第19話 対決・御庭番十六忍衆②! VS伊達我知宗(後編)
前回のあらすじ:ガンダブロウVS御庭番十六忍衆・伊達我知宗! 全力での勝負を促す伊達に呼応したガンダブロウ……今、ジャポネシア最強と謳われた剣士「太刀守」の真の実力が明かされる!
「食らえィ!! "萩の三日月・麗の夕"!!」
伊達は再び三日月型の氷刃を2枚空気中に精製すると、今度は直線ではなく二手に分けて大きな弧を描くように放ってきた。
俺は前方に跳躍しつつ左右から迫る氷刃を回避!
そのまま間合いを詰める!
「まだまだ行くぜ!! "萩の三日月・壮の夕"!!」
伊達は斜め後方に跳び退きつつ、今度は2枚の氷刃を「S」型に接着させて放った!
俺は大きく間合いを開けつつ横っ飛び回避!
……なるほど。やはり伊達は接近戦を避けて中遠距離の間合いを保って戦おうとしているな。直接の剣の打ち合いは不得手か……?
こういう手合には一気に距離を詰めるのが定石だが……
「……どうしたァ? 間合いを詰めて来ねえのか?」
「ああ……まだ、その時じゃない」
「ヘッ! 何を狙ってるか知らねえが余裕こいてると……」
伊達は俺の側面に回り込みつつ剣を振りかぶる。
「何も出来ずに死んじまうぜ!! "萩の三日月・幽の夕"!!」
また三日月氷刃を2枚!
山なりの弧を描く氷刃が1枚と地を這う速い氷刃が1枚!
受け太刀をすれば時間差でどちらかの氷刃が当たってしまう……緩急に惑わされてはならない。伊達と反対方向に旋回して回避!
「オラどうした、太刀守ィ! かわしてるだけじゃ勝てねえぞ! 本気でやるんじゃねえのか~? それともそれが全力かァ?」
俺の回避行動に伊達は煽りを入れる。攻撃が当たらぬ苛立ちか、うかつな攻めを誘う欺瞞か……
「全力の訳ねえよなァ~? 超一流の戦士なら六行の属性を剣技・体術に付加させるのは、当然の事ォ! 貴様は呪力を身体能力の強化には使っているようだが、まだ六行の技を……あ、見せてぇーーーおらぬではないかァ!」
芝居がかった説明口調はコイツの癖なのだろう。呪力の戦闘応用はサムライにとっては常識だ。いちいち言わぬでも、民間人や新兵でもあるまいし、そんな事は……
「ええ!? そうなの!?」
あ、新兵がいたな。後方で観戦していたサシコから驚きの声があがる。
「なるほど! そういう仕組みなんですね~」
続いてアカネ殿が感心したような反応を見せる。ああ、民間人以下の知識の者もいたね…………説明ありがとう、伊達。
「"萩の三日月・偉の夕"!!」
伊達は懲りもせず、何度目かの三日月氷刃を放つ。しかし、今度は狙いが逸れたか、俺が回避をするまでもな無くあさっての方向に飛んでいく。
「……どうした? もう、攻め疲れたか? どんな技も当たらなければ意味が…」
「いいや! 狙い通りさ!」
その時、あたりに殺意に満ちた冷気が立ち込めた。
俺は反射的に周囲を見渡すと──
「もう俺の攻めは終わってんのさ!」
2枚ずつ4回に渡って放たれた三日月氷刃は回避した後も消えず、2枚組で「χ」の形となり、四方の地面に突き刺さっていた。そして、俺は計らずもこの「χ」型の楔4つのちょうど中央に立っていた。
「……ッ!! しまった!!」
「受けてみろ!! " 白 松 が 島 ・ 四 景 八 獄 " !!!」
東西南北の氷楔から鋭利な氷柱が松の木のように無数に枝分かれする!!
四方八方から迫る氷柱攻撃だ!! 今までの氷刃の投擲は、このための布石だったのか!!
「ガンダブロウさん!」
「太刀守殿ォ!」
「うおおおおッッ!!!」
この全方位からの攻撃をかわすには上空に退避するしかない!俺は意を決して大きく真上に跳躍する!
…………~~~~ッ! よし! なんとか、ギリギリのところで氷柱攻撃の回避に成功!
「ハッハァ!! さすがは太刀守!! だが……」
伊達の声が頭上……つまり飛び上がった俺よりも更に上空から聞こえる。
「真の祭はここからだぜ!!」
「なにィ!?」
空中での待ち伏せ!? 跳躍回避を読んで先回りしていたのか!?
伊達の周囲には既に7つの三日月氷刃が滞空しており、追撃態勢は万端であった。
ぬう……なんと計算された連続攻撃!!なんと洗練された戦略か!!
「地上の八つと上空七つ、合わせて十五!! 俺の月は……十五夜を経て満ちるのさ!!」
伊達は宙空で剣を振り下ろす!
「 " 萩 の 望 月 ・ 七 夕 詰 " !!! 」
7枚の三日月氷刃が一気に降り注ぐ!!術士でも無く、ここまで巧妙に水行を使いこなすとは……これがミヤーギュの白眼竜か!北ジャポネシア最強の称号は伊達じゃない!
しかし……!
「見事! では俺も……!」
俺のほうも反撃の準備は整っているぞ!
