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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第4章 落日の荒野編(クリバス〜クギ〜)
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第162話 変事の報せ!

前回のあらすじ:反乱軍の盟主・吾妻榛名との駆け引きの中、突如司令室に急報が入る。



「きゅ、急報ーッ!!」



 反乱軍盟主・吾妻榛名(アヅマシンメイ)との会談の最中、司令室の扉が勢いよく開け放たれた。息を切らせて入ってきた男の焦燥した様子から何か彼らにとって火急の事態が発生した事が伺えた。



「何事か!」



 部屋の入口付近に控えていた壇戸さんが伝令の男を問いただす。

 


「ハ……例の御仁を連れてこちらに向かっておりました亜空路坊(アクロボウ)殿の一団がこの砦からおよそ半里(約2km)南の地点でサイタマ軍により襲撃を受け、戦闘状態に入った……との事!」



「な、何だと!?」



 共和国軍からの奇襲か!

 しかも強襲された亜空路坊(アクロボウ)という者の名前には聞き覚えがあるぞ……確か武佐木小路乃(ムサキコジノ)がサシコに注意を促したという六昴群星(プレアデスバルゴ)の幹部……


 それに例の御仁というのは吾妻榛名(アヅマシンメイ)が言っていたキリサキ・カイトへの対抗策に招聘しているという人物の事か。

 


「先手を打たれたか!」

「くそ! そんな近くまで接近を許そうとは……」



 反乱軍の幹部たちに動揺が広がる。

 しかし、この奇襲は決して予想出来なかった攻撃ではないだろう。敵の本拠地たるウラヴァから馬で一日程の距離という位置に砦を築いたのだ。いかに敵内部に工作をしていようとここまでバレずに来た事の方が奇跡だったと言える。むしろ留意すべきは奇襲を受けたのが何故今なのかという点だ。恐らくはずっと前から反乱軍の動きを捕捉していたであろう共和国軍が何故この砦ではなく外部の一部隊に攻撃したのか。自然に考えれば連れてきている途中というその人物がよほど共和国側にとって脅威となるという事だが……

 


「それで戦況は!?」



 壇戸さんが伝令に再び問いただす。



「は、はい……護衛に当たっていたティーバ維新軍が応戦し、何とか持ちこたえておりますが、何分多勢に無勢なもので……」



 ティーバ維新軍はティーバ侯国を拠点として活動する反統一派の組織だ。かなりの武闘派組織だと噂に聞いてはいるが、どうやら戦局は思わしくない様子。となれば当然敵も六行使いの手練を差し向けてきているという可能性が高いな。



「援軍だ! 即刻援軍を送るべきだ!」

「いやこれは罠だ! わざわざ砦から半里の地点で急襲したのは我らの軍を釣りだして一網打尽にする為に違いない!」

「しかし見殺しにも出来んだろう!」



 反乱軍の首脳部で意見が飛び交う。

 だがもはや話し合っている段階などではない。敵が半里(約2km)の地点にいるというのなら亜空路坊(アクロボウ)とかいう奴の部隊が敗北すればあっという間にこの砦にも攻め込めるという事。

 

 軍を動かすのなら敵に反撃や増援のスキを与えないだけの大兵力を投じて一挙に殲滅し、何としても消耗戦を避けるのが定跡だ。何故なら戦局が膠着して兵力・物資の切り合いになれば圧倒的に数で劣る反乱軍がジリ貧になるからだ。無論その手を読んだ上で既に充分な兵力を周辺に展開されていたのであればどうにもならない。その点を考慮し、仲間を見捨てる非情の選択をするのも軍略的には間違いではない。ただそれならそれで、砦の防備や敵の次の一手を封じる為の兵力を速やかに展開する必要があり、これも判断が遅れれば命取りになる。


 チラリと吾妻榛名の顔を伺う。

 この非常事態に狼狽した様子はなく、おだやかな表情のまま混沌とする幹部たちの怒号や議論に耳を傾けていた。

 むぅ……オロオロせずにどっしりと構えているのは流石だが、この事態に速断できんようでは人徳はあっても将としての才はないと言わざるをえない。それともこの事態は既に想定済みで、あえて動かぬ何かしらの理由があるのか……?

 

 と、反乱軍の緊急事態を部外者目線で観察していると再び別の伝令の者が司令室へと飛び込んできた。



「続報です! 亜空路坊(アクロボウ)殿の一団に攻撃している部隊の指揮官は……ガ、御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)燕木哲之慎(ツバキテツノシン)との事!」



 な……!?

 燕木(ツバキ)……哲之慎(テツノシン)だと!?



