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第0.2話 まとめサイトから来ました!


「ここは……」


 目映い光の中……としか表現できない一面の銀世界ならぬ白世界。まるで、LED蛍光灯に入り込んだ羽虫の視界である。地面と空間の境もあいまいであり、一目でこの世ならざる場所と分かる。少年はそんな亜空間にポツンと佇んでいた。


「……成功したのか? それじゃ僕は本当に来てしまったのか?」


 興奮冷めやらぬ様子で独り言を呟く少年。彼はこの状況にも全く動じていない。むしろ、喜んでいるようでもあった。



「あー、ちょっとええか?」



 少年は背後から何者かに話しかけられた。少年にしてみれば、それは想定内の事であったが、振り返って目の前に現れた男の容姿には驚かされた。



「お前、異世界転生者やろ?」



 オッサンである。小汚ないといって差し支えないだろう。薄い髪、無精髭、だらしない体型、クタクタのジャージ…………美点を見つけ出すことの難しい、威厳も何もあったものではない姿であるが、このタイミングで現れるのだから彼の正体はある程度察しがつく。


「ふむ、どうやらそうなるみたいですね」


 少年は妙に持って回った言い方で問いに答えた。オッサンは「はあ~」とか「またかいな」とかブツクサ呟いたのち、「ほんじゃこっちきて」とぶっきらぼうに言った。


 ふと気づくと一面の白世界だった空間に机と椅子がポカンと浮かんでいた。机の上には何やら書類や書籍が置かれているようである。オッサンが安っぽいオフィスチェアのような椅子に座ると、少年も促されるまま机をはさんで対面に座った。


「あの……ひとつよろしいですか?」


 落ち着き払った態度で少年は対面のオッサンに話しかけた。オッサンは卓上に散らばった書類をガサガサと整理していた。


「あん?」


「貴方は神……もしくはそれに類する存在ですよね?」


「せや。見りゃ分かるやろ」


 分かる訳ないだろ。と、少年は思ったが口にはしなかった。


「すみません。随分イメージと違ったもので」


 (オッサン)は少年の慇懃な話ぶりを嫌味と捉えたのか「チッ」と舌打ちし、卓上の整理を続けながらも明らかに少年に聞こえる声で悪態やら文句やらを呟き始めた。


「は~あ、神やったらもっとモテると思ったんやけどなァ……出会いもナンボでもあるぅ思っとったのに……ここ来るのはネクラのアカンたればっかりで出会いなんて全然無いやん……腹立つわ~」


「えーと……」


「こんな仕事放って、ワシも女子高生とイチャこらしたいねん……だいたい、何だってワシがこんな仕事をせなアカンのや……元はと言えばバイトの若い()がすぐバックレるせいで、シフトが…」


「あのっ!」

 

「…………なんや」


 オッサンは心底かったるそうに少年をジロリと見つめた。


「やぶさかながらお聞きしたいのですが、ここは異世界に行く前の中継地点というか……チート能力を貰ったり、転生先の世界について説明を受ける場所ですよね?」


「せやで。何や詳しいな」


「ネットで調べたんですよ」


「は!?」


「まとめサイトに載っているんですよ。ここの事」


「うそやん!?」


「行き方も書いてあります。ほら、ここ……」


 少年がスマホで検索したまとめサイトの画面を見せてやると、そこには「チート無双で冴えないあなたもモテモテに!?ステキな異世界への行き方10選!!」という記事が表示されていた。オッサンはそれを見るなり「うわ!ホンマやん!」「何やこれぇ~! ネット怖~!」などとネット文化に慣れていない普通の中年オヤジのようなリアクションを見せた。


「僕はここに来れば自分の条件にあった異世界に転生出来ると聞いて来たんです」


「……」


「それは本当なんですか?」


「ったく最近の若いモンはすぐそういう事に頼る…………まあ、ルールはルールやし、説明が省けんのは助かんねんけどな」


「では、本当なんですね」


「まあのぉ…………本当はお前のような無礼なガキは生け好かんのやが、これも仕事や。で、どんな異世界に転生したいねん?」


 オッサンが薄い頭皮をボリボリ掻きながら、少年に質問する。どうやら、ここに来た人間を希望する異世界に飛ばすのが彼の仕事という事らしい。少年はその質問も想定していたようで、にべもなく用意してきた回答を述べた。


「そうですね。出来れば剣と魔法の西洋ファンタジー世界がいいですね。エルフとかドラゴンがいるような。それで、その世界では僕はバベルの塔に住む最強の賢者にして魔王を倒した英雄。しかし、普段は魔法学校に通うごく普通の少年で、クラスでは地味な存在。彼の真の力を知っているのは12人の血の繋がらない妹たちと幼馴染のセリシアのみで……」


「何の設定!? 」


 具体的すぎる要望にオッサンが思わず突っ込みを入れた。まるで新人ラノベ作家の持ち込みである。


「はあ……ま、近い条件では探してみるけどな……でも、そーゆー条件の異世界(とこ)は人気やからなァ~」


 オッサンは分厚い資料の山から賃貸物件を探す不動産屋のように部屋(異世界)を探し始めた。


西洋風(洋室)バベル(タワマン)エルフ(L)ドラゴン(D)賢者(K)っと…………やっぱ良いとこは空きがあらへんね。空き待ち予約は出来るけど、だいたい30年待ちや」


「うーん、そんなに待ちたくはないですね……なんとか今すぐ入れるところは無いんですか?」


「やろうと思えば他のやつが入っとる異世界にも転生させられるがなァ。でも、そーゆーところは美少女とか権力とか美味しいところを独占されとるからな」


「それだと嫌ですね」


「ま、贅沢言わず、身の丈にあったとこにしいや。なんなら大阪の新世界に飛ばしたろかい? 美少女どころかオバチャンしかおらんけどな! がっはっは!」


「あのー、ちゃんと真面目に探してくれませんか? 少し条件を緩和してもいいので」


「何や、シャレの分からんガキやな~。これだから東京モンは…………ええと…………おっ、これなんかどや? 西洋風じゃないねんけど『ジャポネシア』っちゅうな…」


 オッサンが1枚の資料を取り出す。資料には美しい景観の写真も載っており、少年の目を引いた。


「ちょっと見せてもらってもいいですか? ふむ…………今人気の和風異世界、剣あり魔法あり亜人なし、ハーレムOK、陽当たり良好、ネット環境要相談、仲介手数料無料……うん、なかなか良さそうだ。神様、僕これにします」


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