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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第191話 ディープスロート!(中編)

前回のあらすじ:反乱軍の会議に再び参加したガンダブロウは吾妻とのやりとりを思い出す……


※今回はまるまる回想。時系列は186話の直後から


───────────



─────



──



「彼らの目的……それはマガタマの力を利用した世界秩序の再構築です」



 座鞍の過去を聞いた直後。

 反乱軍の砦の司令室で吾妻榛名(アヅマシンメイ)に聞かされた御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の目的は聞き捨てのならないものであった。



「マガタマ!」



 俺が反応するより先にマキが「マガタマ」という言葉に反応する。

 しかし、そうか。やはりマガタマが絡んでくるか……



「……どういう事か詳しく説明してもらいましょうか?」



 マキが興奮気味に吾妻を問いただす。


 吾妻の言葉は衝撃的であったが予想の範疇から大きく逸脱しているものではなく、驚きと同時に納得感もあった。


 ミヴロでの金鹿馬北斎(カネシカマホクサイ)とのマガタマを巡る戦い……あれは御庭番を裏切った金鹿がマガタマを盗み出したのがそもそもの発端であった。御庭番がマガタマに執着している以上、彼らがその力を何らかの形で利用しようとしてる可能性は高いと思っていたのだ。 



「もちろん。マガタマについて知っている事を話す……もともとあなた方とはそういう約束でしたからね」



 む……そういえばそうだ。

 色々な事が起こって忘れていたが、俺がアカネ殿と離れて燕木のヤツと戦ったのもマガタマについて聞くため。吾妻が所属する六昴群星(プレアデスバルゴ)がマガタマの一つ、ヴィシュニタマの在り処について何らかの情報を有している可能性が高い──と、金鹿馬北斎(カネシカマホクサイ)が残した資料に記してあった。

 


「順を追って説明しましょう。まず、此度の反乱軍結成の発端となった恭順派による伝統派勢力の一斉摘発……あれはただの強欲な権威主義者たちの暴走ではない。そうする様に彼等を影から操る者たちがいるのです」




 サイタマ共和国内でキリサキ・カイトに媚びへつらう事で甘い汁を吸っていた恭順派。その筆頭たる"妹"たちが己の保身と権力の独占の為、兵士たちを抱き込んで政敵を排除した……というのが座鞍の説明であったがそれだけでは確かに違和感があった。

 軍の実行部隊を掌握し、政務に長ける海千山千の伝統派議員たちを一網打尽にするには相当な権謀と統率能力が必要である。議会の多数派を占めるとはいえ、元は寄せ集めの市民でしかない彼等が簡単に出来る事ではないのだ。つまり、統一前の旧為政者たちに準ずる者はいないとされている恭順派の中には単なる成り上がりの市民たちとは一線を画す実力者たちが混じっていて、彼らが中核となって烏合の衆を糾合していると考えれば合点がいく。



「一体誰なのですか? その様な事を仕向けた者たちとは……」



「この世界を裏から操る影の支配者。すなわち……【統制者】です」



 ……な!?



「【統制者】の奴らがそこにも絡んでるのか!?」 



 俺は思わず声を上げる。



「おや、どうやら【統制者】の事はご存知だったようですね」



 【統制者】……明辻先輩から聞いた御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)の協力者にして神器マガタマの管理者……大陸のほとんどの国の権力機構にその勢力を根付かせ、時代時代でマガタマを管理する為に国家権力を利用し続けてきたという影の組織だ。



「キリサキ・カイトによる大陸統一前のジャポネシアは実質的に彼らに支配されていたと言っても過言ではありませんでした。彼等は人知れず各国の権力中枢に潜り込み太古の昔から絶大な権力を持ち続けていました。時に貴族、時に商人、時に祈祷師……そして時には王族となってマガタマの管理体制を確固たるものにしてきたのです」



 ……実質的な世界の支配者か。


 確かに有史以前よりこのジャポネシアで暗躍してきたという連中だ。数年前までの最強国たるエドン公国の内部にも彼らはいたというし、他の大国にも同じく入り込んでいたというのも事実ならあながち彼の表現も大げさではないだろう。



「彼らは大陸統一後もその勢力を権力中枢に残し、今尚一定以上の力を有しています。しかし、その力は以前ほど絶対的ではない。先だって起こった玲於灘御珠守(レオナダミタマノカミ)のマガタマ強奪事件も彼らの支配体制がゆるんだ証と言えるでしょう」