「ぬぬぬ……まさかもう御庭番が来るとは……」

「御庭番と戦うならこちらとしても最大限の戦力を投じるしかないが……」

「しかし、各地の基地に兵を配備したばかりでちょうど本部が手薄になっているぞ! ここで主力部隊を差し向けて万が一負ければ、壊滅的な打撃を受ける事になる!」



 反乱軍たちの幹部たちに更なる動揺……しかし、今度の報告には今まで第三者目線でいた俺に対しても少なからず驚きを与えた。



「村雨くん……どう思う?」



 俺と同様、マキも少なからず驚いた様子である。

 それもそのはず。かつて燕木哲之慎(ツバキテツノシン)と俺たち二人は旧エドン公国の六行使い養成所「俄門塾」でしのぎを削り合った仲だ。特に俺とヤツは同じく剣士を志し、道場稽古では何度も竹刀を交えた好敵手であり、キリサキ・カイトのエドン城侵攻に際しては持ち場こそ違えど共に戦った戦友でもある。


 それだけに、かつて所属していたとはいえ今は仇敵の配下たる御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)に奴が復帰したと聞いた時には心底驚いた。

 ヤツの性格からしてもキリサキ・カイトに素直に従うとも思えないし、昨今の御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)がキリサキ・カイトの制御下を離れて独自の動きを見せている事からも、その真意には何かしらの裏──例えば従うと見せかけて寝首をかくつもりとか──があるものと自然に考えていたが……



「あ奴が反乱軍を襲撃した部隊を指揮しているというのはどうも引っかかる。が……いずれにせよ奴が戦闘に参加するとあれば、並の六行使いでは束になっても歯が立つまい」



 燕木の強さは俺が一番よく知っている。

 何度となく手合わせをして俺が勝てたのは無外流『逆時雨』を完成させて「俄門塾」を出てサムライ師団に配属される直前に戦った時の一度だけ。それまでは負け続けであった。


 サムライ師団に入ってすぐ敵地に派遣された俺は運良く武勲を上げ、最終的に太刀守の称号を得る事となったが、同時期にエドン城の守護を主な任務とする御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)に配属された燕木には派手に武勲を立てる機会は少なく、立場が逆なら奴が太刀守の称号を得ていても何らおかしくはなかった。実際、キリサキ・カイトとの戦いに際してはほとんど手も足も出なかった俺と違い、奴はエドン敗北が決定的になってからも一人戦い続け、それなりに食い下がる程の健闘を見せたと聞いている。



「それに燕木は指揮官としても頭のキレる男。この襲撃が反乱軍の主力を釣り出す罠だとするなら、彼らを討ち漏らさぬように周到に準備がされていると見て間違いない。今彼らが出て行っても、まずもって勝ち目はなかろうが……」



 ……普通に考えれば反乱軍は今ほぼ詰みに近い状況だ。

 誰が見てもこれはサイタマ共和国側の罠。サシコの考えた通り、謀反を企てる反乱勢力を一箇所に集めて一網打尽にするという策略にまんまとハメられた。そう分析するのが妥当だろう。


 しかし…………この違和感は何だ??


 暗躍する統制者……金鹿の資料に記された情報……マガタマの鍵を握るという六昴群星(プレアデスバルゴ)……武佐木小路乃(ムサキコジノ)の忠告……踏越死境軍(モータルフロント)……燕木哲之慎……


 いくつもの情報が頭の中を錯綜するが、違和感の正体については明瞭な答えは出ない。



「キナ臭いわねぇ」



 マキも同様に二転三転する事態に違和感を覚えている様である。この複雑な状況、果たしてどこまでが偶発でどこまでが陰謀か。



「なーんか怪しいんだよね。何もかもさ」



 そう言ってマキは未だ仲間たちに言葉を発さぬ吾妻榛名に視線を向けた。


 先程はこの期に及んで判断を下さぬ姿勢に将の器を疑問視したが、彼の沈黙には今は不気味さすらも感じる。この男も此度の事態に対して何らかの策謀を巡らせているのだろうか……


 くそっ……疑いだせば切りがないな。俺の頭ではとても事態の処理が追いつかん。まったくこういう時には学識のないのが悔やまれるが、そんな時はこの女……仮にも司教の地位を持つ才媛・マキの頭の冴えに期待するしかないか。


 と、半ば縋る気持ちでマキの様子を注視すると、十数秒間何やら考え事をしているような素振りを見せた後、おもむろに吾妻榛名に話しかけた。



「吾妻司教」


「……なんですかな?」


「さっきのマガタマの話だけど、取引しない?」



 ん?

 取引……?


 何を言い出すのだマキは。



「今アナタたちが襲われている部隊をこの村雨くんが撃退します。そうしたら貴方が知っているマガタマの情報をすべて話してもらいましょう」



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