第210話 真打・二振り!
前回のあらすじ:戦の趨勢が決しようとする中、サシコは再び最前線へと向かう!
※一人称視点 コジノ
「ハクオカ無外流『天獅咆』……"纏雷・奈羅針爆"ッ!!」
「くハァッ!!」
半妖化した状態で渾身の技を放つと、踏越死境軍の鉄扇使いの女戦士はやっと倒れた。
「お……お嬢ちゃん、強いわねぇ……面白い戦いが出来て……楽しかった……わ……!」
そう満足そうに呟くと女は息絶えた。
「ハァ、ハァ……これで5人……!」
踏越死境軍との戦闘。
敵が望んでいた事もあって一対一の形式で戦いを繰り返し、師匠に言われた目標の5人をなんとか撃破する事が出来た。
彼ら一人一人の戦闘力は非常に高く、一筋縄ではいかない相手ばかりであった為思いの外消耗は大きく、恐らくは半妖化による呪力・身体能力の底上げがなければ5人を倒すことは出来なかっただろう。
「お〜っ! あの娘もやるわね〜!」
「フェフェフェ! 儂ら全員あの小娘一人に殺されてしまうかもしれんのォ!」
しかし、まだ敵は7人も残っている。
彼等も先の黒子人形どもとの戦闘で消耗しているが、果たしてあと何人くらいまで倒せるか……全員倒すには一人あたりに使える呪力は多くはないが……
「くそっ! もう我慢ならねえっ!」
相手の戦闘力を推し量りつつ呪力消費の皮算用をしていると、踏越死境軍で唯一呪力を全く感じない赤茶色の髪の青年が一歩前に踏み出す。
「次、オイラが行きます! 先輩たちの仇をこのオイラに取らせて下さい!」
青年は槍を構える……が、やはり呪力の気配は微塵も感じられなかった。
「おお、いいねぇ! 六行も使えないのに、今の戦闘を見てて怯まないとは! いやあ、アホだね〜!」
「ヌハハ……その粋やよしだ。屍は拾ってやるから死んでこいや」
仲間からも戦闘力の評価は低いようだし、実力を隠してる訳ではなさそうだ。単なる身の程知らずの馬鹿……こんなやつ倒してもなんの足しにもならないんだけど、考えようによっては消耗した呪力を回復させる為の時間稼ぎにはなるやも。
と、新たな戦略を頭の中で考えていると……
「茶番はそのくらいでよかろう」
後でウチの戦いを観戦していた燕木師匠が踏越死境軍との間に割って入る。
「コジノ。とりあえずは及第点だ。しかし呪力量の管理がまだまだ雑だな。玉視と半妖化に頼ってばかりのゴリ押しでは手練れとの連戦で呪力切れになる」
「……ハイ」
師匠の指摘は全くそのとおりばい。
今回はたまたま一対一の戦いになっているけど、戦場では一対多、多対一の戦いが常であり、敵の数も実力も未知数の状況で戦闘を継続させなければならない事もある。ウチの「玉視」はサシコちゃんの「龍の玉視」と違って飛び抜けて高い呪力がある訳ではないし、状況を見ながら呪力を節約して戦う術を身につけなければいけない。
「俺が手本を見せてやるからよく見ていろ」
師匠はそう言うと愛槍・鳥雷傅を構えてスタスタと踏越死境軍に向かって歩いていく。
「お、ついに真打ち登場か!?」
残りの踏越死境軍の連中も師匠は別格の敵と認識しているようで、師匠が動いた事に敏感に反応を示す。
しかし、師匠の方はというと……
「残りの奴ら。面倒だからまとめて掛かってきていいぞ」
と、彼らに対して特段の興味を示さず、その他大勢の敵と同列に扱う。
「カッ! 舐めてやがるな! だが、そう言うんならこの金糸丸と……」
「羅銀寿が遠慮なく、やらせてもらうぜ!」
そう宣言した2人の男が師匠の前に飛び出し、それぞれの武器……巨大な鎖鎌と鎖鉄球を高速で振り回し師匠に攻撃をしかける。その速度は凄まじく、その攻撃の軌道を目で追う事は難しい。またそれだけでなく、交錯しないぎりぎりの距離で2つの得物を旋回させる事でその幻惑効果を増している。
恐らくこの2人は普段から連携して戦う事に慣れているのだろう。
だが……
「……んな!? 攻撃がまったく……」
「当たらねえだと!?」
師匠はその嵐のような激しい攻撃の合間をまるで散歩でもするかのようにスルリと歩いて抜けると……
「ダイハーン無外流『飛燕翼』……"飯綱燕"!!」
すれ違いざまに槍をブン、ブンと2度振るう。
「「 あっ……ぎゃあああっ!! 」」
直後、金糸丸と羅銀寿の身体は真っ二つに分断!踏越死境軍の猛者二人をまたたく間に瞬殺してみせる!
