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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第182話 欲望宮殿!(中編)

前回のあらすじ:サイタマ共和国の中枢乗っ取りを企む"妹"たちの魔の手が座鞍に迫ろうとしていた。



※ 今回も引き続き座鞍の回想



「はあっ、はあっ……!」



 深夜の後宮──心臓が張り裂けそうになりながらも走った。


 瑠華の部屋で聞いてしまった、横領の密談と不貞の実態。

 この事が公になれば彼女たちの失脚はもちろん、"妹"たちを中心とした恭順派主体のこの国の勢力図がひっくり返るであろう一大事だ。物的証拠こそ掴めなかったが、私の証言を元に本格的な調査をすればいずれ事実は明らかになるであろう。


 私は自室にたどり着くと、興奮冷めやらぬままに扉を開けようとする……が、ふとそこで一考する。


 よく考えろ……今夜このまま後宮の中にいるのは危険じゃないだろうか?


 数十人いる"妹"たちがどこまで璃樂(リラ)瑠華(ルカ)とグルなのかは分からないけど、この後宮内の衛兵や使用人たちの何人かは既に抱き込まれているという可能性は高い。彼女たちが非公式に私兵を雇っているという噂もある。

 瑠華の部屋の前で顔を見られたかどうかは分からないけど、もし見られていたとしたら彼女たちは即座に私の部屋に口封じの刺客を放つだろう。じっとしていれば確実に殺される。逆に顔を見られていないとしたら不用意に動くのは怪しまれる可能性がありこれも危険だ。


 身の安全を確保する為にはどちらを選択するのが正解か。


 一番確実なのはキリサキ・カイトにこのまま密告して直接庇護を求める事だが、今夜に限って彼は遷都計画の視察の為この王宮にいない。彼女たちもそこまで計算の上で今日を密会の日にしたのだろうが……


 いずれにせよ考えてる暇はないわね。

 ここは多少危険でも後宮から離れる事を選択しよう。"妹"が許可なく外出する事は禁じられているがそんな事を気にしている場合でもない。



 ……と、決断して自室のある塔から駆け下りる。すると入れ替わりに誰かが私の部屋の方に向かう気配を感じた。バタバタとしたせわしない足音、聞こえる衛兵たちの慌ただしい声……やはり逃げたのは正解だったようね!


 しかしこの手際の良さ……事態は思った以上に風雲急を告げているようだ。ボヤボヤしてる暇はない。すぐにこの事を小栗(オグリ)に伝えなければ……!



 私は意を決して後宮を出ると、夜番の衛兵に気づかれぬよう息を潜めて城を抜け出した。

 目指すはウラヴァの町にある小栗の屋敷だ。



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 城を抜け出し、夜の首都を徘徊する事数十分。


 評議員たちの屋敷が立ち並ぶ丘陵の住宅地にようやくたどり着いた。本当は馬を使えば早かったが、流石にそこまでの余裕はなかったしこんな夜に馬を走らせれば相当目立つ事になるだろう。夜間といえど首都には人の往来もあり、何より憲兵たちがそこかしこにいる。故に提灯も使わず月明かりだけを頼りに暗い裏通りを進んできた。


 幸い誰に呼び止められることも無く目的地である小栗の屋敷の近くまで来られた…………ここまで来れば一安心。あとは彼に今夜見た事を伝えて、警護と告発の準備を依頼するだけ。ええと、確か彼の家はこの辺りのはずだけど……て、んん?



「えっ? あれは……!?」



 小栗の屋敷の周りを7〜8人の男たちが彷徨いているのが見えた。男たちは黒い帽子と装束姿で腕にはそれぞれ白い腕章……あれは憲兵隊!? 


 今彼らに見つかるのはまずい。一旦物陰に隠れて様子を伺う。



「おい。見つかったか?」

「いや、こっちにはいない」



 憲兵隊は誰かを探している様子……ま、まさかもう捜索の手が回っているの!?

 まだ私が後宮を抜け出して30分足らず……しかも私が小栗と繋がりがある事は誰にも知られていないはずなのに、一体何故!?



 と、安堵から急転直下追い詰められた状況に混乱していると、ふいに背後から肩を叩かれる。

 


「……きゃあっ!?」



 一瞬心臓が凍りつく──敵に見つかってしまった!?

 そう思い振り返るとそこには見知らぬ若い男……しかし、彼は私を捕縛しようとする素振りは見せず、両手を上げて敵意が無いことを示した。



「お静かに。やつらに見つかります」



「あ、貴方は……?」



「私は反統一派組織の者です」 



 反統一派組織……!?


 キリサキ・カイトによる治世に反対する市民たちが集まって作った武装集団……確か最近、旧トッチキムやティーバなどを中心に複数の団体が結成されて国軍との小競り合いも頻発していると聞いていたけど、この首都ウラヴァにまで潜んでいるなんて……


 しかし、彼らが何故私の元に……!?



「エドン公国公女の座鞍殿下とお見受けします。私は貴女を助けに参ったのです」



「え……!?」



「混乱するのも無理はありませんが、我々は味方です。色々と説明もしたいですが今は時間がありません。まずは安全な所に移動しましょう」



 男はそう言うと、ついて来いと言わんばかりに小栗邸とは反対の方向に歩き始める。


 正直言っていきなり現れた彼を信じる事は出来ない。

 助けると言いつつ私を拐うつもりの可能性だってある。しかし、力づくで誘拐する事も出来たのにそれをしなかった事から少なくとも今すぐ私の身をどうこうしようという訳ではなさそうであった。


 このままここに留まれば憲兵に捕まるのは時間の問題……ならば今は背に腹は代えられない。そう意を決して私は反統一派組織と名乗る男についていく事を選択した。




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