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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第209話 狙撃部隊!

前回のあらすじ:コジノを前にやむなく撤退を余儀なくされるサシコ。しかしこの退却は敵軍を誘い込む罠であった。


※一人称視点 サシコ



「見つけたぞ! 追え追えー!」



 背後から怒号が聞こえる。

 サイタマ軍が逃げるアタシたちを追撃してきたのだ。



「よし、きたな!」



 アタシと共に撤退する部隊の最後尾にあって後背のサイタマ軍の様子を伺っていた織江さんは彼等が血眼になって追ってくるのを確認するとわざと逃げる速度を落とす。サイタマ軍の攻撃を誘っているのだ。この辺りで彼等に補足されるのは狙い通り。あとはさりげなく距離を詰めつつ、予定の地点まで彼らをおびき寄せれば……



「今だ!」



 川と切り立った断層帯に両側を囲われた横幅の狭い地形。その断層帯の上で一列に布陣していた反乱軍の兵士たちが顔を出した!



「なっ……伏兵だと!?」



 敵が伏兵の出現に気を取られて追撃の足が緩む。

 

 そして、逃走していたアタシたちの部隊の前方にも味方の増援が現れるとその部隊と合流してすぐに反転、逆撃体勢を取った。



「囲まれた!? これは罠か……!?」



 右側を川、左側の崖の上と正面を敵に包囲されサイタマ軍は完全に足を止めて狼狽しはじめる。



「怯むな! 自陣側ならまだしも敵陣の、しかもこの兵力差でまともな包囲網など築けるものか!」



 敵の部隊長と思しき男が味方を叱咤する。


 確かに彼の言うとおり、自陣の拠点ならまだしも数の少ないこちらが敵地側に即興で包囲陣を敷いたとしても戦術的に充分なだけの囲いが作れるわけもなく、それどころか部隊を分散配置して布陣を薄くした分敵の突撃に対して脆く、分断されて兵の統率を失ってしまう危険まで伴う。



「構わんから、このまま直進して逆に奴らの部隊を粉砕してやれ!」



 敵の指揮官はそれなりには用兵を理解している様で、その事に気づいて突撃を指示した。側面からの攻撃は無視して、正面突破を計ろうというのだ。その判断は概ね正しいと言える……が……



「撃ち方用意!!」



 アタシたちと合流した部隊を指揮していた亜空路坊(アクロボウ)が指示を飛ばすと、数十人ほどの部隊が前衛に展開し向かってくる敵に対してそれぞれが携行していた筒状の射撃兵器……"銃"を構えて的に狙いを定めた。



「撃てぇい!!」



 亜空路坊(アクロボウ)の号令と同時に、何発もの火薬が弾ける耳障りな破裂音が鳴り響く。



「ぐわ!?」

「げはァっ!」



 すると突撃してきた敵部隊の前衛は次々と血を吐いて倒れていく。そして更に後続の部隊も前衛部隊が倒れた事で狭い地形の中を直進ができなくなり、再び追撃部隊の足が止まった。



「なんだ!? 矢で射られたのか!?」


「ち、違います! 敵の一団が持つ細い筒のようなものから何かが発射され、それに味方が次々と討ち取られております!」


「六行の技……!? いや、大砲を小型にして弾丸を射出したのか!?」



 銃。


 引き金を引く事で鉄の筒から弾丸を発射して攻撃する兵器。


 吉備牧薪(キビノマキマキ)が遺跡で採掘したというものを紅鶴御殿の戦闘でも使用していたのを見ていたので存在自体は知っていたが、これほどまでに大量の銃を反乱軍が装備できたのはあの得体のしれぬ男……亜空路坊の差配によるものであった。




───────────



─────



──




「こ、これは……銃!? それもこんなにたくさん!」



 決戦の数日前。作戦会議中に亜空路坊がとっておきの秘密兵器かあると木箱から取り出したのは吉備牧薪(キビノマキマキ)が【稜威の高鞆(イズノタカトモ)】と称して使用していた創世記時代の遺物・銃であった。木箱の中には10丁以上の銃がしまわれており、創世記時代の遺物一つの稀少価値も相当に高い事を考えれば、個人でこれほどの数を揃えた事は驚愕に値する事であった。



「ほほう。これには銃という呼び名があるのですね。私は手筒砲(てづつほう)と呼んでいましたが……しかし、ご存知というのなら話が早い。ここにあるのはほんの一部でして、大小合わせて全部でおよそ300丁を私は所持しています」



「さ、300!?」



「それをサイタマ軍との戦いに備えて全て提供しようと思います」



 おお……なんか凄い話になってきたな。

 戦闘での銃の有用性は吉備牧薪(キビノマキマキ)が実戦で証明済み。弓や弩よりも手軽に使える割に殺傷力も高く回避も困難なので、銃が戦場でも絶大な効果を発揮する事に疑いない。それが300もあるとなれば、サイタマ軍との戦力差をひっくり返す事も可能かもしれないね。



「それの性能は俺も知っている。一般兵でも使い方しだいで六行使いにさえ対抗できる可能性のあるシロモノだ。300丁も用意があるのであれば戦術的にはかなり楽になるが……」

