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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第218話 心慮の行方!

前回のあらすじ:しばしマキと語りあったガンダブロウは彼女との問答に最後まで答える事なく一人野営地を後にした。


※一人称視点 サシコ



「おっ! 宮元住蔵子じゃねーか!」


 

 反乱軍の野営地。

 サイタマ軍より奪取したこの地では、見張り役を除いてほとんどの兵たちが武装をとき、思い思いの場所で酒を飲んだり談笑したりと弛緩した空気が漂っていた。昼間に凄惨な戦が行われていたのと同じ場所とは思えぬほどであるが、その惨劇の中心にいた当事者の一人に声をかけられる。



「なによ、孫悟朗」 


「だから孫悟朗じゃねえ! 特攻斎だ! 木・下・特・攻・斎!」



 踏越死境軍(モータルフロント)の青年、木下孫悟朗。最前線で無謀な戦闘を繰り返し、多数の戦死者を出した踏越死境軍(モータルフロント)の中にあってコイツは運良く生き残っていた。正直彼が六行使いやからくり人形や(アヤカシ)たちが乱舞する戦場から碌な戦傷もなく生還出来たのは奇跡と言えた。



「……今忙しいんだけど、何か用?」


「オイ、連れねえな! オイ! せっかくの祝勝会だってのにな、オイ!」



 孫悟朗の右手に酒を持っており、赤らんだ顔からもしこたま呑んでいる事が伺えた。

 祝勝会て……まだ戦いが終わったばかりで、事後処理の真っ最中なのに。司令部が飲酒を許可するはずもないし、つまり彼らは作戦中に許可なく宴会を開いているのだ。まだ働いている者たちもたくさんいて、かくいうアタシも今周辺地域の哨戒から戻ってきたところ……全く彼らの無思慮と身勝手さには呆れるばかりだけど、もとより作戦を全部無視して勝手に戦端を開いてしまうような連中だし、この程度の規則違反は今更か。それにまあ、今回の勝利には彼ら踏越死境軍(モータルフロント)の功が大きいのは否定出来ないし、酒を飲むくらいは大目に見てもいいのかしら。



「おやあっ! 誰かと思えば、一番隊の隊長殿じゃないの!」



 と、孫悟朗の後から声をかけてかきたのは踏越死境軍(モータルフロント)の術士・浄江沙湖だ。彼女は普段編笠のように頭に被っている赤い盃で酒を呑んでおり、その量が尋常のものでないのは酒を知らないアタシにも分かった。



「隊長さんの戦闘見てたよー! めっちゃ強くてビックリしちゃった! どう? 貴女ウチに入ってみない?」


「はぁ!?」



 何を言い出すかと思えば、まさかの勧誘!

 アタシがこんな頭のおかしい戦闘狂どもの仲間に?

 …………い、いや、あり得ないでしょ!



「姐さん、本気っすか!?」


「だって今回の戦いでだいぶ頭数も減っちゃって寂しいじゃない?」



 確かに彼らは今回の戦闘で半数以上が戦死して兵員が不足している。仲間の補充をしたいのだろうけど節操がないにも程がある。



「私惚れちゃったのよ〜、サシコちゃんカワイイし、強いし! それに案外素質もあるかも……ねえ、三蔵寺!」



 沙湖は隣で静かに猪口を口に運んでいた禿頭の壮年の男に問いかける。

 踏越死境軍(モータルフロント)の首領格で、一応はこの反乱軍の十三番隊隊長という地位にある三蔵寺法春という男だ。



「ええ。サシコさんなら大歓迎です」



 三蔵寺は狐のような細目を更に細くして柔和な笑みを浮かべた。

 一見穏やかで人の良さそうな風体だが、戦場では凄まじい火行の剣技を使い、クギ湿原での戦闘では踏越死境軍(モータルフロント)で唯一燕木哲之慎の技に対応出来ていた事から、恐らくは踏越死境軍(モータルフロント)最強の使い手と思われる。



「だってさ! サシコちゃん、踏越死境軍(モータルフロント)にようこそ!」


「いや、入りません! アタシは貴女たちの様な戦闘狂じゃないですから!」



 アタシはそう言いつつも戦場で感じた得も言われぬ様な高揚感を思い出す……無惨な屍と断末魔と死臭とがこれでもかと五感に不愉快さを刻む中、微かに感じた甘美な愉悦。特に戦場で好敵手と定めたコジノさんと相まえた時、脳髄を突き抜けた刺激が不快なものではなかった。きっとその快楽を求めた先にいるのが彼ら踏越死境軍(モータルフロント)であり、アタシも一歩間違えば彼らと同じになってしまう。そう気付いた時、背筋が凍る思いがした。


 それを自覚しているらこそアタシは彼らを否定し続けるし、太刀守殿がアタシをなるべく戦いから遠ざけようとしたのも分かった様な気がした。



「それはもったいないのお。せっかく素晴らしい眼を持ってるんじゃから、思いのままに戦場を楽しめばよいのに」



 そう感想を述べたのは火行使いの老術士・紅孩童子だった。



「えっ、アタシのこの眼について知っているんですか!?」


「フェフェ……まあ、少し……聞き齧った程度じゃがの」



 アタシの両眼は「龍の玉視」とかいう特別な眼で、自覚はないけど人並み外れた呪力を秘めてる……らしい。でも、玉視についてはコジノさん曰く、統制者や統制者と協力関係にある御庭番十六忍衆などごく一部の者にしか知られてない秘匿情報という。現に太刀守殿や吉備牧薪にその話をしても初耳だった。それを知っているとは……この人は一体……?



「それをどこで知ったんですか? アナタは一体何者なんです?」


「話しても良いが、よいのかの? 何か急いでいた様じゃったが」


「……あっ! そうだった!」



 紅孩に言われてハッとする。

 そう……アタシはこんな所で油売ってる場合じゃないのだ!



「そうだ、アナタ達、たちのか……じゃなく、総大将の姿を見ませんでしたか?」


「村雨ガンダブロウ? いや、見てねえが」



 アタシの質問に孫悟朗が素っ気なく答える。



「総大将なら司令部の帷幕にいるのではないですかな?」



 三蔵寺がそう付け加えるが、事はそう単純な話ではない。



「いや、帷幕にはさっき行ったけど、どこにも姿が見当たらなくて……」



 そう。

 アタシは太刀守殿を探していたのだ。


 哨戒から戻って報告の為に帷幕に戻ると、そこに太刀守殿の姿はなく他の隊や参謀たちも居場所が分からないのだという。どうやら吉備牧薪と陣地を見回ると言って出ていったのを最後に行方が分からなくなった様で、もう少し待てば戻ってくるだろうとの事だったけど……いや、まさかね?あれだけアカネさんへの想いを理由にアタシの事を拒絶したくせに、まさかあの女とどこかでシケ込んでいるなんて有り得ないと思うけどね?ここはちょっと前まで敵陣だった訳だし、刺客が潜んでいる可能性もあるし、万が一を考えたら探して安否を確認するのが部下の努めだから……



「奴なら恐らくもうここにはいないぞ」


「……えっ!?」



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