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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第171話 狂騒のコンチェルト!

前回のあらすじ:燕木哲之慎と戦うガンダブロウの元に戻るサシコ。その目に映った信じ難い光景とは……?


※一人称視点 ガンダブロウ



「はあああァっ!」



 幾度目かの燕木哲之慎との打ち合いに臨む為、俺は大地を蹴って間合いを一挙に詰めた。俺の得物は刀、対して燕木は槍。武器の特性を考えれば間合いを空けての戦いは俺が不利。逆に間合いを詰めてしまえば小回りの利く刀の方が有利になる。まして燕木は隻腕。この定石通りに攻めればいかに燕木と言えど何手か後に詰みとなるはず……という判断の元、燕木に攻め込むが……



「……ぐゥっ!」



 燕木は片腕で迅速かつ正確に三叉の槍を操り、俺の連撃を防ぎ続ける。そればかりか刃を重ねる毎に攻め込んでいたはずの俺がいつの間にか防御に回されている…………くっ、また同じ流れか!?



「……フン!」



 そして何手目かの俺の横薙ぎを三叉の槍先で捉えると、そのまま槍の柄を逆に押し込み、刃先と反対の先端で俺の腹部を強打する!



「ぐほっ!」



 ただの打撃とはいえ、呪力で強化した腕力による攻撃!

 まともにみぞおちに入れば無視できないダメージとなる!


 俺は激痛を覚えながらも間髪入れずに来る追撃の2連突きをなんとか回避し、大きく跳躍して間合いを開ける。しかし、攻撃を受けてうまく息を吸えぬまま無理矢理に動いた影響か、体勢を整える為に一呼吸しようした時、臓腑がきしみ肺から強制的に空気が吐き出され呼吸が乱れた。


 俺はたまらず膝をつき、剣を杖代わりになんとか体を支える。



「ハァ……ハァ……」



 くっ……!

 さっきからこれの繰り返し……打ち込みの中でこれでもかと攻め方を変化させているが、反撃の糸口がつかめん!


 奴は未だこれといった六行の技も使っていないというのに……ただの打ち合いで何故ここまで差が出る?



「えっ!? 太刀守殿!?」



 背後から声が聞こえる。


 サシコ……戻ってきたという事は反乱軍の要人の安全を確保できたという事か?


 それならば、俺の役割はこれで完了だ。戦略目的は達成したのだから燕木と打ち合う必要性はもうない。奴が対話に応じない以上、ここは追撃を避けつつ撤退するのが良策だが……



「どうした村雨? 太刀守の剣がこの程度のものか?」



 燕木が膝をついた俺を見下ろしながらそう吐き捨てる。


 安い挑発。こんな使い古された手に乗るのは馬鹿だけだ。

 そんな事は分かっている。


 だが……



「オオッ!」



 俺は呼吸を整え再び斬りかかる。

 しかし、焦って攻撃を仕掛けてしまった為か今度はニ、三度程の打ち合いで連撃を見切られ、槍の横薙ぎを踏み込まれる。


 受け太刀こそ成功したが、踏ん張る事は出来ず槍の衝撃で吹っ飛ばされ地面に叩きつけられた。



「ぐ……何故だ! 何故こうも刃が立たん!」



 今まで何人もの六行の達人を倒してきた俺が何故、やつに対してはここまで一方的にやられているのか……答えは分かっている。

 燕木は俺の『逆時雨』の特性を知っている。故にあえて六行の技を使わずに純粋な武芸だけで挑んできているのだ。『逆時雨』は完全な後の先の剣。返し技を封じられてしまえば、俺から六行の技を使う事はできない。無論、そんな事は俺の技を知っていれば誰でも思いつく対策で、現に黒子人形から情報を聞いていた熊野古道伊勢矢の手下はその先方を使って食い下がってきたし、金鹿馬北斎も即興で六行を使わない飛び道具による攻撃をしてきた……だが、俺の剣術はそんな浅知恵だけで対抗できる程ヤワな鍛え方をしちゃいない。むしろ純粋な剣の打ち合いこそ、俺の望むところであり、太刀守としての真骨頂だと自負していた。



「やはり今のお前は弱い。かつてのお前ならば片腕を失った俺程度を相手に、その様に惨めに這いつくばる事もなかっただろう」



 燕木は再び今の俺の弱さを指摘する。


 ……そう。分かっているのだ。

 六行の技を使わない単純な武芸合戦で敗れるという事はつまり、剣の腕で奴に劣っているという事。つまり単に燕木が俺より強いのだ。



「昔のお前はもっと強くて美しかった。あるいはあの時のお前となら課せられた責務も宿願も、全て忘れてただ純粋に武を高め合う事も出来たかもしれんと……そう思ったが……」



 燕木は再び槍を構えて攻撃態勢に入る。



「村雨岩陀歩郎ともあろう者がその様な無様な姿を晒すのはつらかろう。今俺が幕を引いてや……」



 止めを刺さんと燕木が一歩踏み出したその時──



「ヌハハッ! 見つけたぜ、太刀守!」



 突如、乱入者が現れ俺と燕木の間に割って入る。

 黒の外套を羽織った大男は剣を振りかざして跳び上がり、先制攻撃を仕掛けてきた。



「"唐竹・暴呀(ボア)"ッ!!」



 俺は落下の衝撃を加えた振り下ろしの斬撃を回避!

