第214話 6つの光!
前回のあらすじ:巨大亀の神話級妖・六岐蓑亀が出現!
※今回もまた三人称視点です
「アイツは6つの頭すべてに独立した呪力源があり、別の頭が破壊されるとすぐにどこかの頭が呪力を供給して再生を行う……と確か文献にはあった! つまり……」
「6つの首を同時に落とせばいいって訳か!」
マキの説明を聞くなりガンダブロウは飛び出し、六岐蓑亀に接近。熱線による攻撃を回避しつつ懐に入ると、そのまま高く跳躍して蛇の頭のような6つの首に連続して斬撃を浴びせる。目にも留まらぬ早技……が、斬撃にはわずかなタイムラグがあり、首は瞬時に再生。呪力の供給を断つことは叶わなかった。
「ヴヴヴアァアァアァア!!」
六岐蓑亀は反撃の熱線を放射し、ガンダブロウは回避しつつ間合いから離れる。
「ちっ、六ヶ所同時ってのは意外と難しいな……」
さしものガンダブロウでも30メートル以上の動く巨大生物に六ヶ所同時斬撃を加えることは難しかった。
「アタシも助太刀します! せーので合わせて首を斬りましょう!」
乱射される熱線を呪力を分散させる黒剣・天羽々切で防ぎつつサシコがそう提言するが、マキは「いや、それでもまだ確実じゃないわ」と更なる戦力配備を示唆する。
「ちょっとそこの命令違反ども!」
マキは同じく六岐蓑亀との戦闘に苦戦していた沙湖たち踏越死境軍に呼びかける。
「アンタたちも一応反乱軍でしょ! アレを倒すの手伝ってもらいましょうか!」
マキの呼びかけに踏越死境軍の面々はそれぞれ反応を示す。
「あっ!? なんだと!?」
「うふふ。助けてくれっていうのね?」
「フェフェフェ……さてどうするかの、法春?」
紅孩に判断を求められた三蔵寺は一考してから答えを出す。
「あの妖が目障りなのは我らも同じ。命令されるのはシャクですが、利害が一致するのなら協力しましょう」
自他ともに認める戦闘狂の踏越死境軍ではあるが、そのリーダー格である三蔵寺の求める戦闘はあくまで対人戦闘が基本。燕木や他の御庭番との戦いを期待していた彼らにとって明確な意志を持たずに暴れるだけの妖は今回の戦では単なる邪魔者でしかなかった。
「よーし! それじゃ今から村雨くんが、アイツの首の一つに攻撃をするからアンタたちもそれと同時に別の首を攻撃してもらいましょうか!」
マキがそう指示を飛ばすと、
「俺たちに指図するんじゃねえ!」
と、わけも分からず反発する孫悟朗を除いて手練れの六行使いたちはその意図を即座に理解した。
「……なるほど、考えたのう」
「いいじゃないの? 連携攻撃。なんか仲間って感じじゃん」
「参謀長殿の仰せに従いましょう」
ガンダブロウ、サシコに加えこれで六岐蓑亀の6つの首のうち5つの首への攻撃担当は決まる。あとは残る1つの首への攻撃者であるが、六行使いではない孫悟郎は論外として識行使いのマキも純粋な破壊力を出す術は持っていない為、あと1人手練れの六行使いが必要であった。
「……俺もやるぜ」
とその時、ふいにもう一人が協力を申し出る。
ガンダブロウが振り返るとそこには『逆時雨』を受けて叩き伏せられていた猪村地備衛が立ち上がってきていた。
「大丈夫なのか?」
ガンダブロウがかけた言葉にはまだダメージが残りふらついている地備衛がまともに技を出せるのかという意味と宿敵である自分と協調して戦えるのか、協力するふりをして背中から攻撃するつもりではないのかという2つの意味があった。
「ふん、お前とケリをつけるのにあのデカイのは邪魔だからな」
確かに地備衛は本来は残虐非道な男で人を不意打ちする事に躊躇いのあるタイプではなかったが、ことガンダブロウとの対決には自身の流派の強さを証明するという目的があり、少なくとも人の目がある場で騙し討ちして勝利する事を望んではいなかった。
「お前を斬るのはその後だ」
「……そうか」
ガンダブロウは短くそう答えると、サシコと他の踏越死境軍の面々を一瞥してターゲットに向き直る。
「ヴアアアアァアァアァ!!」
六岐蓑亀は咆吼と共に熱線を照射!
ガンダブロウの目の前の地面に命中し、土煙か高々と上がる!
「では、行くぞ!」
と同時にガンダブロウも大地を蹴って六岐蓑亀に向かい跳躍!
すかさず草薙剣を抜いて必殺技の予備動作に入る!
「エドン無外流『逆時雨』……秘剣!!」
そして、ガンダブロウの掛け声に呼応してサシコ、地備衛、沙湖、紅孩、三蔵寺の5人も追従。6人それぞれが妖の別の首に照準を合わせ、全く同じタイミングで技を放った。
「"玄武甲返し"!!」
「"瑞穂速総"!!」
「"唐竹・暴呀"!!」
「水行【導弾杓子】!!」
「火行【天道球】!!」
「"阿愚尼観世音"!!」
6人の六行使いが発した呪力の閃光は六岐蓑亀の6つの首を同時に貫き交錯!激しい光を放って爆ぜる!
「ヴエエエエエエエエェェ〜ッ…………!!!!」
呪力の供給源を全て絶たれると、この神話級モンスターといえど耐えきる事は出来ず断末魔の慟哭と共に地面に倒れ、その後煙となって霧散した。
──後にサイタマ戦役と呼ばれることになる反乱軍とサイタマ軍の戦争の中で特に重要な戦いの1つと目されるアラール川の戦いはこうして終結した。
踏越死境軍の命知らずの奇襲、無線人形の大部隊、新兵器である銃の登場、大将同士の直接対決、そして妖の乱入。様々な要素で語られる事になるこの戦いを一言で評する事は難しく、まさに混沌といった言葉が相応しい。しかし、これが大陸全土を揺るがす大いなる混沌のまだほんの序章に過ぎないのだという事は、この時点では誰も知る由はなかった。




