表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
194/262

第192話 ディープスロート!(後編)

前回のあらすじ:ガンダブロウは反乱軍に協力する事を決意した日、吾妻榛名が話した御庭番の真の目的とは?




「【統制者】は歴史の闇で各国の政治に絶大な影響力を発揮してきた組織です。一般市民が想像もでき無いような情報網や超技術も有しています。しかし、彼ら自身が固有の兵力を有していませんでした。彼らにとって兵とは権力を使って間接的に使役するものでしたからね」



 なるほどな。御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)は【統制者】がキリサキ・カイトの統治下で自由に武力を行使する為の駒という訳か。【統制者】は常に歴史の裏側で暗躍してきた組織でその存在を広く知られるのはまずいのだろう。大規模な軍隊を持つのはその存在が知られる危険も伴う。とすれば必然抱えられる兵員は限られる。御庭番は数は少ないが個々の実力は一騎当千の隠密組織。【統制者】の求める条件にピッタリ当てはまるわけだ。



「ふーん。御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)は【統制者】の威力部門として雇われたってことね」



 マキの発言に吾妻が頷く。



「じゃ、じゃあ【統制者】たちは御庭番を使って帝を暗殺するつもりなんですか?」



 続いてサシコの発言。

 こちらには吾妻は首を横に振る。



「それならば良かったのですが、残念ながらそうではないのです」



 ふむ。それはそうだ。

 御庭番の狙いがキリサキ・カイトの打倒ならばその目的は反乱軍と同じであり、対立する理由はない。ならば必然彼らの目的は別のところにある事になる。



「御庭番がいかに強いといってもキリサキ・カイトの力もまた規格外……彼らが束になっても尚キリサキ・カイトに勝てる保証は無いのです。キリサキ・カイトに直接御庭番を当てるのは上手くない。それに【統制者】は寄る辺となる権力機構を失う事はそれはそれで恐れています。権謀の介在する余地の無いほどの混沌こそ彼らが最も恐れている事ですからね」



 確かに【統制者】のような組織は強力な権力者に寄生する事でその力を発揮する。自分たちの意でキリサキ・カイトを完全に制御できるようになりさえすれば、現体制はある意味【統制者】にとって一番都合がいい形なのかもしれない。少なくとも絶対的な支配機構がなくなった無政府状態よりかは遥かにマシであろう。そういう意味でもキリサキ・カイトを倒してしまうのは、御庭番はともかく【統制者】にとってはそうそう容認できない事だろう。



「故に御庭番の仕事はあくまで現体制化で【統制者】の管理体制を維持・強化する為、手足となって働く事になります」



 【統制者】の管理体制の維持……か。


 明辻先輩の話や武佐木小路乃(ムサキコジノ)から聞いたというサシコの話からも推察できていた事ではあるが、本来王城の護衛を主な任務とする御庭番の連中がジャポネシア各地で姿を見せていたのはやはり【統制者】の指示によるもの。その事はもはや疑いない事実のようだ。


 しかし……



「しかし、御庭番とて一筋縄ではいかぬ曲者揃い。彼ら全員が【統制者】に従うにはそれ相応の対価が必要なはずだ。【統制者】どもは一体何をエサに御庭番を従えている?」



 金鹿は例外としてあの燕木すらも【統制者】は従えている。

 いかにマガタマを管理する秘密組織といえど、ヤツのように人質や金では決して動かない男を従わせるには何かもっと別の条件を提示する必要があるだろう。



「言ったはずですよ。マガタマによる世界秩序の再構築……それが御庭番の最終目的だと」



 ……む、なるほど。話はそこに繋がる訳か。


 しかし、やはり分からんな。

 マガタマによる世界秩序どうこうというだけじゃ話は抽象的過ぎる。御庭番が目指すのはそんな観念的な事じゃあなく、もっと具体的な事だと思うが……



「ハッ……ま、まさか!?」 



 マキが何かに気がつく素振りを見せると、それに呼応して吾妻が首肯してみせる。



「……御庭番への対価とはすなわちマガタマの利用。彼らはマガタマの力を使わせてもらう代わりに【統制者】との協力を承諾したのです」



 なっ!?

 マガタマの……利用だと!?



「ちょ……ちょっと待て! なんか色々矛盾してないか!? そもそも【統制者】は誰にもマガタマを使わせたくないんだろ? その為に裏で色々と動いているのに御庭番どもにマガタマを使わせるって言うんじゃ本末転倒じゃないか!」



 俺はすぐさま吾妻の話の矛盾点を突く。



「無論、使わせると言っても【統制者】の許容範囲でだけ。金鹿のように世界を破滅させるような事はさせません」



 ……むう。【統制者】の立ち会いの下ならばそれも可能なのか……?