 


 総大将たる太刀守殿も銃の有効性は承知している。が、銃については以前に「人の戦いの道具じゃない」と漏らしていた事もあり、吉備牧薪(キビノマキマキ)のような効率主義者ではなく積み重ねた武芸のぶつかり合いにこそ意味を見出す昔気質の剣士には快く感じられない道具でもあるようだった。



「実際戦闘で使ってたアタシが言うのもナンだけど、一般兵にこれ持たせて戦うのはちょっと卑怯な気もするわね」



 その吉備牧薪さえも、弾さえ尽きなければほぼ一方的に相手を倒せる銃の使用には流石に気が引ける様子であった。



「ただまぁ、それぐらいなきゃどうしようもない彼我の戦力差ではあるんだけどね」



 しかし、有利になる兵器を持ちながらも不公平だからそれを使わずに正々堂々命を掛けて戦えとは兵士には言えない。



「……背に腹は代えられんか」



 太刀守殿も厳しい表情ではあるが、銃の使用を承認する。



「では、部隊の編成は私が行いましょう。兵士への技術指南は実際に戦闘での使用経験のあるという吉備司教にお任せできますかな」



「それは承知しました……しかしいきなり300丁とは驚きね。紅鶴御殿にすら数丁しかなかったというのに。一体どこでそんなに手に入れたのかしら?」



 吉備牧薪が亜空路坊に問う。

 


「とある創世紀時代の遺跡から大量に出土したのですが、私はこの手の風変わりな武器を集めるのが趣味でして。()()()……そう色々と手を回して譲ってもらえる事になったんですよ。ククク……」



──


─────


───────────




 あの時はその説明に吉備牧薪が顔をしかめた理由が分からなかったが、後から聞いた話では遺跡から出土した歴史的に価値のある物を発掘者が自ら手放す事はあり得ないそうで、つまりそれが亜空路坊の手にあるという事は彼が何らかの手段で出土品を略奪した可能性が高いとの事だった。同じ遺跡からの採掘を行う研究者として吉備牧薪は亜空路坊に嫌悪感を覚えたようね。


 ……もともと得体の知れない男だけど、やはりまともヤツじゃなさそうね。コジノさんがこの亜空路坊には名指しで気をつけろと言っていた事の意味が分かったような気がするわ。



「第2射用意! 構え!」



 再び亜空路坊の号令が発せられる。すると今度は前面の部隊だけでなく、崖の上に布陣していた部隊も銃を取り出して眼下の敵に対して照準を合わせる。



「撃て!!」



 正面と側面からの十字砲火に晒されたサイタマ軍はいよいよ混乱も甚だしく、もはや軍としての統制が取れなくなっていた。



「うわああっ! 駄目だ、逃げろおっ!」

「くそ! 防御を固めろ! 矢を防ぐ用の盾でも多少は防げるはず!」

「いいや、突撃だ! 無理矢理にでも正面突破するしか活路はないぞ!」



 混乱の果てに各自が命令系統を無視した勝手な行動をする内に、分断された兵士が一人、また一人と討ち取られていく。その光景を見て、この戦の趨勢が今大きく反乱軍側にも傾いた事を察した。



「上手くハマりましたね! 宮元住殿!」



「え……ええ」



 織江さんは驚くほど見事に決まった作戦に喜ぶ。


 が、アタシは今そういう心境にはなれない。

 逃げ場を無くして抵抗できなくなった敵を一方的に屠っても勝利の達成感のようなものを感じることは出来なかった。



「おおっ、なんと凄まじい威力! 敵は総崩れだぞ!」 



 と、勝敗がほぼ決したこの局面にあって今までどこにいたのか壇戸さんや他の部隊の隊長たちがゾロゾロと顔を見せ始める。



「皆の者、この機を逃すなよ! 突撃ィー!」



 そして、この勢いに乗って功を上げようと競って残敵の追討を始める。


 呆れ返るが、命を投げ打って活路を開くような仕事を誰もが進んでできる訳ではない。戦争においても彼らのような日和見の者たちが大半であり、一度傾いた流れを渡さず敵に打撃を与えるという仕事をする為にも彼らの様な存在は必要だ。


 しかし、アタシはそんな戦いには興味がない。アタシが志す剣は強敵と戦い仲間や大切な人を守る為のものだ。そう、かつて太刀守殿がアタシの村を守ってくれた時のように……


 ハッ!

 そうだ太刀守殿!


 この戦いで燕木哲之慎か出てきたら状況に関わらず、太刀守殿が戦うという事になっていた。ならば太刀守殿は今、燕木哲之慎とコジノさんが踏越死境軍(モータルフロント)と戦う場所に向かっているのだろうか。


 ……今この地での戦いは既に趨勢は決している。

 ならば兵士同士の戦いは彼らに任せて、アタシは太刀守殿の援護に向かうべきじゃないかしら?


 そう思った時、アタシは残敵を追討する壇戸さんたちの部隊に紛れて再び戦地の奥深くへと進み始めていた。



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