表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
168/262

第166話 岐路!

前回のあらすじ:緊迫していく事態の中、葛藤するサシコ。そして……


※一人称視点 サシコ→ガンダブロウ



「何かあったのかな?」



 控室の外が何やら騒がしい。

 一瞬、アカネさんを狙った不逞の輩が集まってきているのかと思い刀に手をかける……が、どうやらそうでもない様子。


 しかし、何か緊急事態が起こった事は間違いない。

 アタシとアカネさんは一度顔を見合わせてから控室の外に出てみる。すると、廊下や階段を血相を変えてバタバタと走り回る者たちの姿が目に入ってきた。



「すみません。何かあったのですか?」



 アカネさんがせわしない様子の反乱軍の中で比較的手の空いてそうな若者を見つけて話しかける。若者は一度怪訝そうな顔をしたが、何が起こっているかを話してくれた。



「ここに向かっていた俺たちの仲間が御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)燕木哲之慎(ツバキテツノシン)とかいうやつの部隊に見つかって襲撃を受けているんだ」



 ガ……御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)!!

 しかも燕木哲之慎……て、確か太刀守殿のお知り合いでコジノさんの師匠の……!!


 という事は……コジノさんも来ているの!?



「その……その部隊の中に銀髪の小柄な女剣士はいましたか!?」



 それを聞いてどうするのだ?

 彼女が来ているなら……アタシはどうするというんだ?



「い、いやそこまでは分からないが……」



「そう……ですよね」



 アタシはコジノさんとまた会いたい。


 そして、彼女を剣士として超えたい。



「サシコちゃん……」



 だけど、それは敵同士で殺し合うという事ではない。

 アタシたちは反乱軍の仲間になった訳じゃないけど、御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)とは成り行きとはいえ旅の途中何度も戦った。

 マガタマの件もあるし、彼女に今会えば命をかけて剣を交える事になるかも…………それに今はアカネさんの護衛中だし……うーん……



「アカネ殿! サシコ!」



 そう思い悩んでいると反乱軍の首脳との話し合いに向かった太刀守殿と吉備牧薪が階段を降りて戻ってきた。




≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶

∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦∦

≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≷≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶≶




「アカネ殿! サシコ!」


「ガンダブロウさん!」



 反乱軍の司令室からアカネ殿のいる一階の控室に戻る。アカネ殿もサシコも部屋の外の廊下に出てきており、浮足立つ砦内の動向を注視している様だった。



「俺はこれよりこの砦を離れる! 理由は……」



燕木哲之慎(ツバキテツノシン)と戦うのですか!?」



 サシコが最後まで聞くことなく反応を示す。

 む、燕木の襲撃の件は聞いていたか……それならば話が早い。



「まだ分からん……だがヤツの所へは行く。ヤツの部隊の攻撃を止める事と引き換えにマガタマの情報を教えてもらう取引きをした」



 そう説明をすると今度はサシコが心配げな声で疑問を口にする。



「その中にコジノさんがいたら……太刀守殿はコジノさんとも戦いますか?」



 ……!

 そうか、武佐木小路乃(ムサキコジノ)か……!



「ああ。その可能性もある」




 サシコはミヴロでの共闘で彼女に対して特別な感情を抱いているようである。彼女と決着を着けるのであれば直接自分が対峙したい……そう思っているのであろう。


 それに聞くところによると武佐木小路乃は準御庭番級の使い手。

 サシコと共闘の上とはいえ、俺と明辻先輩が苦戦したあの戦国七剣・三池乱十郎を斬り伏せたというその実力は侮りがたい。半妖化の術も身につけていると聞くし、燕木1人だけでなく彼女とも戦わねばならぬという事態に陥れば俺とて確実に生還できるとは言い難いだろう。サシコが加勢してくれるのであれば戦局を膠着させて話し合いに持ち込みやすくなるし、その局面だけを考慮するのならば実際ありがたい戦力だ。



「それならわたしたちも行きます!」



 サシコに気を使ってかアカネ殿も同行を申し出る。


 だが……



「いや、アカネ殿には残ってもらう」


「えっ!?」



 当然反対される事はないと思っていたのだろう。

 アカネ殿は驚きの表情を浮かべる。



「燕木は危険な男だ。強さは元より計略にも秀でている。どんな罠を仕掛けているとも分からぬ。それに戦場には例の亜空路坊(アクロボウ)とやらもいるというし、あまりに不確定要素が多過ぎる」



 燕木はおそらく黒子人形や弟子の武佐木小路乃から俺たちの情報を聞いているだろう。当然、キリサキ・カイトに匹敵する力を持つアカネ殿の存在も知れている。ウラヴァを目指す俺たちとかち合う可能性は十二分に考えられるのだし、ヤツの性格からして異界人に対して何も策を講じていないとは思えない。それに亜空路坊とやらの存在も未知数だ。今回はそいつとそいつが連れてきているという要人を救い出すのが目的な訳だし、味方に危害を加える様な事はしないだろうが……


 いや。

 そういった理屈を置くとしても、今回の件自体がそもそも怪しい。何というかこう……直感的に陰謀が張り巡らされているような気配を感じる。うまく説明出来ないが、そんな場所にアカネ殿を連れて行くのはとてつもなく危険な様な気がしてならんのだ。




「で、でも……ミヴロの時はわたしも1人で……」



「あの時だって金鹿があれ程危険な男だと知っていたらアカネ殿一人で行動する事は反対したさ。それにアカネ殿が直接帝の軍と戦ってしまえばキリサキ・カイトの説得が難しくなるだろう」



