第188話 熱砂戦線!(後編)
前回のあらすじ:反乱軍に加わったガンダブロウは鉄壁と謳われる熱砂の要塞マクガイヤへと向かう。
「うわははは! どうしたどうした、反乱軍の白菜野郎ども! 今日も遠巻きに見てるだけで近寄る事も出来んのかァ〜?」
反乱軍の陣中から離れて要塞マクガイヤの城壁に近づくとこの暑さを更に増幅させる熱苦しい声が聞こえてくる。
「この程度で音を上げるとは、お前らの根性は傷んだナスのヘタの様にしなびてる様だなァ!」
要塞マクガイヤの城壁の上に目を向けると大声で挑発を繰り返す筋骨隆々の大男の姿があった。
上半身裸でねじり鉢巻をした髭面は遠目に見ても非常にむさ苦しい。
「太刀守殿。アイツですね」
「うむ。その様だ」
隠すことなく放たれた呪力の気配……あやつが、この砦を守備しているという六行使いだな。
しかもこのムンムンとむせ返るような熱気に近い呪力は間違いなく火行使いのもの……そうか。この異常なまでの暑さはヤツの術の効果でもあるのだな。
……ふむ。どうやら壇戸さんの話の通り、なかなかの使い手のようである。しかし……
「もしも貴様らに岩盤を突き破って自生する大根のごときド根性があるのなら命を惜しまず…」
「おい!!」
俺は大声で叫び続ける男に大声で呼びかける。
「ああん? なんだ、お前はァ!?」
「暑いので手短に言う! 降伏して砦を開け渡せ! 投降するなら命は取らんし、逃げるというなら追いもせん!」
俺は一応の戦闘の礼儀として降伏を勧めた。この状況でそう容易く承諾する訳もないがこれが俺の流儀である。
「うわはははは! 何を言うかと思えば降伏しろだと? 城壁に近付けもせんくせに……? ハン! へそでかぼちゃが取れらァ! このヘチマひょうたんが!」
無論、言うまでもなく答えは否。
……であれば、やはりやるしかない様だな。
「……もう一度だけ言う。降伏しろ、さすれば命までは取らん」
俺は草薙剣を抜きつつ、砂上にそびえる城壁に向かいまっすぐ歩き出す。
「太刀守殿! おひとりで行くおつもりですか?」
「ああ、俺一人で充分だ。サシコはどこか日陰で休んでおれ」
俺は振り返らずにサシコにそう言うとなおも城壁に対して前進する。
「おいおいおーい! まさか貴様一人でやるつもりか?」
「ああ! 俺一人だ!」
「……はっ! 面白え! やれるもんならやってみやがれってんだ! 熱波隊ィ!」
男がそう叫ぶと…
「「「「 ハッ!! 」」」
城の中より6人の法被姿の男たちが飛び出してきた。
6人の男たちはそれぞれ呪力の気配を漂わせており、また全員が身の丈ほどもある巨大なうちわを手にしていた。
「このマクガイヤが何故難攻不落と謳われるのか……それはこの俺!! "サイタミニカの熱伝導師"こと熱杜研熊とォ…」
「「「 我ら熱波隊がいるからだ!! 」」」
彼らがそう叫ぶと、砦の周辺に呪力が一気に充満する。またそれに呼応するように城壁に等間隔に置かれた篝火に炎が灯り、砦の最上部からも巨大な炎が燃え上がった。
「 草葉の裏の白露は煮えて… 湖面の月も干上がり朽ちる… 無常無比なる風乱れ… 火口の雲が覆う土… 」
炎が燃え上がる度に熱杜研熊とやらの身体から火行の熱気が吹き上がる!
むゥ……そうか!
こやつら、この砦そのものを巨大な篝火に見立て陰陽術の触媒としているのか!
「化天も現も儚き夢も… 滅せぬもののあるべきか…… くらえい! 火行【赤蒸気流】!」
熱杜研熊がそう叫ぶと、彼の身体からとてつもない熱波が吹き出す!と、同時に取り巻きの6人衆も手にした巨大うちわを豪快に振り下ろし、こちらも陰陽術を発動させる!
「「「 風行【湯滔波】 !!!! 」」」
すると凄まじい熱風が吹きすさび、城壁に迫らんとする俺の身体に叩きつけられた。
「ぬ……ぐうぅ……!」
砂塵を巻き上げて吹き荒れる高熱の気流はもはや熱風というより爆風である。これを浴びれば生半可な結界などでは防ぎようもないだろう。
「にゅああああっ、暑……暑苦しい〜!!」
俺の後方に控えるサシコも高温の風に苦しむ声を上げる。もともと暑さに弱いという事もあるが、それ以上にむさ苦しい中年男が醸し出したどこか男の汗臭さを香らせる熱波に生理的嫌悪感を感じているからでもあるようだった。
「うわはははは! 見たか! これぞ漢の合体陰陽術! 火風合行・熱波漏流の術なりィ!」
ふむ。火行により発生させた高熱を風行の突風に乗せて拡散させる合体陰陽術か……熱による攻撃力こそ至近距離で直接受けるよりも一段落ちるだろうが、その分射程距離と攻撃範囲は飛躍的に上がる。また砂漠の砂を巻き上げる事による目潰しの効果もある。
半裸の汗ばんだ男が身体から立ち昇る熱気をうちわで送風するという見た目の不格好さは置いておくにしてもこれは確かに厄介な術だ。猛暑との相乗効果もあり、実際に兵士たちがこの暴風を突破して砦を落とすというのは至難の技であろう。
……なるほどな。この術が要塞の守備の要というのならマクガイヤが難攻不落と呼ばれるのも頷ける。だが……
「むう……!?」
俺は凄まじい熱波の向かい風の中を進み、草薙剣を構える。
「エドン無外流『逆時雨』……」
「ば、馬鹿な……!? この灼熱の暴風の中を真っ直ぐに進んでくるとは……まるで、この砂漠に育つヤフカねぎのごとき暑さ耐性…………む? ……いやこれは!?」
確かに恐ろしい術だが、火行と風行の力を大量かつ広範囲に放つこの技は相手の六行の作用を逆利用する俺の『逆時雨』とは相性最悪だ。これほどの威力ならば俺の技もまたとてつもない威力となる……!
「やつの回りの熱風が剣に集まっている……!? な、なんだ……なんだこれはァ!?」
熱杜研熊は初めて見る『逆時雨』の性質に驚愕する……が、気付いた時にはもう遅い。
「" 秘 剣 ・ 汗 蒸 幕 返 し "!!」
俺は草薙剣を振り下ろし、放たれた熱風をそっくりそのまま城壁の上のの熱杜研熊たちに跳ね返した!
「う、うおおおおお!!!!」
高熱の暴風は荒れ狂い、竜巻となって熱杜研熊とその配下の者たちを空に打ち上げた。
そして、風と熱気に空中で自由を奪われた熱杜研熊はそのままきりもみ回転で城壁の下へと落下する。
「ゲブウゥ!!」
その様子を見届けた俺は倒れた熱杜にゆっくりと近づき、剣を首へとつきつけた。
「俺を倒すには少し工夫が足りないな」