 もしそんな事が出来るのならば、条件付きでマガタマの利用を許可するのもアリなのかもしれないし、今後アカネ殿が戻った暁にマガタマの利用が必要だという事を考えれば俺たちにとっても朗報ではあるかもしれない……


 いや、しかし……



「で、具体的に御庭番の連中が何の為にマガタマを使うつもりなのかは分かっているの?」 



 混乱する俺とサシコをよそにマキが冷静に吾妻に質問する。



「御庭番は元より異形の能力を持つジャポネシアでも有数の強者たち。自分たちの力には絶対の自信があります。故に彼らの目指す秩序の形とはすなわち力。力ある者が支配し、力なき者はそれに従う弱肉強食の世界こそ彼らの理想……その理想を体現する為にマガタマの力を使うと聞いています」



 吾妻は淡々とマキの質問に答える。

 が、やはりその答えにも俺は納得がいかない。



「力ある者が支配する世界……ハッ! それならば今の世もそうだろう! キリサキ・カイトがこの世界を統一出来たのはその力ゆえ! 弱肉強食が理想ならばヤツこそその強き者の頂点ではないか!」



「そう。彼らの理屈で言えばキリサキ・カイトがこの世界を統一した事は正しい。彼らもそれは認めているのです。故に彼らが求めるのはキリサキ・カイトを打倒する為の力ではなく、その結果生まれた歪な秩序を修正する為の力です」    



 ……んん……?

 つまり……どういう事だ?

 


「実力もなく、キリサキ・カイトに媚びへつらう無能者が富を得、反抗する者はどれほど力を持っていても潰される。その様な社会ではいずれは誰もが向上心を失い、競争はなくなり、惰性と無気力に満ちた世界になるでしょう……彼らはそのような世界を最も憎んでいる。故に彼らはその秩序を乱す輩を排除し、キリサキ・カイトが彼らにおもねる様ならばそれを抑える為にマガタマの力を欲しているのです」



 詰まるところ御庭番の目的は世直し……か。


 最初に倒した御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の刺客・阿羅船牛鬼の辞世の句を思い出す。

 彼はこのジャポネシアに剣の秩序を取り戻す……という言葉を最期に残した。剣の力……六行の強き力を持つものがこの世界の覇者となる。国や民族も関係なくただ力こそを秩序の基準とする思想。正直、剣士として力を得る事に人生の大半を費やしてきた俺自身、その考え方に共感できる部分が無い訳ではない。


 ……ん?

 だが待てよ?



「それならばある意味御庭番とあなた達の目的は近しい。何も彼らと争う事もなく話し合いで解決できるのではないか?」



 秩序を乱す輩とは恭順派とそれに類する連中の事を指すのは明白だ。彼らと彼らを重用するキリサキ・カイトを抑えるのが御庭番の最終目的ならば反乱軍の目的とほぼ同じだ。

 【統制者】の目論見や御庭番の思想を総合すると、キリサキ・カイトを殺してしまうという事はないのだろうが、それにしても世界がいい方向に変わるのであればヤツの抹殺にこだわる事もないだろう。少なくとも妥協点を見出せる可能性は十分にあると思うが……



「確かに現状の変更という意味で御庭番の目的は我々と似ています。しかし、その先に求める世は大きく異なる。御庭番の志す世界では力なき者たちはいの一番に淘汰されます。権力にへつらう邪悪な奸臣も、日々毎日を生きるのに必死な罪なき民も……御庭番にとっては同じ弱き者なのです」



 ……確かに御庭番の思想は実力主義と言えば聞こえはいいが、その考えのもとでは弱者の生きる道は強者の下につく以外にはなくなる。競争が人類の進化に必要なのは間違いないだろうが、それも行き過ぎれば戦争となり多くの人間が命を落とす。つまり統一前の戦乱に逆戻りという事だ。



「我々はそういった力なき民たちの代表! 力なき者も力ある者と等しく権利を持つ"和"の世界こそが理想……故に我々が彼らと相容れる事はありえないのです」



 ふーむ。

 かたや強者による支配、かたや弱者の救済……同じく変革を求めながらも目指すべき世界は真逆という訳か。まったく難儀なものだな。



「御庭番と【統制者】の目的はよく分かった。あなた達と相容れぬ理由も……しかし、吾妻さん。何故貴方はそこまで【統制者】や御庭番の内情に詳しいのですか?」



 吾妻さんの話は驚くべき内容ばかりであるが、それは御庭番の今までの行動を見る限りそれなりに納得のいくものでもあった。


 しかし、それだけに単なる諜報活動による成果というだけでは納得のいかないほど彼らの秘密の核心に迫っているようにも思えた。



「ふむ………あなた方には話しておかなければならぬでしょうね」



 そう言うと吾妻さんは亜空路坊(アクロボウ)と座鞍に目線を送り、彼らが頷く事を確認すると再び俺たちの方へと向き直った。



「何故私が【統制者】の内情をここまで知っているのか……それは私が彼らと同じ【統制者】だからです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