「確かにそうかもですが……それなら今までだって何度も戦いましたし」



「今までの戦闘はあくまで専守防衛。敵からの攻撃に反撃していたに過ぎぬが、今回は違う。明らかに俺たちの意思で戦いを仕掛けに行くのだ。敵対の意思なしとは言えんだろう」 



 この点は地味に重要だ。

 俺たちはあくまでキリサキ・カイトに対してはまだ中立の立場である。今までの成り行きがあるとはいえ、自分たちからは敵対する意思表示はしていない。今回の事もあくまで燕木のやつを引かせる事が目的で攻撃を仕掛ける判断はギリギリまで選択しないつもりだ。しかし、反乱軍を助けるという積極的行動を選択する以上、その場に居合わせる者はやはりサイタマ共和国への敵対者と認知されてしまうだろう。その認識は場合によっては旅の同行者たるアカネ殿にも波及するかもしれないが、実際に決定的な現場に姿がなければまだ言い訳が立つ。屁理屈かもしれないが、そのセンも後々の事を考えればまだ残しておく必要がある。


 まして、此度の取引はアカネ殿の意思を確認せずに勝手に決めてしまったのだ。なるべく巻き込まないのが筋というものだろう。



「でも、かといってここも絶対安全とは言えないんじゃないの?」



 マキが口を差し挟む。



「陰謀はこの砦の中にも渦巻いているのよ。雑兵どもは捨て置くにしても、腹の読めない吾妻榛名(アヅマシンメイ)が何かしらアカネちゃんにちょっかい出してくる可能性はある」



 ……確かにマキの言うとおり、その可能性も無いとは言えないな。


 しかし、ならばどっちだ?

 アカネ殿を連れて行くか行かぬか……俺が選ぶべきはどちらが正解なのだ?


 こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎてゆき、燕木に襲撃されているという反乱軍の要人とらやらの生存確率も下がっていく。考えてる時間はない。早急に決断をせねばならんが……



「考えても埒が開かないわね……なら、こうしましょう。アカネちゃんの護衛は私がサシコちゃんと交代してやるわ。そいで戦場には村雨くんとサシコちゃんで向かう」



「えっ!?」



 マキが提案した分離策……それは危機管理の秤とそれぞれの希望を織り込んだ上で、最善とは言えぬまでも折衷案としては妥当なセンであった。




「二対ニで別れて、どっちかが罠に陥ったらどっちかが助けに行く。これなら全滅する事もないだろうしね」



「それは分かった……しかし、マキよ。そちらは大丈夫なのか?」



 マキは熟練の陰陽術士だが戦闘能力に抜群に秀でている訳ではない。むろん、非六行使いや未熟な六行使い相手ならタイマンで負ける可能性はまずないが、多勢を相手にすればを単純物量に対抗し切れないという事もある。


 そう言う意味では彼女も最前線に来るには向いていないが、それはこの砦においても同じ事。反乱軍すべてが陰謀を抱いた敵という事はあり得ないが、建物内である分囲まれやすいという逆の地の利がある。



「ふふ。私を舐めすぎよ村雨くん。それに吾妻榛名が何を仕掛けてくるにしても単純な武力によってじゃあないでしょう。奇襲なら大部隊を動員する事はしないし、第一、正攻法で仕掛けて来るんならアカネちゃん一人でも十分身を守れるしね。だから、心配すべきは搦手……そして、そういう頭を使った駆け引きは村雨くんやサシコちゃんより私の領分よ」



「「 ムッ……!! 」」



 ぐ……俺たちは搦手には対応できない脳筋だと言いたいのか?

 頭にくる言い方だが、確かに俺たちはマキほど頭が回る訳ではないし、奇襲を警戒するには彼女の探知能力は正にうってつけ。


 ここはやはりマキの策で行くのが賢明か。

 


「分かった。それでいこう」



 俺はサシコに目配せするとサシコもコクリと頷いた。



「アカネちゃんもいいわね?」



「……わたしだけ文句言っても仕方ないですからね」



 アカネ殿は必ずしも納得した様子ではなかったが、マキの策を受け入れる。自分だけ特別扱いされている様で居心地の悪い感覚なのだろう。だが、俺のアカネ殿を守りたいという個人的な感情とは別に、この方法よりも明確によい策がすぐに思いつけない以上、従わざるを得ないだろう。



「サシコ、すぐに出るぞ……その辺にいる斥候から誰か一人案内役を連れてきてくれ」


「は、ハイ!」



 そう指示するとサシコはすぐに伝令役と思しき反乱軍の男たちに話を伝えに向かった。


 俺もすぐに出撃の準備をする為、砦の出入り口へと向かおうとしたその時──



「ガンダブロウさん」



 アカネ殿から呼び止められる。



「夕飯」


「……え?」


「夕飯。何がいいですか?」



 言われてみるともう夕刻……戻ってきた時には夕食の時間になっているだろうな。



「……そうだな。辛印(カレー)がいいな。材料はあったかな?」


「ええ、まだあります」



 アカネ殿と視線を交わすと、俺はニコリと笑った。


 ふ……気負いすぎてもよくないな。

 今まで何度窮地に立たされても何とか切り抜けてきたじゃないか。今回だっていつも通りさ。フラッと言ってフラッと帰る。そして、夕刻になれば夕飯を食べて、サシコに稽古をつけたら眠りにつく。



「無事に帰ってきて下さいね」


「ああ」


  

 そう短く言葉を交わし、俺はサシコと共に塔から出て燕木の元へと向かった。



 しかし、後にこの時の判断を──俺はどれほど後悔したか分からない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