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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第167話 青春の面影!

前回のあらすじ:ガンダブロウとサシコ師弟はそれぞれのライバルと見える為、戦地に向かう!



「あそこです!」



 先導役の男に連れられて馬で走らせることわずか十数分。報告の通り戦闘は反乱軍の砦から目と鼻の先で行われていた。


 激しく叫び合う怒声、血の匂い、剣と剣のぶつかり合う響き、呪力の気配……殺気が空気を伝わって肌を泡立てる戦場の風には懐かしさすら覚えた。



「……まだ持ちこたえている様だな」



 街道から少し離れた湿地帯の窪地にサイタマ軍の兵士達が固まって防戦する反乱軍を囲うように展開していた。反乱軍が守る円陣の中心には王族・貴族が使う様な豪奢な籠とその前に陣取る頭巾で顔を覆った金色の法衣の男──恐らくはあれが反乱軍が招聘した要人と例の亜空路坊とかいうヤツ……



「サシコ、行くぞ!」


「はい、太刀守殿!」


 

 俺とサシコと共に馬を降りて窪地を駆け下りる。



「むう、新手か!」



 サイタマ軍が俺たちの存在に気づきこちらにも兵士を差し向ける。

 

 戦力差はパッと見でサイタマ軍7:反乱軍3……

 思ったより戦力に差はなく、被害も想像よりは遥かに少ない。反乱軍側もよく戦っていると言ってよいだろう。


 気掛かりは燕木の姿が見えない事だ。

 少し離れた場所にいるのだろうか?ヤツのものと思しき呪力の気配は確かに感じるのだが……


 しかし、とりあえずは……



「サシコ! 彼らが全滅してしまえば取引の意味がない! まずは彼らの安全を確保するぞ!」



 燕木がどこに潜んでいようとまずは反乱軍の生き残りを助け出す事が肝要。その作戦目的が達せられれば、危険を犯して燕木と対峙する必要はない。



「サシコ……事ここに及んで人を斬るなとは言わん! だが……」


「分かってます……よッと!」 



 サシコは向かってくる兵士二人の槍だけを器用に破壊。そのまま跳び上がり、顔面に2連蹴りを入れた。


「ぬわっ!」

「がッ!」



 ふっ飛ばされた兵士たちは気絶。怪我は負ったであろうが命に別状はなかろう。


 俺も迫りくる兵士を適当にあしらい、当て身を入れて倒していく。



「ぐ……こいつら強いぞ!」



 戦場において手加減をしながら戦うなど余程の実力差がないと出来る事ではない。またそういった甘い考えが命取りになるというのは俺自身戦場で嫌という程味わった。


 だが、それでもやはりこの様な戦いでなるべく人に死んで欲しくはないし、サシコにも命を奪う業を背負わせたくはない。


 ……目に見える範囲の兵士には六行使いはいない様だし、さほどの大軍でもない。今のサシコなら手心を加えて戦ってもまず問題はないが……



「燕木……どこにいる?」



 敵兵士を退けつつも周囲を警戒する。

 非六行使いの雑兵は何人束になろうと問題ないが、燕木(やつ)が本気で参戦してくればそれだけで戦況は大きく変わる。燕木の弟子の武佐木小路乃もそうだ。彼らの目的が反乱軍の援軍を釣り出す事であれば、彼らが戦場のどこかに潜んでいて機を伺っている可能性は高い。


 そして機とは正に今この時の事だ。


 お膳立ては済んでいる。さあ、出てこい燕木。

 十年来の因縁だ。お前の思惑が何であれこの村雨岩陀歩郎を無視する事は出来まい。


 そう思い、周囲を見渡していると──



「ぐわあっ!!」



 窪地の斜面の上淵にある藪から突然男が飛び出してくる。


 ……いや飛び出してきたというより、ふっ飛ばされてきたという方が正しいだろう。男は窪地に落下してくると芝の上に叩きつけられ血反吐を吐く。


 男の体には落下した時のものとは違う無数の切り傷が刻まれ出血していた。男は手にしていた剣を杖代わりに満身創痍の身体をなんとか起こし、自分が落下した斜面の頂上付近を見据える。



「く……ば、馬鹿な……この"ティーバの紅狗(べにいぬ)"……織江夢國(オリエユメクニ)が……手も足も…………出ん……とは……!」



 むっ……!