今の技は師匠得意の飛燕・三段刃の一つ……見えないかまいたちを放って遠間の敵を「断ち斬る」斬撃だ!今回は中距離程度の位置から間合いの広い武器を使う敵が相手……遠間から今の技を撃ち込む事も出来ただろうが、その分命中精度と威力を上げねばならず呪力の消費も大きい。あえて相手の懐に飛び込み、出力を抑えた遠間用の技で仕留める事で、ウチに戦い方を教えてくれたのだ。
師匠は玉視も持たず、また片腕片目のないハンデを追っている。それでも無駄のない身のこなしと効率的な呪力の使い方で並の六行使いを瞬殺できる程の力を発揮するのだから、やはり師匠には学ぶべき点が多い。
「いや〜ん、イケメン!」
「へへ! やるなァ、槍守!」
残った踏越死境軍5人のうち、禿頭の恐らくは首領格の男を除いた4人が師匠の周りを囲うように展開する。1人は六行使いではないので論外としても、老術士、女術士、巨漢の剣士の3人は踏越死境軍でも頭一つ抜けた強豪と推察できる。彼らとはクギ湿原でも戦りあっているが、技を一度見られている以上何らかの対策は用意しているだろう。恐らくそれでも勝つのは師匠だろうが、あの時と同じ様にいかないのは明白……果たしてどのように戦うのか……
と、踏越死境軍との戦いが最終局面に差し掛かったその時!
「エドン無外流『逆時雨』……」
とてつもない呪力の気配に、全員が一斉に振り返る。
「秘剣"百鬼夜行返し"!!!!」
火行、土行、水行、風行……いくつもの六行の属性が入り混じった洪水の如き呪力の暴流が戦場になだれ込む!
「「「 おおおおおおおおっ!! 」」」
その場にいる全員に範囲が及ぶ凄まじい攻撃……!
敵も味方も関係なく、荒れ狂う呪力の暴流からは逃げるしかなく、一時戦闘を中断して各員がそれぞれ回避に専念した。
「ぬおおおっ! なんだこりゃあっ!」
流石に手練れ揃いである。
やや離れて見ていたウチと同様、攻撃が届く前に反応してそれぞれ退避に成功する。非六行使いの青年も運良く難を逃れたようだ。
「ちっ、流石に仕留め切れんか」
先程師匠が見せた最大限呪力を節約した無駄のない攻撃とは真逆の極致……呪力の出力にものを言わせた無差別攻撃!
通常、自身の呪力だけではこのような高範囲・高威力の技は乱発できないが、他人の六行の残滓を利用することで自身の負担を顧みずにこのような超大な技を放つ事ができる男がいる。
「ハハハッ! まったく容赦ないな!」
ジャポネシアで最強の武芸者に与えられる太刀守の称号を受け継ぎし者……
「しかし、それでこそだ……村雨!」
「決着をつけに来たぞ、燕木!」