 ズドン!という轟音と共に剣が着弾した地面がえぐれ、砂塵が舞う!



「むうっ……!?」


「ヌアアッ!!」



 更に間髪入れず、砂塵にまぎれての奇襲攻撃!

 舞い上がった砂煙と呪力の気配からなんとか攻撃を読んで防御に成功……そのまま刀同士の鍔迫り合いの格好となる。

 


「……ぐぐ!」


「た、太刀守殿っ!」



 獣のような荒々しさと繊細さを兼ね備えた剣……俺が燕木との戦いで消耗していた事を差し引いても見事な技前と言える。


 こいつは確か……


 

「やはりまた会ったな!!」



 踏越死境軍(モータルフロント)

 ……の猪村とかいう剣客!


 こやつが何故ここに……?



「ちっ……ハアッ!!」



 猪村の剣を弾いて、間合いを大きく開ける。


 

 ……考えるのは後だ。

 燕木に加えて踏越死境軍(モータルフロント)の連中まで一人で相手にするのは流石に荷が重い。燕木の奴にやられっぱなしでいるのはシャクだが、ここは一旦撤退するしかない。



「んん? なんだァ? 弱ってるのか?」



 猪村はチラリと燕木の方に視線を向ける。



「ヌクク! なるほど、コイツと戦って苦戦していたのか……」



 踏越死境軍(モータルフロント)は戦闘狂の集団。より強い獲物との戦いを常に求めている。であれば、俺を追い詰めた燕木の存在を知ればそちらに興味が移るのが必定。この際は、こやつと燕木を上手くぶつける事が出来れば俺は撤退できる……


 しかし、その思惑ははずれ、猪村は燕木には一瞥しただけであくまで俺に対してのみ戦闘の意思を示した。



「だが、そんな事は俺には関係ねえな! 俺の獲物はあくまで貴様だ、太刀守! 我が流派……バラギ新陰流との因縁! ここで決着つけさせてもらうぜ!」



「何ィ!? バラギ新陰流だと!?」 



 バラギ新陰流……旧バラギスタン帝国内の剣士に相伝される名門剣術流派で俺がかつて倒した戦国七剣・緋虎青龍斎(ヒドラセイリュウサイ)、その弟子で御庭番十六忍衆・阿羅船牛鬼(アラフネギュウキ)もその使い手であった。


 なるほど。先日剣を合わせた時に言っていた俺との因縁とはつまりその事であったか。であれば同門の先達たちを連破してきた俺に対して彼が異様に執着を見せるのも頷ける。

 流派の看板を背負った復讐戦……本来ならば受けてやるのが剣士としてのスジであるが、今は流石に余裕はない。なんとかして彼の追撃を振り払わねばならないが……



 と、思案を巡らせた時。

 近くで突如爆発が起きる。


 

「今度は何!?」



 サシコが叫び声を上げる。

 この呪力の気配……陰陽術による爆発か。


 爆発の方向に目を向けると、爆煙の中から小柄な少女が飛び出してくるのが目に入る。



「コジノさん!」



 武佐木小路乃(ムサキコジノ)

 燕木の弟子というあの娘もやはりこの戦場に来ていたのか!



「サシコちゃん……師匠……!」



 武佐木小路乃(ムサキコジノ)は一度こちらに目を向けるがすぐさま爆心地の方向に視線を戻した。

 

 彼女の警戒は今の爆発を起こした陰陽術師に向けられている……そして、爆煙の中から彼女を追って黒い外套を羽織った二人が姿を現した。



「待て待て〜!」



 一人は盃を編笠の様に被る女、もう一人はクリバスの門で大規模陰陽術を発動した小柄な老人。

 踏越死境軍(モータルフロント)の新手……どちらも気配からして相当の使い手だと察する事が出来た。



「て、あらっ♡ イケメンがいる」

「おお、あれは燕木哲之慎(ツバキテツノシン)。それに太刀守もいる……フェフェフェ、大物揃いじゃ」



 二人の術師は俺と燕木に反応し、武佐木小路乃(ムサキコジノ)からこちらに照準を切り替え呪力を各々の手にした「触媒」に集中させた。いや、俺たちを狙っているというより単にこの場全体をメチャクチャに荒らす為に広範囲の術をぶっ放す気か……


 ちっ!狂人どもめ!



沙湖(サコ)! 紅孩(コウガイ)! 邪魔すんなよ!」


「太刀守殿! 助太刀します!」



 猪村とサシコもそれぞれが彼らの登場に呼応して戦闘態勢でかけだす。まさに混沌の戦場、誰が誰を狙っているとも知れぬ乱戦の中にあり、ただ一人冷静を保つ男がいた。それは……



「鬱陶しい」



 ……燕木ッ!




「ダイハーン無外流【飛燕翼(ひえんよく)】……」


 

 この呪力の気配……!

 ついに出す気かあの絶技、飛燕・三段刃を!



「サシコ、逃げろ!」



「 " 禽 游 積 嵐 巣(きんゆうせきらんそう) " !!!!」




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