 そうだ。それも知っている。

 明辻先輩が教えてくれた事だ。【統制者】の力は弱まっている。かつての力を維持出来ているならマガタマの情報が外部に漏れることもその存在を知る俺たちが生きているという事もあり得ないだろう。 



「今回は失敗に終わりましたが、このまま【統制者】の管理体制が緩み続ければ、いずれまた御珠守の様な者がマガタマを狙う事でしょう。そして、万が一マガタマが悪意ある者の手に渡ればこの世界の均衡は崩れ、下手をすればこの世界そのものが滅んでしまう可能性もあるのです」



 ……確かに金鹿の計画が成功していれば呪力の暴流に飲まれてこの世界は滅んでいた。マガタマの力の恐ろしさはこの目で見てよく知っている。【統制者】がマガタマを管理するのも正にああいう事態を招かぬ為であろうし、例え彼らが超法規的な力で国の政治に干渉する事になったとしてもその必要性は揺るがないだろう。



「そうならぬ為にも【統制者】は再びこのジャポネシアでの支配体制を確立する必要がありました。しかし、彼らの依代だった旧ジャポネシアの国々は既にキリサキ・カイトにより滅ぼされ、この世界の支配機構はサイタマ共和国の独裁体制に一本化された……ならば、彼らの取るべき道は一つだけ」



「……この世界の支配者、キリサキ・カイトを影から支配する、か!」



「その通り。奴らの目的はキリサキ・カイトを傀儡にしサイタマ共和国の実効支配をする事……いつの時代も彼らが行ってきたのと同じ事をこの国でもやろうとしているのです」 



 マガタマの存在を秘匿し、守り続けるのには巨大な権力は必要不可欠。

 そして、現状では統一国家を統べる独裁者キリサキ・カイトがこの世界の政治的決定権を全て有している。ならば彼を操る事を志すのは【統制者】たちにすれぼ当然の成り行きと言えるだろう。



「彼らはその目的を達成する為、硬軟織り交ぜた陰謀を企図しました。まず軟の策としてキリサキ・カイトに追従し彼の意思を間接的に操る事を画策……恭順派の中でもとりわけ彼への強い影響力を持つ"妹"たちの中に潜入し、キリサキ・カイトに気づかれずに彼の意思決定を操る事を目論みました」



「え!? じゃあ"妹"の中に【統制者】が混じっているの!?」



 サシコが驚きの声を上げる。



「ええ。妹たちの中の誰かまでは分かりませんがね。彼女たちの中に【統制者】がいる事は間違いありません」



 なんと。【統制者】とはそんなところにまで入り込んでいるのか……確かにキリサキ・カイトの"妹"への寵愛ぶりは有名だ。古くから王を落とすには毒も矢もいらず、一人女を送ればいいという格言があるが【統制者】もその教示に習ったという事か。明辻先輩を使って俺を操ろうとした時も思ったが、【統制者】は相手の弱みにつけ込むのが本当に上手い。

 


「キリサキ・カイトは異界人といえど、まだまだ若い青二才。彼の精神面を支配し操る事は【統制者】たちにとってはさほと難しい事ではないのです。しかし、キリサキ・カイトは気まぐれな男。ちょっとした事で感情的になり、その言動は安定しません。彼の命令だけを頼りにするのは大いに不安が残る……そこで!」 

 


 ふむ。確かにキリサキ・カイトの行動は悪い意味で読めない。コロコロと言うことをその場の気分で変えるなどザラにあると聞く……故に成熟した権力機構ではありえない様な事が政治の場でも起こり得る。陰謀家たちが一番操りにくいのは、そういった子どもじみた感情で行動に一貫性のない者だ。普通ならそのような愚者は裏から手を回して権力の座から排除するのだろうが、何しろ相手があのデタラメな強さを持つキリサキ・カイトである。暗殺が出来るならとっくにしているだろうが……くっくっく。いかに【統制者】といえど異界人を倒すのは難しいと見えるな。【統制者】どもがキリサキ・カイトがアホなばかりに頭を悩ませ、様々な回りくどい謀略をあれこれ考えていると思うと……なかなか滑稽で笑えてくる。

 


「【統制者】は硬の策を計画しました……硬とは武力。すなわち御庭番十六忍衆との同盟です」



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