第206話 踏越死境軍VS傀儡人形!其の四
前回のあらすじ:黒子玖號は猪村地備衛によって撃破される。
※今回も引き続き三人称視点です
「シュアアッ!!」
「くらえぃ!!」
ガチン、ガチンと刃がぶつかり合う音が鳴り響く。
「ぐはあっ!!」
「死になさい!!」
怒号と罵声と断末魔の木霊する凄惨な戦場の真っ只中──踏越死境軍とからくり機動部隊との戦闘が激化する光景をニヤニヤと楽しげに眺める男の姿があった。
「ふふ…………いやあ、ここもいい戦場になってきたなあ」
三蔵寺法春。
本来、踏越死境軍に上下の関係はないが彼らの実質的なリーダーにあたる男である。
三蔵寺は禿げ上がった頭をぴしゃり、ぴしゃりと叩きながら血飛沫の舞う戦地を近所に買い物にでもいくかのような足取りで散策する。一見すると人畜無害の禅僧にも見える痩せた壮年の男だが、その細目の奥はどこまでも深く奈落に繋がっているかのような闇を感じさせた。
「ふふふ……しかし、まだまだ。生と死が混一する真の死線はこんなもんじゃあない。あの時見た景色はもっと凄かった。なんというか、こう地獄のように殺伐としていながら、生命の光が弾ける水々しい新鮮さもあって、こう…………て、んん?」
三蔵寺の行く手から突如として木や岩が飛ばされてくる。
とても人の手で投げ飛ばせる質量ではない事からそれが六行の技によるものである事は明白であった。
「……ふっ」
三蔵寺は剣を抜くと、迫りくるそれらの障害物を事も投げに斬り捨てる。岩や木は切り口から燃え上がり、辺に四散する。
「随分と好き勝手にやってくれましたねぇ、踏越死境軍!」
障害物が投擲されてきた方向から声がする。
見呼黒子壱號──反乱軍の砦で呪力の念力で瓦礫を飛ばし、ガンダブロウを撹乱した機体である。
「まったく、あなた方の行動だけは我が主を持ってしても予測がつかない。本当に厄介な連中です」
「フフフ。そう言いつつ、我々の能力対策をしたからくり人形をちゃっかり用意してくるのですから、貴方がたも中々どうして抜け目がない」
炎熱耐性を持つ黒子陸號は火行使いの紅孩に、水中戦に特化した黒子捌號は水行使いの沙湖に、斬撃を逸らせる特殊ボディを持つ黒子玖號は剣士の地備衛にそれぞれ当てられたのは偶然ではない。彼らの戦闘データはあらかじめ黒子人形たちに共有され、彼らの能力に対抗する為の手段が事前に準備されていたのである。結局、彼らの持つ奥の手が事前の想定を大きく上回っていた為にその対策も実を結ばなかったが、此度の戦に臨んでの御庭番十六忍衆の周到さが伺えた。
「貴方たちの……いや貴方がこの戦で何を画策しているかは粗方想像がつきます。やった所でまったく無意味な事ですが、我らとしてもみすみす看過は出来ません。これ以上我らの計画をかき乱すというのなら、貴方にもこの辺りで退場して頂きたいものです。三蔵寺法春。いや……」
そう黒子壱號が言いかけた時──
「どりゃあああ!!」
掛け声と共に黒子壱號に襲いかかる影があった。
「むうっ!」
黒子壱號は六行感知機能を持っていたものの、敵が六行使いではなかった事から僅かに反応が遅れて接近を許した。しかし、六行の技でもないその男の直接的な槍が命中することはなく、黒子壱號はあっさりと攻撃を回避する。
「ご無事ですかァ! 三蔵寺さん!」
黒子壱號と三蔵寺の間に割って入るように参戦したのは槍使いの青年にして、踏越死境軍の新人で唯一の非六行使い木下孫悟朗であった。
「仮面野郎! お前の相手はァ、このオイラ! 踏越死境軍の一番槍、タキアの成らず香車こと木下特攻斎がしてやるよ!」
孫悟朗は黒子人形たちの呪力を感知する事ができない。それどころかこの超常的な術が飛び交う戦場においてなお、六行の技というものを理解していなかった。故に目の前にいる黒子装束の敵が呪力で自立駆動するからくり人形だという事も分かっておらず、単に仮面をした人間だと思っているのである。
