第189話 城間往来!
前回のあらすじ:ガンダブロウはサイタマ軍の要塞マクガイヤを陥落させる!
「おお、太刀守殿っ!」
クギの反乱軍本拠地に戻ると、早速反乱軍の者たちが帰還を出迎えてくれた。
「英雄の帰還だ! 皆の者! 太刀守殿が戻って来られたぞ!」
そう一人が叫ぶと歓呼の波が次々と砦内を伝播。
またたく間に百人規模の人だかりが俺の回りを囲む。
「驚きましたぞ! あの難攻不落のマクガイヤをこれほど短期間に落とされてしまうとは!」
「これでカーゾ、ハネイ、カスカビアに続き、落した城は早くも4城目!」
「このままいけばウラヴァの陥落も遠くはない! 我らの勝利は近いぞ!」
俺が一言話す間もなく、皆が矢継ぎ早に賛辞を述べる。
次から次へとやってくる反乱軍の者たちの熱は、つい先日御庭番にここを襲撃され、壊滅寸前に追い詰められたとは思えない程であった。いつの間にやら人の数もかなり増えている様でもあるし……
「ええと……はは。どうも……」
戦地から帰りこうして武功への称賛を受けるこそばゆさはなんとも懐かしい感じがするな。かつて明辻先輩や仲間たちと幾多の戦場を駆け抜けた若かりし頃の記憶。しかし、今は彼らの歓呼を素直に受け入れ喜ぶ事はできない。俺と彼らでは根本的に目指しているところが違う。俺の目的はあくまでアカネ殿の救出である。砦を落としたりサイタマ軍を倒すのは二の次であり、アカネ殿を救い出す為の進展がなければこれといって喜ぶ理由もないのだ。
「太刀守殿! 次はどちらの戦場に行かれるのですか?」
「次こそは我がティーバ維新会と共にご出陣下され!」
「いやいや我ら小鳩連盟と…」
そんな俺の葛藤を知らない反乱軍の者たちは俺との共闘を申し出る。おこぼれの武勲欲しさか壇戸さんの様な楽に勝つ為の算段か……いずれにしても今の彼らの士気の高さは尋常ではない。俺の方に人波となって押し寄せる彼らにはある意味では戦場で見える敵以上に威圧感を感じた。戦意高揚も俺を仲間に引き入れた目的の一つと座鞍も言っていたが、ここまで効果があるとは我ながら驚きだ。
しかし、反乱軍の戦略はそれでいいんだが、ここまでくると俺としては少し鬱陶しい。期待や激励をするなとは言わないが、これではまともに道も歩けないではないか……
と、彼らの扱いに俺が困っていると……
「…………すみませんが!」
一緒に戦地から帰還したサシコが彼らと俺の間に入って率先して道を開けてくれた。
「今日は太刀守殿はお疲れですから……道を開けて下さい!」
そう言ってサシコが人混みをかき分けると無理矢理に道を作り、俺たちが詰め所としている建物に足早に入るとバタンと扉を閉めた。
「すまんな、サシコ」
「いえいえ。いいんです、これくらい……アタシは今回戦いではほとんどお役に立てませんでしたからね。何か少しでも太刀守殿のお役に立ちたいんです」
サシコはそう言って笑った。
……俺の役に立ちたい、か。
サシコは反乱軍の戦いを好意的には感じていない。いかにキリサキ・カイトの悪政に反抗する為とはいえ、せっかく終わった戦乱の世に再び血を流す道を選ぶのには彼女はむしろ反対の立場だ。
それでも結局彼女が反乱軍の砦に留まったのは俺を役に立ちたいからだと言う。無論、アカネ殿を助ける為に反乱軍との共闘は有益であるというのもあるが、それ以上に彼女の選択は俺の存在に左右されている。その根源にあるのは尊敬か義理か、はたまた別の情念か……
いずれにしてもサシコはまだ14歳の少女。剣士としては既に一流の腕前があるとはいえ、自分一人の自由意思で行動を決定するにはまだまだ未熟もいいところである。そのいたいけな少女の行動を俺が束縛してしまっているというのは自覚しており、成り行きであるとはいえ忸怩たる思いを感じるざるを得ない。今はアカネ殿を助けるという使命に集中しなければならないが、いずれはサシコの人生を狂わせてしまった事についても何らかの形で報いなければならないだろうな……
「やあ、やあ。この暑いのによくやるわねぇ」
と、いつものように後ろめたい思考を巡らせ気分が沈みかけているところに正反対に陽気な女が現れる。藤色の艶やかな髪をフワリとなびかせ颯爽と登場したその姿は、汗と砂埃に塗れた俺たちの姿と対比すると憎たらしいほど優美であった。
「マキ」
彼女は今回の戦いには参戦せず砦に残留していた。理由は「暑そうだから」である。
「まー、アンタたちにかかればあんな城はチョチョイか。この調子で頑張って残りの城もパパッと落としちゃいましょーね〜」
「吉備さん! 簡単に言いますけど、大変だったんですよ!」
「あら? 砦攻めは楽勝だったって聞いたわよ?」
「そこに行くまでが大変だったんですぅ!」
そう今回の出征での苦労は戦いよりもその旅程にあった。砂漠をほぼまる一日歩き続けた疲労は下手な六行使いと連戦するよりもキツイものがあった。
「そもそも貴女が来て探査能力を使ってくれてれば道中あんな苦労は……」
「ところで、村雨くん。今回の城では何か収穫があったのかしら?」
マキは都合の悪い問責をかわしつつ、俺に対して質問を投げかける。
「……いや」
俺は静かに首を振る。
「そう……また空振りってワケね」
俺が反乱軍に参加してから落とした砦はマクガイヤで4つ目。しかし、どの砦にもアカネ殿はおらず、手がかりすら掴めなかった。
「結局、今回も御庭番はいませんでしたしね」
亜空路坊の説明ではサイタマ共和国直轄領内のどこかの城を御庭番十六忍衆が根城にしており、アカネ殿もそこにいる可能性が高いという事であった。俺はその推測に従い彼らが目星をつけている城を順に落としていっているが、アカネ殿の姿はおろか御庭番の一人とすらもまだ接触できていない。
「反乱軍が調べたっていう御庭番の拠点ていうのは本当に合ってるんですかね?」
「まあ、村雨くんに協力させる為に嘘をついてたり、情報を小出しにしてる可能性はあるわね」
……流石に虚偽の情報という事はないとは思う。俺たちの目的に非協力的という事が分かれば俺は即彼らとの同盟は解消するし、それは彼らとしても困るだろう。だが、確かに情報を小出しにするくらいはやってきそうだな。何しろ相手が相手である……完全に信用しろと言うには無理がある。
「座鞍はともかく吾妻榛名と亜空路坊は要注意だ。特に吾妻榛名。ヤツのハラの底がまったく見えん……」
「そうね。注意するに越した事はなないわ……何せヤツはあの【統制者】を名乗ってるんだからね」




