識したが、時に既に遅し。音の主は既に日の落ちて来た夕暮れの空から凄まじいスピードで砦のそばまで迫ってきていた。



「…………〜〜ゲ〜〜コ〜〜〜〜!!」



 ズダン!!

 と地面に着地してのは体長10メートル以上はあろうかという巨大ガエル。そして、その背中には数人の男女が乗っているのが確認できた。



「はい! 到着〜!」

「ゲ〜コゲコ!」



 黒い外套の若い女性が先陣を切って蛙の背中から降りると、続いてゾロゾロと他の者たちも地面に着地する。 

 


「すごい。まさかこんなに速く着くなんて……」


「ね? だから言ったでしょ? 暴邪ちゃんの方が馬よりずっと早いって」


「いやあ〜! 驚きっす! こんなデカイ蛙、オイラの地元にゃいなかったっすよ……は! まさか、これが噂に聞く……キリン!?」


「いや、蛙じゃろ」



 この異常事態に門番たちは当然ながら混乱する。



「あ、あ、妖!? 先輩……あれは一体?」

「お、落ち着け! きっと御庭番の関係者の方だ! そうに違いない……!」



 そう言って門番の1人が恐る恐る接近し、所属不明の集団の身分を検める。



「あ、あの! あなた方は一体……ど、どちらの所属でしょうか?」


「……おや? 見て分かりませんかな?」


「は、はい! 申し訳ありませんが、どのような地位の方でも門を通る時には身分をお答え頂く決まりになっています!」


「ああ、これは失礼。我々は……」



 禿頭の中年男が頭をぴしゃりと叩いて、あくまでゆっくりと丁寧に言葉を返す。



「敵襲です」


「て……敵襲〜!!」


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