「雑魚めが……邪魔をしないで頂きたい!」
黒子壱號は再び風行による念動力を発動させると、木や岩の他に戦場に散らばる武器なども浮かせて孫悟朗に向けて発射した。
「おお!? なんだ!?」
六行の技を知らない孫悟朗はその超常的な現象に驚愕した。
非六行使いが六行の技を食らえばひとたまりもなく蹂躙されるだけであるが、今回は三蔵寺が近くにいた事で彼の助太刀に助けられる。
「ウチの新人をあまりいじめんで貰えますかな? ギエフ無念流『巖荼荒』……」
三蔵寺の持つ剣から炎が上がる。するとその炎が彼の身体全体を覆うように広がっていき、やがて明王のような姿を形成した。
「"輪砲羯磨"!!」
三蔵寺が剣を振り抜くと、その切っ先から複数の火輪が射出される。火輪は黒子壱號によって放たれた様々な物体に着弾すると爆発を起こし相殺。フリーとなった孫悟朗は爆煙と爆散する埃で視界が覆われる中をなおも突進し、六行探知の対象外である事も手伝って黒子壱號の背後に回り込む事に成功した。
「せいやあああッ!!」
孫悟朗の突きが黒子壱號の背面に命中!
しかし……
「六行の技でもないただの突きで私を破壊できるとでも?」
黒子壱號は殊更攻撃を避けはしなかった。
先程の奇襲時には気配を完全に絶った六行使いの攻撃か雑兵の無謀な特攻かを瞬時に判断できなかった為に回避行動をとったが、相手が非六行使いと分かった今はその必要すらもない。黒子人形の身体は装甲に覆われており、六行の付与されない単純な武器攻撃ではほとんどダメージが通らないのである。
実際、孫悟朗の突きは完全に決まったものの、黒子壱號のボディにはほんの小さな引っ掻き傷程度しかつけられなかった。だが、孫悟朗の攻撃はまだ終わってはいなかった。
「へっ! まだだぜ!」
孫悟朗は槍をついた姿勢のまま、槍の柄の部分についたボタンをカチッと押す。
すると槍と切っ先の接合部のバネがビヨンと勢いよく伸び、その意外な勢いで黒子壱號は押し出されるように吹っ飛んだ。
「仕込み槍ですと!?」
黒子壱號は意外なギミックに驚く。孫悟朗は新人であるためその戦闘データはなかったのと、そもそも非六行使いについては警戒対象外であり、わざわざ情報を収集して対策を立てたりはしなかったのだが、それがこの時ばかりは災いした。無論、この程度で黒子壱號の身体にはダメージは一切入らないが、吹っ飛ばされる最中は行動の自由が奪われている事と、飛ばされた方向に黒子壱號を斬り捨てるのに充分な攻撃ができる三蔵寺が待ち構えていた事が致命的だった。
三蔵寺は勢いよく飛ばされてきた黒子壱號に対し縦一線の斬撃を放つ!
「ぐ……がッ……!?」
顔面から股まで一太刀で両断されたからくり人形は、左右の身体が少しずつズレながら地面に崩れ落ちる。
「た……大義ナき凶賊ドも……貴様らがいか二武勇ヲ誇り、敵ヲ屠ろウと……行きツく先ハ……地獄だ……け…………」
黒子壱號の末期のセリフを三蔵寺は剣を納めながら一笑に付す。
「ふふふ……地獄とは行き着く場所ではありません。我ら踏越死境軍のあるところが、すなわち地獄なのです」
《どうでもいい雑記》
からくり人形・見呼黒子シリーズ1〜9はサイボーグ009の各ゼロゼロナンバーの能力に対応してたりします。
壱號→001・・・超能力
弐號→002・・・高速飛行
参號→003・・・索敵
肆號→004・・・重火器
伍號→005・・・怪力
陸號→006・・・火炎放射
漆號→007・・・変身
捌號→008・・・潜水
玖號→009・・・加速
※まだ未登場の漆號もそのうち出てきます
ちなみに見呼黒子という名前自体は「ターミネーター」の異名と「お前は何を言っているんだ」の画像で知られる格闘家ミルコ・クロコップから来ています。




