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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第15話 薬草探し!

前回のあらすじ:ガンダブロウとアカネは路銀稼ぎの為に大富豪黒石の依頼で、薬草「ハッコーダ草」を採取するべく「虹の泉」を目指した。



 旧エイオモリア領ソワダ高原──美しい景観でも知られるこの広大な緑地には珍しい植物がそこかしこに生えており、かつては林業や野草採取などが盛んであった。しかし、今は兵隊崩れの野盗がのさばり、産業や流通が廃れてしまっていると言うのだから、実にもったいない話である。



 現状軍の取り締まりもまったく追いついていない。そればかりか、一部腐敗した軍部と野盗の癒着まで噂されている……という話も、道中聞くことができた。


 まったく、極北指令府の連中は何をやっているのか……元所属兵としては極めて遺憾な話ではあるが、その結果儲け話が転がってきたのであるからして何とも名状し難い感情になる。


「おっ、変な虫がいる! 珍しい色のお花もあるよ!」    


 ソワダ高原の野道に入るとアカネ殿は道中、例によって()()()を使ってあちらこちらを撮影している様子であった。


「ねえねえ! あの鳥は何て鳥?」

「ん? ああ、あれはニジイイロトキだ」

「じゃあじゃあ、あの果物が()っている木は?」

「モモリンゴの木だな。このへんにはたくさん生えている」


 異界人であるところのアカネ殿にはこの世界の景観は物珍しいもので溢れているようで、特段珍しくもない動植物にもいちいち好奇心を反応させていた。

 野盗が潜んでいるという地であるというのに、その事については頭からすっかり抜けてしまっているかのようでもあった。


 まあ、実際野盗程度なら恐るるに足りないが、問題は共和国軍からの追っ手がかかった時だ。そろそろ、牛鬼(ギュウキ)を倒した事が軍内に知れ渡っていてもおかしくはない。また御庭番クラスの刺客が遣わされるのであれば、警戒しなければならないだろう。


……まあ、まさか御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)を倒した下手人たちがのうのうと旅路を楽しんでいるとは露にも思わぬであろうから、ある意味こんなところを呑気にうろついている事じたい目暗ましになっているかもしれないが……


 ふむ、そう考えれば、こうして男女睦まじく並んで歩いているのは、ハタから見ればただの夫婦の物見遊山に見えるのではないだろうか?もし、そう思われるとすれば悪くない…………いや全く悪くない。悪くはないが……

 

「そういえば一つ聞きたい事がある」


「? 何です?」


「アカネ殿の姓はマシタと言ったな。キリサキ・カイトとは姓が違うのは、その…………よ、嫁入りをしているからか?」


「え? 何でそんな事聞くんですか?」


「あ、いやっ! 夫君がいるのなら、こう、距離感というか……周囲から不義に見られるような振る舞いは避けねばならぬからなっ。サムライとしてその辺りに気を配るのは当然なのだよ」


 いや本当に他意はないのだ。町娘をくどく軟派な男たちが探りを入れる時の常套句のように聞こえるかもしれないが、そのような破廉恥な憶測は断じて誤解であり、サムライ、いや一人の男として女人に対しての気配りとして当然の…


「別に結婚してるからではないですよー」


「そ、そうか」


 ふう…………って何だ?俺はホッとしたのか?


 まさか俺はアカネ殿に何かあらぬ事を期待しているのではないか?文字通り住む世界の違う相手なのに……これではサシコに言われた事が冗談では済まなくなってしまうではないか。邪念は捨てなければならん。俺の役目はあくまでアカネ殿を兄の元に連れて行くことなのだから……



「そうそう、わたしも一つガンダブロウさんに聞きたい事があったんです」


 えっ?嫁?嫁ならまだ俺は取っていないが…………ってムッ!?


