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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第164話 盤根錯節!(後編)

前回のあらすじ:錯綜する陰謀……吾妻榛名と燕木哲之慎。彼らの思惑は果たして何処にあるのか?



───────────



─────



──




 

 その目つきの悪い生意気そうなガキが俄門塾(がもんじゅく)にやってきたのは俺が11歳の時の夏の暑い盛りであった。



燕木哲之慎(ツバキテツノシン)や」



 そいつは自己紹介するなり、濃い藍色の瞳で俺たち道場生を舐めるように見渡し、フンと鼻を鳴らして「強そうな奴はおらんな」とわざとらしく呟いてみせる。その不遜な態度に男子は「なんだあの野郎!」と紛糾し、女子たちはその逆に「かっこいい!」と嬌声を上げた。



「へっ、ダイハーンの捕虜のくせに」



 誰かがそう口にしたのが耳に入った。

 彼がやってくる前から噂になっていたのだ。西の大国ダイハーンとエドン公国との戦争の際、家族ごと捕虜になった敵将──その子供がエドン公王直々に六行の才を見出され、家族の無事を条件に俄門塾に入ってくるのだと。


 そして、その一言を皮切にそれまで触れてはいけない空気だった彼の生い立ちについて道場生たちが口々に話し始める。敵国出身者への憎悪、憐憫、猜疑、畏怖……


 しかし、燕木はそれらの雑音には一切反応せず、道場生の輪に加わることを避けてつかつかと一人壁際に寄ってもたれかかった。

 新入り……それも捕虜の分際で不遜な態度。普通なら嫌味の一つも言いたくなる状況だが、俺は何故だかその少年には悪い印象を持たず、それどころかかすかに共感性すら覚えた。それは彼の孤立する姿にその時の俺自身が重なったからだったのかもしれない。


 当時、俺は六行の属性を調べる六色検知という儀式を行い、その結果、ほとんど前例のない「所持属性無し」である事が判明……六行の戦士になれる可能性が限りなく低いという事を知らされたばかりの時期であった。その事は既に道場内でも周知されており、六行の戦士として将来を嘱望されていた他の道場生たちから俺は鼻つまみ者のような扱いを受けていた。師匠のお情けで道場にはいさせてもらっていたが、いつ追い出されたとしてもおかしくない状況。その疎外感を埋める為か、俺は同じくつまはじきにされている燕木に話しかける事とした。



「おい燕木」


「あん?」


「誰も相手がいないなら俺が稽古の相手になってやるよ」


「なんだお前は?」


「……俺は村雨岩陀歩郎(ムラサメガンダブロウ)ってんだ。いずれ大陸一の剣士になる男だ」


「ハァ?」



 それが俺と燕木との出会いであった。




──



─────



───────────




 燕木とはそれ以来何度も道場で剣を交えた。

 しかし、敵国出身でありながらも才能を認められて俄門塾に入れられたというだけあり、当時の俺と奴ではあまりに実力差があり過ぎた。何度も何度もボコボコに打ちのめされながらも俺は奴に喰らいついていった。そして、アイツも俺と必要以上に馴れ合う事はなく何度打ちのめしても手を抜く事無く俺を叩き伏せた。


 今の俺の剣も奴を倒す為に磨かれたと言っても過言ではない。故に俺は奴に恩義すら感じている。しかし……



「相手が燕木くんなら必ずしも殺し合いをする必要もないかもよ。昔なじみだし、話合いで解決できるかも」



「おい、忘れたのか? アイツのあの性格を」



 燕木という男に感じるのは友誼では無い。

 奴との交わりとはそれすなわち戦いによる交わりであり、同じ敵と戦うのであれば合わせるのは背中であるし敵対する側に立つのであれば当然剣を合わせる事となる。


 奴はそれほどまでに強い意志を持つ男であり、言葉によって考えを変えることなどあり得無い。そう断言できた。

 


「だからこそでしょ。あの燕木くんが素直にキリサキ・カイトの命令に従って戦ってるとは思えないし、他の思惑があるのかもよ。それなら交渉次第で何かしら取引出来るかもしれないし、一連の御庭番の不可解な行動についても情報を教えてくれる可能性もあるわ」



 ……


 なるほどな。

 吾妻榛名に対してこの様な取引を持ちかけたのは不可解であったが、マキの思惑はそれか。




「吾妻とかいう男に何か裏がある……という事か?」



「ええ。カンだけどね」



 誰が誰を嵌めようとしているかも分からぬ状況だが、反乱軍・共和国軍いずれの行動もその思惑を額面通りに捉えることは出来ない。何かしらの陰謀があるのは疑いなく、俺たちにはそれを判断する情報が圧倒的に不足している。


 腹の読めない吾妻榛名(アヅマシンメイ)より、性格を知り尽くしている燕木の方が情報収集をする上ではやりやすい。ならばこのまま吾妻の作った話の流れに身を任せるより、多少の危険を侵してでも奴に接触してみる事に活路を見出す……それがマキの判断という訳だ。



「今回の反乱軍の決起にはどうも秘密がありそうなのよね……それが何かは分からないけど、あの吾妻に何か謀略があるのはまず間違いないわ」



「……ふむ」



 マキが感じ取った謀の匂い……

 今、俺たちは自分たちが考えるよりも危険なところにいるのだろうか?

 

 うーむ……事態は刻一刻と変化しており、考える時間もない。

 そういう時は……やはり現場をこの目で見て判断するしかない、か。もとより俺もそっちのほうが性分に合っているしな。



「分かった。まずは燕木の奴に会ってみるか」



 燕木との邂逅……交えるのは言葉か剣か。

 いずれにせよ万事穏便に済むという事はない。それだけは確信していた。




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