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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第165話 灰色の未来!

前回のあらすじ:御庭番の刺客たる旧友・燕木に会合する事を決意するガンダブロウ。一方その頃、アカネとサシコは──


※一人称視点 サシコ



「サシコちゃん。ありがとうね」



 太刀守殿と吉備牧薪が軍議が行われている最上階に向かった後。控室に残ったアタシにアカネさんは感謝の言葉を述べた。



「ガンダブロウさんと一緒に行きたかったでしょう」


「いえ! そんな事は……」



 ない……とは言えなかった。

 アカネさんもアタシにとって大事な人……彼女を守りたいというのも紛れもない本心。でもアタシは太刀守殿の隣にいたい。できる事ならずっとだ。

 あの人の背中に守られるのではなく、肩を並べて戦う。それがあの人ともっとも長く同じ時を共有できる方法だと信じていた。しかし、様々な代償を払い、実際にそれが出来るようになった今──アタシはあの人の隣にはいない。


 分かっている。

 実際に隣にいる事よりもここでアカネさんを守る事の方が太刀守殿のお役に立てるし、ずっと隣にいる事だけが人と人を繋げる絆じゃない。大事なのは心が寄り添い合う距離……そんな事は誰に言われずとも分かっている。


 でも…………

 そうだとしても、アタシは太刀守殿の心にどれだけ近付けたのだろうか?


 あの人の心──過去の思い出には明辻さんが、今信頼し肩を触れ合わせる場所には吉備牧薪が。そして、未来……太刀守殿が歩む道の先。見果てぬ暗闇の果てに彼が目指す光──そこにいるのはきっとアタシではなく……



「…………」



 ふとアカネさんの顔を見つめる。

 もちろん、この人はアタシの葛藤も払った犠牲も知る由もない。キョトンとした表情で「なんだろう?」と純粋に疑問符を浮かべる余裕があった。


 アカネさんはアカネさんで今様々な苦悩を持っているのは当然理解している。この世界の在り方への信念と帝の家族としての責任感……アカネさんは疑いようもなく立派な人だ。


 むしろ今こんな事で心をざわつかせているアタシが不純で恥ずべきなのだ……だけど、その彼女の崇高さとアタシの下衆さ。その差が太刀守殿との心の間に埋めようもない距離の差になっているのだと思うと……本当にみじめで、どうしようもなく妬ましい気持ちが湧いてくる。


 アカネさんがいる限り、太刀守殿の心の一番近い場所にアタシがいられる事はない。


 それならば……


 いっそ……いっそこの人がいなくなってしまえば……


 ……


 …………だ、ダメダメ!

 そんなんダメに決まってるじゃない!!

 何考えてるのアタシ!?


 あー!ヤバイヤバイ!

 本当に今ヤバい思考になってたよ!



「アカネさん…………ええと……1つ聞いてもいいですか?」

 


 そのようなドス黒い感情が漏れ出さぬうちに気持ちを切り替えようと、何か適当な話題を探してアカネさんには質問をする。



「なにかしら?」



 あー、えーと。

 何を話そうかしら。えーと、えーと……


 ……あ、そうだ!



「アカネさんは帝に会って……その……マガタマを使って元の世界に戻ったら、もうこっちの世界には戻れないんですか?」



「え? どうして?」



「あ、いや! アカネさんがいなくなったら寂しいなァ……と思いまして!」



 これは以前から少し気になっていた。

 マガタマについてはよく分からないけど、あの金鹿馬北斎がマガタマを媒介として使用していた凄まじい陰陽術を見れば異世界転移を行えたとしても納得できる。しかし、それはあくまでこちらの世界から元いた世界に戻るという話。マガタマはこちらの世界のものだとすると、異界側からは使えないだろうし、自由に両方の世界を行き来する事はやはり難しいと考えるのが自然だけど……



「うーん、どうなんだろ? また同じ方法でこっちに異世界転生は出来ると思うけど……」



 あ、そうか。元々アカネさんがこっちの世界にきたという方法があるのだった。ならまたジャポネシアに来たければその方法を使えばいいだけか。



「よかった。それだとアタシもアカネさんとまた会えるし、嬉しいです」



「ねー。わたしもサシコちゃんたちと一生会えなくなったら寂しいよ……でもそれは大分先の話だけどね。今はマガタマだってまだ手に入れられるか分からないし、手に入れたとしてもそのマガタマを正しく使えるかどうかは分からないから……」



「あ……あ、そうですよね。余計な事聞いちゃいました。今は早くマガタマを手に入れられる様に頑張んないとですよね」



 大分先……か。

 そうだよね。アカネさんの言うとおり、今はまだアカネさんが無事に帝を連れて帰れる保証はないんだ。解決しなければならない問題は山積みだし、そもそも何年か先まで命があるかだって分からない。


 本来、不確定な未来に思いを馳せている余裕なんてないのだけれど……


 ふと、ある可能性がよぎる。

 帰還でも破滅でもない未来……無限の選択肢から選ぶ可能性の1つとしてある──

 


「……じゃ、じゃあその……もしも仮に……仮にマガタマが手に入らなくてこのまま……元の世界に戻れないとしたら……」



 ……!?

