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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第16話 早すぎた再会!

前回のあらすじ:野盗を蹴散らしつつガンダブロウとアカネの二人はハッコーダ草を求めて「虹の泉」を訪れる。その神秘的な湖のほとりにて、アカネはガンダブロウにある質問を投げかけた……



「ガンダブロウさんはわたしの兄に会ったら兄を斬りますか?」



 …………なるほどな。



「ガンダブロウさんが兄を恨むのは当然だと思います……だから、ガンダブロウさんが兄に何をしようとわたしは止めるつもりはありません。だから正直に答えて欲しいんです。ガンダブロウさんは兄に会ったらどうしたいのか……」


 アカネ殿はさっきの野盗とのやり取りを踏まえた上で質問している。

 俺はさっき野盗を見逃す理由に、この世界の法を持ち出した。法の秩序に従うのならば俺にキリサキ・カイトを斬る資格はもちろん無い。


 だが確かに俺はキリサキ・カイトを恨んでいる。それこそ、この手で斬り捨ててやりたい程にだ。その矛盾に俺がどういう解を出すのか……アカネ殿はそれを聞いているのだ。しかし……



「正直なところ…………自分にも分からぬ」


「……それってアタシに遠慮して言ってます?」


「いや、はぐらかしている訳ではなく、本当に分からんのだ。キリサキ・カイトに会った時に自分がどう行動するか……俺自身にもまったく見当がつかん。それが今の偽らざる本心だ」



 そう。


 正直に言って自分がキリサキ・カイトをどうしたいのか全く分からないのだ。


 刀を抜くのか、対話を試みるか、はたまたそのどちらでもない行動を選択するのか……



 アカネ殿に対して態度をはっきりと表明できないのはもどかしいが、今の俺にはこれ以上答えようがなかった。



「わたしがガンダブロウさんなら兄貴は斬っちゃうかもな~」


「……恨みが消えた訳ではない。しかし、どんな歪な形であれ……どれだけの血が流れたとて、この世界から戦乱が無くなったのはヤツの功績だ。悔しいが、それは認めているんだ」


「ふーん、大人だなあ」


 アカネ殿は感心したのか呆れたのか、そのどちらとも取れるような言葉を述べると、


「変な事聞いてごめんなさい! さあ、気を取り直してハッコーダ草を探しましょう!」



 と、普段のあっけらかんとした態度に戻った。



「……ああ。そうだな」



 俺は短くそう答えた。彼女が俺の答えに納得したかは分からないが、彼女がその事についてはそれ以上触れなかった事はありがたかった。




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「おおっ、アレじゃないですかね?」


 ギザギザで波打ったような歪みのある独特の葉。アカネ殿の指さした先には町で聞いた特徴と一致する形の草が群生していた。


「うむ、間違いなさそうだ」


 俺は「ハッコーダ草」の近くまで行き、袋に入るだけ刈り取った。自分で言うのも何だが、薬草を収集する手際は迅速かつ無駄が無かった。5年もの間草刈りをしていたのだから当然と言えば当然だが……いや、しかし、せっかく草刈りから解放されたというのに結局また草刈りをしているとはな。まったく、何の因果であろうか。



 そう自嘲するようにため息をした時──右手の茂みの奥から誰かが近づいてくる気配を感じた。



「……ガンダブロウさん!」


 アカネ殿も気配に気づいたようである。草をかき分ける音が段々と近づいてくる……が、野盗の襲撃の時とは違い気配を隠そうとする様子は感じられない。



 一体何者か?

 その疑問の答えは驚きと共にすぐに明かされた。



「やっと見つけた!!」


 茂みから聞こえてきたのはよく知った声──



「サシコ!?」


 現れたのは宮元住蔵子(ミヤモトスミサシコ)であった。



「サシコちゃん、実家に帰ったんじゃなかったの!? てか何でここが!?」


「ふっふっふ! ここはあたしの地元ですからね……ツガルンゲンの町であなたたちがハッコーダ草を探していたという情報を聞いたんですよ」


 サシコが俺たちの動向を把握できた理由を簡潔に説明した。確かにサシコはこの辺りの出身──俺たちの情報を町で聞いたとしても何ら不思議ではないが……



「そんな事はどうでもいい。何故来た? 旅には付いて来るなと言ったはずだぞ」


「付いてきたんじゃありません~。あたしはあたしの地元を散歩していただけですー」


「この辺りには野盗がウロウロしてるんだぞ? 若い娘が一人で出歩くなど、どれほど危険な事か……」


「あたし、野盗になんて負けませんし」


「このあたりの野盗は正規の訓練を受けた元兵士だ。 見張り棟の見習い兵などが一人で太刀打ち出来るほど甘くは…」


「だったら太刀打ち出来るようにあたしを強くして下さい!」


「な!?」


「次に会ったら剣術を教えてくれる約束でしたよね?」


 ぐっ……そうきたか。


「ガンダブロウさん、連れてってあげてもいいんじゃないですか?」


 アカネ殿が情にほだされてか、サシコの願望に同調する姿勢を見せる。だが、サシコがいかに懇願しようとアカネ殿が寛容さを見せようと、こればかりは許可しかねる。


「ならん! この旅は危険が多いのだ。野盗ならまだいいが、正規軍の刺客がやってくれば危険はさらに増す! それに……そう、それに今でも路銀はギリギリなんだ。三人旅を賄う余裕はないのだ」


 そう、これは事実だ。恥ずかしい話ではあるが、サシコの分の食い扶持はとてもじゃないが捻出できない。残念だが、これでサシコも納得せざるを得ないはずで…



「もちろんタダとは言いませんよ?」


「えっ?」


「ふっふっふ……こっちに付いて来てください!」




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