「ガンダブロウさんってわたしの……」

「いかん、危ない!」


 俺はとっさに剣を腰から抜くと、寸前まで迫っていた矢での奇襲攻撃を柄ではじいた。


「お! かわしやがったか!」


 茂みから現れた男はみすぼらしい風体に、いかにも古戦場で拾ってきたといわんばかりに形式の揃わぬ胴鎧と兜を身につけていた。


「へっへっへ! ご旅行ですかい、ご夫婦?」

「おほっ! 女の方はスゲエ上物だ!」


 その男の出現に合わせるかのように他にも数人が茂みから姿を現した。

 どうやらこいつらが件の野盗であるようだな。


「オイ、オサムライさんよッ! ツイてたな! 他の山賊なら問答無用で身ぐるみかっぱぐところだが……」

「俺たちは無駄な争いは好まねえ。もともとは国の正規兵だったんだ……そんじょそこらのならず者とは一味違うぜ」

「そうだ。だから、選ばせてやる事にしてんのよ。身ぐるみ全部と女を置いて立ち去るか……ここで命も差し出すか。どちらか好きな方をな」


 そう口々に言葉を投げかける間にも、男たちは俺とアカネ殿を囲むようにさりげなく立ち位置を移動している。

 不意打ちが失敗したことで俺が手練れであると即座に見抜いたと見える。言葉で足止めを計っているうちに集団戦闘を優位進めるための陣を敷く(したた)かさ。そのあたりは元正規兵ならではの抜け目無い戦術だ。


「揃いも揃って、いかにもって悪人面……ガンダブロウさん、こいつらが依頼書に書いてあった野盗たちですね」

「そのようだ」


 俺は草薙剣(くさなぎのけん)に手をかけて、臨戦態勢を見せるとリーダー格と思しき鎧の男が他の野盗たちに目配せする。


「バカだね。命も差し出す方を選ぶか……」


「アンタが頭目か?」


「ああん?」


「ひとつ言っておくことがある。俺が受けた依頼内容にはあんたらの討伐は含まれていない。だから、あんたらが引くならそれをわざわざ追ったりしない。だが……」


 俺もアカネ殿に目配せしつつ、周囲の敵の様子を伺う。


「剣を交えるというのなら命の保障は出来ん。かかって来るというのならそれ相応の覚悟を…」


 話し終える前に背後の野盗たちが切りかかってくる気配を感じた。

 機先を制するつもりであったろうが、俺にはその程度の小細工は通用しない。


「ぐわッ!!」

「げふっ!!」


 居合いの一撃と、返す刀のもう一撃。

 二撃を持って俺は振り向きざまに二人の男を斬り伏せた。 


「こっ、コイツ!?」


 今ので頭目は俺の実力に気づいたようである。他の男たちが斬りかかろうとするのを即座に制止した。



「もう一度言う。剣を交えるのなら命の保障は出来ん」



「…………ちっ! 引けっ!」


 頭目に支持された男たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から引き上げていった。




「いいんですか追わなくて? あいつら悪者でしょ?」


 刀を納めて再び歩き出すとアカネ殿が残りの野盗を逃がしたことに対して疑問を投げかけた。確かに二人斬り伏せただけでは、やつらはまたここで悪さを続けるだろう。俺としても出来ることならやつらを懲らしめたい。


 だが、やつらはこの地の治安を乱す野盗たちのほんの一部に過ぎないだろう……旅の道中、ここで俺が多少やつらを斬ったとして、それがどれほどの影響があるだろう?


「あんなやつらなら、何人いたってガンダブロウさんならラクショーで勝てたんじゃないですか?」


 アカネ殿はやつらを倒さなかった事にやや不満を覚えているようであった。しかし……



「背中を見せた者に剣を向けるのはサムライの矜持に反する。それに世の中から見れば、俺たちのほうがよほど大罪人……やつらを裁く資格は今の俺には無いさ」


 法を基準とするならば、今の俺は悪人を裁ける立場にはない。

 俺が俺自身の判断で秩序を維持するために剣を振るうなど偽善以上に欺瞞だ……どうやらそのあたりについてはアカネ殿とは意見が違っているようであるが……

 



 半刻ほど会話もなく歩き続けると、目的地である「虹の泉」が見えてきた。


「虹の泉……噂には聞いていたが、なんと神秘的な……」


 「虹の泉」の名前の由来は見える角度によって色を変える不思議な湖面にあった。一説によると光の当たり具合や、水質、水面下の藻類の色などが影響しているとの事だが、理屈はともかくその光景には人の心を強く惹く魅力があった。


 しかし、泉の美しさに気をとられてばかりもいられない。

 まずは泉のほとりにあるという「ハッコーダ草」を探さなければならなかった。ええと、確か町で聞いた「ハッコーダ草」の特徴は…


「ガンダブロウさん」


 ふいにアカネ殿に話しかけられる。


「さっき言いそびれてしまったんですが……ガンダブロウさんに一つ聞きたい事があるんです」


 言いそびれた事……野盗に襲われる寸前に言いかけていた事か。

 アカネ殿は真剣な表情であるからして重大な内容であることは見受けられた。俺は心して頷くと、彼女は意外な質問を投げかけてきた。


「ガンダブロウさんは兄貴と……わたしの兄に会ったら兄を斬りますか?」




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