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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第196話 幕間ロマンス!(中編)

前回のあらすじ:ガンダブロウとサシコ。微妙な空気が流れる中、寝台の上でサシコは徐ろに話を切り出し……



「太刀守殿……あの……この戦いが終わって……アカネさんが無事に戻ってきたらどうなさるおつもりなんですか?」



 寝台で俺の隣に座ったサシコは唐突に質問を投げかけてくる。



「ど、どうするって……そりゃ元の旅に戻るさ」


「旅……すぐ終わっちゃうんじゃないですか? マガタマを使わせてくれる約束はしてるし、ウラヴァもすぐそこですし」


「……ああ。だが、気は抜けんさ。肝心のキリサキ・カイトが元の世界に帰ることを納得するかは分からんからな」 



 そうだ。いかにキリサキ・カイトに会うことが叶ってもヤツが元の世界に帰ることを承知しなければ意味がない。ヤツはこの世界では絶対的な力を持つ王だが元いた世界ではただの一市民でしかないのだ。そもそも元いた世界に嫌気が指してこの世界にきて、今の地位を得たのだからそれを簡単に捨てるとも思えん。それに吾妻榛名の事も完全に信用は出来ない。よしんばキリサキ・カイトが元いた世界に戻ることに同意するなり、拘束して強制送還可能な状態になったとしても土壇場になってマガタマの使用を拒否するかもしれない。


 それに……サシコは知らぬ事だが、今のアカネ殿はキリサキ・カイトを元の世界に戻す事が本当に正しいかを悩んでいる。正直、彼女がヤツをどのように処するつもりかは会ってみないと分からない。



「じゃあ、もし! 何もかもすべて上手くいって……アカネさんと帝が無事に元の世界に帰れたら……その時は! 太刀守殿はその時はどうするのですか?」



 ……!

 サシコの更に踏み込んだ質問にぎくりとする。


 俺自身、なるべく考えないようにしていた疑問……アカネ殿を取り戻す事が出来たとして、その後再びアカネ殿との別れが訪れたら……その時俺はどうするのか……


 未だ答えの出ない問い。しかし遠からぬ未来、明瞭な答えのあるなしに関わらず回答を求められるであろう問いだ。


 何故今のこの時に、サシコはこの問いを俺に投げかけるか。その真意に留意しつつ、俺は慎重に当たり障りのない言葉を選んではぐらかそうと試みる。



「そ……それはただ喜ぶだけの事だ。何もかも上手く行ったのだから重畳この上ない事。何を気にする事があろうか……」


「嘘」



 サシコは俺のごまかしをピシャリと封じる。

 


「太刀守殿はそうなって欲しくはないでしょう……だって……だって太刀守殿はアカネさんの事を愛しているからっ!」



 そう言い放つとサシコは俺に勢いよく抱きついてくる。


 俺は真剣の立ち合いではほとんど経験した事もない程、懐深くへの飛び込みを許すとそのまま寝台に横倒しにされる。



「な……!? 何をするんだ!?」



「太刀守殿。アタシ、太刀守殿が好きです」



 突然の告白に俺は再び不意をつかれた。

 これが実戦であればこの隙きに2、3発は致命傷を受けていたであろうほど面食らい俺はサシコが俺の身体にのしかかった姿勢のまま動けなくなる。胸と胸が重なり、布越しに人肌の温もりと鼓動が伝播する。



「太刀守殿がアカネさんを好きな事なんてとっくに分かってました! でも……それと同じ様にアタシも太刀守殿が好きなんです!」



 サシコは今まで堰き止めていたであろう思いの丈をぶちまける。身体を合わせた今、息を切らせ荒げた吐息がその思いの深さとこの告白に賭ける覚悟の大きさを嫌がおうにも悟らせた。



「サシコ……お前……」



 サシコは俺の胸に顔をうずめ、衣服の肩口あたりをギュッと掴む。


 ……俺は自他ともに認める朴念仁だが、それでもサシコが俺の事を好いている事に気づかぬほど鈍感な男ではない。彼女の想いは分かっていながらも、それは年頃の少女が抱く大人の男への憧れとかつて彼女の村を救った事への恩義と尊敬がそう錯覚させているだけで、成長とともにそれは恋愛とは区別すべき感情だと気付いていくものだと思っていた。


 サシコは若年ながらこの旅の中で様々なことを経験し、同年代の少女たちより遥かに大人びている。剣の腕と相まってつい一人前の大人と同じように考えてしまっていた節があるが、彼女はまだ14〜15の娘。感情を抑える術を知らぬのは当たり前で、このような激発を迎える可能性は十分に考えなければならなかった。



「確かに……アカネさんは優しいし美人だし……とても魅力的な人です。アタシだってアカネさんの事は好きです。でもあの人はこの世界の住民じゃない……いずれは元の世界に帰るべき人なんです。太刀守殿だってそれは分かってるはずです」



 ……そう。

 そうだ。全くその通り。


 俺がアカネ殿と結ばれるなんてのは妄想も甚だしい。そんな当たり前の事は指摘されるまでもなく分かっている事だ。


 それなのにいつまでも彼女に恋慕を抱き、よしんば男女の仲になろうと邪な願望を捨てきれぬのは女々しき事この上ない。


 そんな事は分かっている。


 …………分かっているのに……

 


「太刀守殿とアカネさんは結ばれないんです! だから……!」



 サシコはそう言うと一度俺から離れ寝台に膝立ちになる。



「だから…………太刀守殿」



 そして、おもむろに着ていた衣服を脱ぎ捨て──



「太刀守殿はアタシじゃダメなんですか?」



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