「全霊の技を持って答えよう!! エドン無外流『逆時雨』……」
宙空で草薙剣を握り直し、迫る氷刃に相対する。
「 秘 剣 ・ " 十 六 夜 返 し " !!!! 」
放った剣閃はすべてを飲み込む猛吹雪と化し、氷刃を吹き飛ばす!
「………………ぐうおっ!? な……んだとォ!!?」
氷雪の嵐は猛烈な渦となり、宙空の伊達をも弾き飛ばした。
「ぐはっ!!」
伊達は勢いのままに地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべる。そして、俺も少し遅れて倒れた伊達の間合いのやや外に着地した。
「………………ハァ、ハァ……い、今の吹雪は水行の技か……? くそ! テメエも水行使いだったとは……」
「…………俺は水行使いではない」
「あァ?」
「いや、そもそも俺は六行の属性を持っていないのだ」
「ああっ!? なんだとッ!?」
伊達が驚くのも無理はない。伊達が自ら解説していた通り、達人同士の戦闘では六行の属性を攻撃に付加させるのは常識だ。
呪力を使いこなせる人間はほんの一握りであるが、六行の属性自体は生まれながら誰もが自然と持っているもの。
しかし、俺は火・水・風・土・空・識のどの属性も持っていなかった。こんな事は万に一つも無い事であると、師匠には首を捻られたものだ。
「属性が無いだと……!? 有り得ねえ!! 六行の属性を使わずに、あれほどの大技が出せるはずが無い!!」
「ああ、そのとおりだ。六行を利用せずにあんな技は使えん。だが、俺には水行はおろか1属性すらまともに発動させる事は出来ないときた……だから、お前さんの属性を使わせてもらったのさ」
俺は属性を持たない。だが、呪力を応用した技が使えない訳ではないのだ。
六行の属性を持たぬ俺が剣の道で生きるにはどうすればいいか……かつての俺は苦悩し幾度となく剣の道を諦めかけた。しかし、壁にぶつかるたびに幾度も試行錯誤を繰り返し、そして、俺にしか出来ない唯一無二の剣術にたどり着いた。
俺は属性を持たない事を逆に利用し、無色透明の力場を生み出す方法を修練の末に編み出した。力場はそれだけでは何の意味も為さないが、この力場は相手の放った呪力に触れることでその属性と「同化」する作用があった。相手の技をかすめる様に避けたり、剣で受ける事で属性を吸収し、俺の呪力を付加して叩き返す……それが太刀守の名を継承するまでに俺を押し上げた、俺だけの俺にしか出来ない必勝の剣術だった。
「湖面に写る鏡像にどれだけ石を投げても意味が無い。ただ飛沫が、逆さまに降る雨のように自身の体を濡らすだけ……故に『逆時雨』…………でしたね?」
それまで戦いを静観していた見呼黒子が、俺の技の特性について言及する。
「ああ、その通りだ」
俺の剣についてここまで知っているとは……この見呼黒子という男に情報を流した「主」というのは俺をよく知る人物のようだが…………一体何者か?
「ふふふ、相手の特性に合わせた究極の返し技使い……どうやら 太刀守の技はまだ衰えていない様ですねえ…………さて伊達さん。どうしますか?」
黒子は伊達の戦意を確認する。
「……」
「まだ続けますか? それともここで無様に降参しますか?」
「……へっ! シケたせんべいみてえに下らねえ質問しやがる!」
その時、伊達の体から禍々しい気配が発せられる。
この感じは……牛鬼の時と同じだ!
「まだ俺は負けちゃいねえ!! どんな方法を使っても勝つ!! それだけの事だ…………ヴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」
おぞましい叫び声とともに伊達我知宗の姿は異形に変質していった。
≪どうでもいい雑記⑤≫ 剣士と術士
前回に引き続き戦闘の時の設定について。
この世界の実力者同士の戦闘は「六行」を駆使したものになるというのは作中で説明した通りです。
ただ、「六行」を使うにしても戦闘スタイルによって大きく二通りにタイプが分類されます。
まずは「剣士」。これは読んで字のごとく「剣」を使った戦闘者を指します。武器を使った戦闘に「六行」を付加させて戦うタイプですね。もちろん近接戦では武器を使った直接戦闘も行います。特徴としてはあくまで物理戦的な攻撃の延長線上に「六行」を位置付けているので、「呪力」の配分を自身の身体能力強化にも割り振ったりするので、技の威力自体はさほどでもないというケースが多い。RPGでいうところの魔法剣士といったところです。また、大別するなら剣以外の武器を使う場合もこの「剣士」に分類されます。
そしてもう一つが「術士」です。こちらは劇中ではまだ該当する人物がアカネだけしか登場していないのですが、要は純然たる魔法使いです。「陰陽術」と呼ばれる詠唱を必要とした大技を使います。「剣士」と違いほとんどの場合は身体能力強化に「呪力」を回さないこともあって、その威力は絶大。半面、接近戦には弱く、詠唱を妨げられれば本来の力を発揮できないケースも多いです。また、「六行」のタイプにちなんだ「触媒」を使うことによって術の威力を上げることも可能です。たとえば「火行」ならランプや松明、「水行」なら杓や金魚鉢など。
ちなみにジャポネシア世界での剣士:術士の人数比はおよそ7:3で剣士の方が多いです。




