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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
209/262

第207話 潮目!(前編)

前回のあらすじ:黒子壱號は木下孫悟朗と三蔵寺法春によって撃破される。


※今回も引き続き三人称視点です



 戦場の一角──



 「とおりゃああッ!!」



 サシコは迫りくる量産型黒子人形との戦闘を繰り返し、一人で既に20体の人形を斬り伏せていた。



(はあ、はあ……一体何分くらい戦っていたのかしら……敵の数もかなり減ってきたようだけど……)



 サシコが辺りを見渡すと、当初100体いた量産型見呼黒子も踏越死境軍(モータルフロント)との戦闘でかなり撃ち減らされており、その数は30体前後にまでなっていた。踏越死境軍(モータルフロント)側にも死傷者は出ていたが、指揮官機のナンバリング機体4体も既に撃破されており、この局面の勝敗は決しようとしていた。



「つ、つええ……」



 当初は黒子人形を掩護するために戦闘参加していた一般兵たちも、六行による超常的な戦闘に巻き込まれない為にいつの間にかやや離れた位置まで戦列を引いており、彼らの戦いの経過をただ呆然と眺めていた。



「おい、からくり機動部隊でも止められないのか?」

「もしかして、俺たちこのままこいつらに全滅させられるんじゃないのか……?」



 いかに強力な兵でも死を恐れぬからくり人形の大部隊には敵わないだろうと考えていた彼等も事ここに至り、焦燥と恐怖にかられていた。踏越死境軍がからくり人形たちを全て倒したら、次は自分たちに向かってくる事は明白であったからだ。

 無論、踏越死境軍も人間である以上、持続できる体力・呪力には限界がある。いかな彼らとて黒子人形との戦闘で消耗したまま残りのサイタマ軍すべてを討ち滅ぼすのは不可能だ。例え黒子人形が全滅しても数千人単位の兵で押し寄せれば、相当の犠牲を出したとしても最終的には彼らを討ち取る事ができるだろう。


 しかし……



「ぐ……まずいな……」



 頭でそう理解する事と、心理的にそれを実行できるかは別問題である。未だ10万弱の兵がいるサイタマ軍の中で、何故自分だけ高確率で死亡する前衛で彼らと戦わねばならないのだろうか。そう全兵士が思えば、将の指示に従って特攻する者などはいなくなり、数的優位も何の意味もなさなくなる。


 戦況を見据え、そういった苦しい状況になりつつある事を第4連隊の隊長は自覚しており、何とか戦況打開の方策を思案していたがそこに追い打ちをかけるような報せが届いた。



「報告です!」


「……援軍が来たか!?」


「い、いえ……敵です! 敵の増援部隊がすぐそこまで来ているのです!」


「何ィ!?」



 第4連隊の隊長か連絡兵の指差す方角を見る。


 すると川の上流方向から反乱軍部隊が砂煙を上げて進軍してくる様子が見えた。



「おお、見ろ! 我軍が優勢だぞ!」

「一番隊隊長の宮元住殿も戦っておられる!」

「我々も行くぞ! 踏越死境軍(モータルフロント)の狂人どもに遅れを取るなよ!」



 サシコも背後から応援が来たことに気が付く。

 しかもサシコが隊長を務める一番隊だけでなく、他の複数の部隊も一緒である。



「味方……やっときてくれたのね!」



 サシコは自身の率いる一番隊から離れて独断専行したが、それでも自分の後を追って部隊はすぐ到着すると思っていた。しかし、戦闘開始からしばらく経っても彼らは来なかった。サシコはその事を不審に感じていたがそれには多少の事情があったのだ。


 彼等はサシコが先行した後すぐに渡河を行ったが、踏越死境軍にサイタマ軍第4連隊が撤退させられて無人となった安全地帯がある事を確認すると、まずはそこを橋頭堡として確保。そこで渡河してきた部隊数隊を結集させ充分な戦力となってから進撃を開始したのである。当初は渡河完了した部隊から順次戦列参加を行う手筈であったが、先行した踏越死境軍やサシコが敵を押しており、少なくとも短期で戦線が押し戻される可能性が低いことを瞬時に分析した参謀マキの判断であった。事実その予想は当っており、短期で部隊の再編成を完了した手腕と併せて彼女のファインプレーであったと言えるだろう。


 こうして反乱軍後発部隊の到着は時間的な遅れは発生したものの、苦戦中に更に大部隊による増援が来るという敵への心理的ダメージも含めて結果として最高のタイミングでの戦力投入となった。



