第204話 踏越死境軍VS傀儡人形!其のニ
前回のあらすじ:黒子陸號は紅孩童子によって撃破される。
※引き続き三人称視点
「待て待て〜!」
アラール川支流が流れ込む貯水池周辺──踏越死境軍の女陰陽術士・浄江沙湖は敵の指揮官機の一体である見呼黒子捌號と戦闘を繰り広げていた。
水行による中距離からの陰陽術を使う沙湖に対して黒子捌號は距離を空けつつ、装備された発射式の銛を放ち牽制する。つかず離れずの間合いを保ちながらの戦闘だが、沙湖は追い黒子捌號は下がるという展開が続く攻防の中、二人(?)は池の方向に少しずつ移動していた。
やがて池の縁まで追い込まれた黒子捌號は、そのまま池にかかる細い水上歩道橋の上に移る。両サイドを水場に挟まれて動きが制限され、かつ水行使いにとっては「触媒」となりうる水が無尽蔵にあるエリアである。この状況をチャンスと見た沙湖はすかさずそれを追って攻勢をかけた。
「橋の上に逃げるとは愚かね〜……水行【泳弾杓子】!!」
オタマジャクシ型の小式神を発射する術。
アカネの「火鼠」やマキの「征矢雀」に近い性質の技である。
「ホッホッホ、水行の追尾弾ですか! 着弾した時の追加効果もありそうですが……これならどうでしょう!」
黒子捌號は攻撃を喰らう寸でのところでなんと橋から池にダイブ!術の回避に成功した。
「およっ!?」
【泳弾杓子】はそれでも自動追尾をやめずに池に着弾する……が、水行で出来た式神は水に触れれば一体化してしまい消滅してしまう為、黒子捌號に命中する事はなかった。
だが、通常人が水に落ちてしまえば攻撃手段は限られ機動力も著しく低下。水から上がったところを狙い撃ちにされるだけであるが……
「む?」
水を切る音とともに黒子は池の中を自在に動き回り、沙湖の背後に回ってザバンと顔を出した。
「ほっほっほ! 私は水中戦に特化したからくり人形! この池には逃げ込んだのではなく誘い込んだのですよ、お嬢さん!」
黒子捌號は足の底や肘などに仕込まれたスクリュー状の推進装置で水中を高速で移動!そのまま橋の上の沙湖の足元を旋回し、トビウオのように池から跳び出しては彼女の死角から突進をかける!
沙湖はその攻撃をなんとか回避するも反撃は到底間に合わず、黒子捌號は再び潜水して姿を眩ませる。
「なるほどなるほど。これを狙ってたのか〜」
池の透明度は低く、かつ橋の下の死角を利用して巧妙に移動する黒子捌號を彼女の目で捉えるのは難しい。かといって狙いを定める必要のない大技を使えば自身の足場を破壊しかねず、そうなってしまえば池に落ちてしまい黒子捌號の餌食となるだけだろう。
「策士が策に、術士が術に……水行使いが水に溺れるとはこの事ですね!」
黒子捌號は自分の得意とするフィールドに相手を引き込んだ事で勝利を確信。しかし、この絶体絶命の状況下にあっても沙湖は動じる様子はない。それは踏越死境軍の精神が戦闘で死ぬ事は恐れるものではなく、むしろ歓迎すべきものだとしているからでもあったが、今回に限り彼女はまだ生命の危機に瀕するような状況にはなかった。
「久々に……この子の出番ね」
そう言うと沙湖の羽織った外套の中からピョコンと一匹のカエルが飛び出した。
「さあ行っておいで……私のカワイイ暴邪瑙井ちゃん」
「ゲコッ!」
沙湖がカエルを池に放つ。
するとカエルが突如として巨大化し、瞬く間に体長10メートル以上の巨体へと変貌を遂げた。
「むむ! また式神……?」
巨大カエルはボチャンと水しぶきを上げて池に飛び込むと、水中を泳いで黒子捌號を追跡した。
「な……実体があるですと!?」
黒子捌號は水上に飛び跳ねて捕食者の追跡から逃げる。
「ウフフ。この子は式神じゃなくて私のお友達で妖の暴邪瑙井ちゃん。だから水に触れても溶けて消えたりはしないのよん」
暴邪瑙井は幼少時に呪力を持つ忌み子として迫害されていた沙湖が唯一の友達として飼っていたカエルが彼女の呪力に触れ続ける事で変貌した妖である。普段は通常のカエルと同じサイズであるが、彼女の呪力を分け与えられることで巨大化し最大で30メートル近い大きさになる。
「く……あの女の呪力で強化されているのか!? し、しかし、いかに水中戦の出来る妖といえど我が速度には……」
「ボジャちゃん。舌」
沙湖がそう指示をすると巨大カエルはパカッと口を開けて舌を伸ばす。舌は黒子捌號を遥かに上回る猛スピードで追尾し、一瞬のうちに人形のボディを巻き取った。
「何ィ!?」
「ゲコゲコ〜!」
暴邪瑙井は舌で黒子捌號を捉えたままバシャンと池から跳び上がるとまるで投げたボールを拾ってきた犬のように飼い主である沙湖に獲物を見せつけた。
「よーし、いいぞ。それじゃあ、そのまま地面に叩きつけちゃえ」
「ゲコ〜!」
黒子捌號は何十メートルと伸ばせる暴邪瑙井の舌で相当な高度まで打ち上げられると、そのまま遠心力も利用した凄まじい勢いで地面に激突した!
「ガッ……ガが……!」
黒子捌號のボディは衝撃に耐えられず、大破して内部の部品を撒き散らした。
「ぐガ……ま、マサカ……妖をコノヨうナ方法デ……操るとハ……」
「操ってなんかいないよ。ボジャちゃんと私は友達。お互いがお互いの為に行動してるだけ……まあ、お人形にそんな事は分からないか」