 この男、あの織江夢國(オリエユメクニ)か!?



「ぐ……ぐはっ!」



 男は再び血を吐き、膝をつく。


 旧ティーバ侯国軍最強の剣士と謳われたティーバの紅狗(べにいぬ)織江夢國(オリエユメクニ)──エドン、バラギスタンの2つの強国に挟まれたティーバにあって、幾度となくその両国からの侵攻を食い止めた英雄……俺は直接戦った経験こそないが、かつてサムライ師団の精鋭が何度も挑み、ついぞ倒す事が出来なかった真のつわものとして何度もその勇名を耳にした。あの明辻先輩も戦場で二度相見えた事があるそうだが、二度とも勝利しえなかったという……伝え聞く限り、間違いなく戦国七剣級の使い手。


 その織江夢國(オリエユメクニ)が──恐らくはティーバ維新會の一員として反乱軍に参加していたのであろう──重傷を負わされ、立つ事もままならない。



 これ程の手練が一体誰にやられたのか?

 ──答えは考えるまでもない。



「……」



 斜面の頂上付近にゆらりと男が現れる。

 

 沈みかけの夕陽を背に浮かび上がるその影からは、野生の獣のような眼光を放つ隻眼と貴公子然とした耽美な面相が浮かび上がる。男には右腕がなく、唯一の腕である左腕の肩には葵紋の刻まれた銀の腕章が煌めいていた。



「燕木……哲之慎ッ!」



 かつて肩を並べて戦った同門の雄にして最強最高の好敵手。

 燕木哲之慎は眼前の窪地を睥睨し、俺の方に目を向ける。その手にはかつての得物である名刀「宗鷹(ムネタカ)」ではなく、羽飾りのついた三叉の長槍……む、片腕の喪失と共に武器を変えたか?


 得物の持ち替えや戦傷による武芸の変化は分からぬが、その研ぎ澄まされた呪力の気配からはわずかの衰えも感じさせなかった。



「よう。久し振りだな燕木。お前と合うのはキリサキ・カイトがエドン城に侵攻してきたあの時いら…………」



 と、話かけようとした矢先──突如燕木が跳躍!

 一挙に間合いを詰めて飛びかかってきた! 



「えっ!?」



 いきなりの強襲にサシコも俺も虚をつかれる!

 俺はとっさに草薙剣を抜いて、槍による斬りつけに受け太刀で対応する!



「オ……オイ!! いきなりかよ!!」



 電光石火の速攻……だが距離があったのが幸いし、防御が間一髪で間に合った。


 しかし、燕木の攻撃はそれだけでは終わらず、片腕で器用に槍を操り二度三度と鋭い突きを繰り出してくる。



「ぬっ……くっ! 少しは……話を……!」



 槍による攻撃を捌く……

 が……やはり強い……!


 六行の技ではなく、ただの突きでこのキレ!

 とてもじゃないが話をしている余裕はない!


 もともと話し合いによる解決が出来るとは期待していなかったとはいえ、ここまで問答無用とはな!


 俺は反撃の体勢を整えるため一度大きく飛び退いた。



「大丈夫ですか太刀守殿!」



 サシコは防戦一方の俺に驚いた様子である。

 武技による真っ当な戦いでここまで押し込まれた俺を彼女が見るのは初めてだろう。不安そうな表情でこちらを見つめる。



「ああ……問題ない。こっちは俺がやる。サシコは()()()を頼む」



 俺が反乱軍が護衛する籠の方を指さす。

 あちらを逃してしまえば燕木が戦う理由もなくなり、少しは話をする隙が生まれるかもしれない。



「……承知しました!」



 サシコは作戦を理解し、俺のそばを離れる。

 

 よし。これで俺は燕木に集中できる。

 すでに燕木は再度攻撃の体勢を整えて、こちらに迫って来ていた。



「来るなら来い!」



 と、今度はやる気満々で迎え撃とうとするが、今度は燕木の足がピタリと止まる。



「……ん? 太刀守……? あの娘、太刀守と言ったか?」



 燕木はしばし考えるの素振りを見せ、数秒の沈黙の後「あっ」と漏らして目を見開いた。



「何だ。お前、村雨岩陀歩郎か?」



「今気づいたのォ!?」




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