「敵の援軍部隊は2000人以上いる!」

「あの黒衣の連中だけでも手に負えないのに……」

「俺たちはもうおしまいだ!」



 数の上ではまだ圧倒的に有利であるサイタマ軍であるがその狼狽ぶりは凄まじく、敵前逃亡を開始するものも出ており、もはや彼らに統率の取れた行動は不可能であった。



「くっ! やむをえん! ここは一時退きゃ…」



 既にこの場での勝敗は明らかであり、連隊長が唯一彼らが素直に従うであろう「撤退」の命令を出そうとしたその時──



「……ほお。随分と派手にやられてるじゃないか」 



 戦場を見下ろすやや小高い丘に2騎の馬影が見えた。


 援軍と言うにはあまりに心許ない数であり、サイタマ軍も反乱軍もその接近に気づかない程であったが、そのわずか2騎が戦局に及ぼす影響は数万の大軍に匹敵する。



「からくり人形というのも存外役に立たんな」 


「そ……総大将殿……!」



 現れたのはサイタマ軍側の総大将・燕木哲之慎(ツバキテツノシン)とその弟子武佐木小路乃(ムサキコジノ)である。

 

 燕木は馬から降りるとコジノを残したまま、丘から飛び降りて、戦場の真っ只中に着地する。



「な、なんだコイツは?」



 燕木の姿を知らない反乱軍たちはたった一人で戦場に降り立った男を特段警戒はしない。しかし、同じサイタマ軍の兵士たちはその意味するところを察して戦慄する。



「離れろ! 巻き込まれるぞ!」



 サイタマ軍の兵たちは一目散にその場を離脱。

 燕木はその彼らの退避とは関係なく、既に技の準備を完了させており、眼前の敵を一掃する為に槍を振るう。



「ダイハーン無外流【飛燕翼】……"禽游積嵐巣(きんゆうせきらんそう)" !!!!」



 燕木は自身を中心に巨大な竜巻を発生させる!

 竜巻には周囲の者を吸い寄せる効果と触れたものを擦り斬る効果があり、サイタマ軍に攻撃を仕掛けるべく殺到していた反乱軍の一団をまたたく間に餌食にした!



「ウワアアアアアッ!!!!」



 一瞬のうちに数十人の命がただの肉塊と化し、また新たな鮮血の雨が戦場に降り注いだ。



「ゲヒヒッ! ありゃあ槍守(やりのかみ)! 俺の獲物だ!」



 踏越死境軍(モータルフロント)の一人、細見の双剣使いが燕木の登場を好機と捉え、喜び勇んで彼に飛び掛かる。燕木はその双剣での鋭い打ち込みを事も無げに槍で受け止めると、その状態のまま新たな技を繰り出した。



「ダイハーン無外流【飛燕翼】……"螺子鴉(ねじがらす)"!!」



 燕木の愛槍・鳥雷傅(とらいでん)から風行の呪力が渦巻き、触れ合う武器を伝って回転エネルギーが相手の腕を侵食する!



「な……なんだ!? う、腕が……身体が勝手に捻……れ……ッ!? ア……アギャアアアアッ!!」 



 踏越死境軍(モータルフロント)の剣士は雑巾を絞るように腕から一人でに体が捻じれていき、内側から千切れて四散した!


 これは燕木の得意とする飛燕・三段刃……三種の斬撃のうちの一つ、「捻り斬る」斬撃!武器に触れた相手を風行の力で捩じ切る防御不能・残虐非道の秘剣である!



「お、おおおおおおお!! 流石、燕木殿!!」

「見たか反乱軍ども!!」



 今の一連の攻防で反乱軍の快進撃に気圧され潰走寸前に追い詰められていたサイタマ軍は士気を取り戻し、逆に勢い付く。



「おーっ! イケメンつよーい!」

「フェフェフェ、やりおるわい!」



 踏越死境軍(モータルフロント)の他の面々は仲間が惨殺された事には何の感慨を表す事もなく、強大な敵の出現に嬉々として興味を示してゾロゾロと燕木の周囲に集まる。



「おい、今度は俺がアイツとやる! お前ら手ェ、出すなよ!」

「馬鹿言え! 次は俺だ! お前は引っ込んでろ!」



 踏越死境軍(モータルフロント)の面々はその実力に関わらず、全員が燕木との戦闘を望んでいた。彼らにとっても燕木は数段上の使い手であり、一対一で戦えば殺される可能性が非常に高いことは明白であった。彼等も(孫悟朗を除き)一流の使い手であるから、自分と敵の力量の差は理解している。であるにも関わらず無謀な挑戦を切望するのであるから、全く度し難い事である。



「ふん、こいつは丁度いいかもな……コジノ!」


「はいっ!」



 燕木は踏越死境軍(モータルフロント)の相手をするのに弟子のコジノを指名すると、彼女も丘の上から戦場に降り立ち現れ踏越死境軍(モータルフロント)の前に立ちふさがる。


「こいつらは皆それなりに名のある使い手だ。名を上げるのにちょうどいい。最低5人、討ち取ってみせよ」



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