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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第190話 ディープスロート!(前編)

前回のあらすじ:要塞マクガイヤを陥落させたガンダブロウとサシコは反乱軍の砦に帰還し……



 反乱軍の砦に帰還した翌日。


 俺とサシコとマキは砦の司令塔最上階にある軍議場に三度訪れていた。大きな一枚机には反乱軍を構成する各反統一派組織の幹部たちが顔を並べており、その中には壇戸さんや座鞍の姿もある。


 彼らの多くは着座する俺たちを明らかに注視しており、近くの席の者たちと何やら話し込んでいる様子であった。



「みんな、こっちを見てますね」 



 右隣に座るサシコが落ち着かない様子でそう言う。



「野郎ばっかりだからね。女子を見て興奮してんのよ〜、きっと」



 左隣のマキがそう軽口で答える。実際、反乱軍においてマキやサシコ、座鞍は人気があり声をかける男衆も珍しくなかったがこのざわつきはそういった理由によるものではないだろう。

 


「皆様方、ご静粛に」



 軍議場の最奥から声がすると、ざわつきは徐々に収まっていく。

 声の主は頭巾で顔を覆った大柄の怪僧・亜空路坊(アクロボウ)。そして、その隣には反乱軍の盟主・吾妻榛名(アヅマシンメイ)が鎮座している。亜空路坊が視線を送ると吾妻は黙ったまま、静かに頷く。



「これより反乱軍の最高幕僚会議を始める」



 亜空路坊(アクロボウ)がそう宣言し、反乱軍の作戦を決定する定例会議が始まった。



「まずは各方面軍の戦況確認だが……」


「私から報告しよう!」



 司会を務める亜空路坊(アクロボウ)に対して食い気味に発言したのは壇戸さんであった。



「皆も既に知っていると思うが、この度()()()()()()北部戦線では要塞マクガイヤが陥落した」



 壇戸さんは誇らしげにそう報告するが、周囲からは「お前がじゃなくて、太刀守殿が落としたんだろ!」とヤジが飛ぶ。しかし、壇戸さんはそれらの声に反応する事なく、自軍の手柄を喧伝するかのように報告を続けた。


「我らが落とした城は合計3つ。これでヤフカ砂漠以北の地域はほぼ我らの支配下に置く事が出来た」



 そのうちの2つは俺とサシコで落としたものなのだが……



「西部戦線も2つ城を落としたぞ!」

「東部戦線でも2つ!」



 壇戸さんに対抗するように他の方面軍の責任者たちも自分たちの戦果を報告する。



「どっちもアタシと太刀守殿が落とした城が含まれてますよね」



 そうサシコがボソリと小声で文句を言う。

 彼女の言うとおり、彼らの報告には俺たちが挙げた戦果も含まれていたがしれっと自分たちの軍の功績として計上していた。

 ううむ……戦後の褒賞を見据えているのだろうが、まだ勝利は確定していないのだし、こんなところで張り合っていても意味はないのだが……


 まあ、俺は彼らの中での論功になど興味がないから好きにすればいいんだけど。



「南部戦線の状況はいかがか」



 司会の亜空路坊(アクロボウ)は各方面軍の司令たちが必要以上に競い合う様子とは対照的に淡々と会議の進行に務める。



「……7つ」


「……えっ?」



 南部方面軍の司令官……踏越死境軍(モータルフロント)三蔵寺(サンゾウジ)の報告にどよめきがおこる。



「落としたのはトーダ、ワコン、アザカ、シュキ、トコローザ、サヤーム、イルマーナで、計7城…………以上です」



 南部方面軍の作戦はほぼ踏越死境軍(モータルフロント)の構成員だけで行われている。彼らは他の反乱軍たちとは異質であり、非常に好戦的で残虐だ。敵はおろか味方の被害にすら無頓着で、目の前に立ち塞がる者は仲間であろうと容赦なく攻撃する。故に誰も彼らと共に戦おうとする者はいないのだが、裏を返せば彼らはわずか十数人でそれだけの大戦果を上げたという事になる。



「ウラヴァに近く、防御の硬い南部で7つも……」

「これでサイタマ領内の主要な砦は半分以上陥落した事になるぞ」

「まさかひと月足らずの間にここまでの戦果が上がるとは……この勢いのままウラヴァを攻めれば本当に勝てるのでは?」

「いや、まだ御庭番を一人も倒していないのだ。それにウラヴァにはあのキリサキ・カイトもいる。油断は禁物……」



 思いもよらぬ快進撃に反乱軍の幹部一同は更に浮足立つ。

 実際、当初の戦力差を考えればこの連戦連勝は奇跡だ。喜び勇むのも無理からぬ事ではある。だが……



「各方面軍司令官は報告ご苦労。次いでウラヴァの最新の動向についてだが…」



 亜空路坊(アクロボウ)はまたしても静かに議題を進める。盟主・吾妻も彼らの武功にはさしたる興味を示さない。これほどの優勢であれば余勢をかって敵の本拠ウラヴァに全面攻撃の指令を出してもおかしくはないが、今の彼にその意思は感じられなかった。


 それもそのはず。何故なら今の現状はまったく優勢とは言えないのだ。


 無論、縮んだとはいえまだまだ彼我の兵力に差がある事や、御庭番十六忍衆やキリサキ・カイトとの戦闘が控えている事もそうだが、それ以上に勘案しなければならない事があるのである。

 しかし、反乱軍の将兵たちはおろか、今ここに集まっている幹部たちのほとんども戦局を左右するであろうその重大事項を知らない。知っているのは俺たちと、吾妻らこの反乱軍の核となる組織・六昴群星(プレアデスバルゴ)に連なる者、そして座鞍だけ……


 そう。

 キリサキ・カイト以上の最大の懸念事項とはつまりマガタマの事。俺たちは神話級の力を持つあの神器とそれを操る【統制者】たちとも戦わねばならないのである。


 俺はこの場でその衝撃の事実を聞かされたひと月前の事を思い出した。



 

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