 あれ??

 

 ポロリと口をついて出てしまった埒もない疑問……

 白でも黒でもない灰色の未来──現状維持。延々終わらぬ途中の未来について。



「え? それは……この世界で暮らしていくしかないよ」



 そりゃあそうだ。帰れないんだからこの世界で生きていく。


 そんな当たり前のことわざわざ聞くまでもない。


 でも…………

 


「そうしたら……そうしたらアカネさんはこのジャポネシアでどんな風に暮らしていきたいですか?」



 あ、あれ? あれれ??

 またアタシは……一体何を聞いているんだ???



「…………どんな風にって?」



 こんなこと深く聞いたってしょうがない。聞いたってアカネさん困るだけだ。だからこの話はもうここで終わり……終わりにしなくちゃいけない。それは分かっている。分かっているけど……



「いや……た、例えばどこかかの町に住んだり……誰かと……恋をしたり、結婚したり、とか……するのかなって」



 ダメよ。

 ダメでしょ、これを聞いたらさ。



「そうね。そしたら……やっぱりそうしよっかなー」



 鼓動が早まる。バクバクと心臓が鳴る。

 強敵と立ち会う時とは明らかに違う緊張。


 踏み込んではいけない間合いに入ってしまった感覚──


 いやいやいや。これ以上聞いたら……今までのアタシとアカネさんでいられなくなるかもしれない。だからダメ。話を止めなくちゃ。



「そ……そっか。その時は……イイ人が見つかるといいですねー。あははは」



 自然に。


 そう、自然に別の話をしなくちゃ。

 

 えーと……えーと…………

 


「もういるかも」



 アカネさんがボソリとこぼしたその言葉に──

 冷たい血が身体中を巡る。



「え……と、そ、それは……?」



 聞くな。



「だ……誰ですか?」



 聞いたらダメよアタシ。



「さて……誰でしょう?」



 アカネさんダメ……

 その人の……その人の名前を言わないで。


 そうしたらアタシは……


 アタシはッ!!

 


「アカネさん……アカネさんは……太刀守殿が……」

「なんてね!!」



 アタシが決定的な言葉を放つ前にアカネさんはいたずらっぽく笑ってみせた。



「実はね! 元の世界に帰れなかった時の事は少し考えてるんだよねー」



 そう言ってアカネさんは彼女自身の未来絵図を語り始めた。



「マガタマを手に入れらんなくてもまずは兄貴がこの世界で好き勝手やるのだけは止める! それだけは絶対にやる! やった上でマガタマがどうしても見つからないならこのジャポネシアの世界中を旅して回る。それで旅した先でおいしい食べ物を食べまくって写真を取りまくる……で困ってる人がいたら神様からもらった力で助けまくる」



 アカネさんはそう言って()()()の画面をバッと見せる。そこには何やら料理や奇麗な景色を撮影した写真と文章が掲載されていた。まるで挿絵付きの瓦版のようだけど、これは一体……?



「そしてその様子を元の世界のSNSで公開! ネットは繋がってるからね…………どう? 面白そうじゃない? このプラン」



 えすえぬえす……が、何の事かは分からないけど、確か()()()()()()()というのは同じ様な()()()を持っている他の人も見られるんだったよね?


 とすれば町のお触書や早刷り号外みたいな感じで旅記を色んな人に見てもらう事が出来る。異界の人からすればジャポネシアの様子はすごく珍しいだろうし、それができたら楽しいかもしれないね。実にアカネさんらしい計画だけど……なんか大切な事をはぐらかされてしまった様な気がするな。アカネさんが変な空気を察して茶化してくれたのかもだけど…………


 でもよかった。

 

 太刀守殿との事はいずれハッキリさせなきゃいけないかもだけど、それを話すのは少なくとも今じゃない。しかるべき時、しかるべき場所というのがあるだろう。


 願わくばその未来はなるべくすぐには来ない事を祈ろう。




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