第158話 革命サミット!(前編)
前回のあらすじ:反乱軍の砦に訪れたガンダブロウ一行を待ち受けていたのは……
「あ、貴方は……壇戸さん!」
現れた男はウィツェロピアで会った反サイタマ革命戦線の指導者壇戸譲八郎であった。
「お久しぶり……という程でもないですかな」
彼と会ったのは随分前になるように思えるが実際はふた月と経っていない。そう考えると、短い期間に色々な事があったと改めて実感する。
「貴方もこの反乱軍に参加していたのですね」
と、一応言ってはみる……が、彼らがこの反乱軍に参加している可能性は高いと予測できてはいた。彼らの拠点ウィツェロピアとこのクギは決して遠くないし、武力によってキリサキ・カイトに対抗する準備がある事を暗に仄めかしてもいた事からも何らかの形でこの反乱軍に関与することはごく自然に推察できる。そして、この町についた時に見張りの者たちが俺たちの事を知っているような風であった事から、情報提供者として彼らが組織に一枚噛んでいるのはほぼ間違いないと確信していた。
「まあ、成り行きというやつです」
壇戸さんはアカネ殿にチラリと視線を向ける。
この二人は以前に目的の違いからそれぞれの主張が並行線を辿り、折り合いがつかなかった。しかし、やや気まずさはあってもお互いに悪い印象を持っている訳ではないのだろう。アカネ殿は壇戸さんにぺこりと頭を下げ、ウィツェロピア脱出時の事に触れて感謝の意を表明した。
「その節は本当にお世話になりました」
「いや、なに、礼には及びませんよ。先に助けられたのは我々の方ですからな。それよりも聞きましたぞ、ミヴロでの事……」
む、耳が早い。まだあの事件から10日も経過していないというのにミヴロでの戦いについても既に風聞が伝播しているのだな……彼らの情報網も中々優れている様だ。
「何でも、この世界を滅ぼす程の力を持った陰陽術の兵器を開発していた御庭番十六忍衆を成敗したらしいではないですか。しかも我らとも通じていた板岱屋もその計画に加担していたとか」
……少し違うが、大体合ってるといえば合ってるか?
まあ、あの出来事を伝聞だけで正しく伝えるというのは無理があるが。
「彼らの計画が成就していれば我らがキリサキ・カイトに対抗する事はより一層難しくなっていた……いやはや、我らはまた貴方がたに助けられた事になりますな!」
キリサキ・カイトを倒すも何も金鹿の野郎の目的は世界を滅ぼす事。やつの計画が成功してればキリサキ・カイトもろとも地上の全ては洗い流されていただろう。しかし、彼らは御庭番十六忍衆はキリサキ・カイトの忠実な部下だと思っているのだから、あの事件をキリサキ・カイトが己の立場を更に強化する為に手下に指示して行ったと解釈されるのは自然な事だ。この誤解を解くにはマガタマや統制者についても説明しなければならないが……すぐに信じてもらうのは難しいだろうな。
「貴方がたは英雄だ! 特に太刀守どの! 貴方の武功はいまやあの先代太刀守・朝青編竜にも匹敵する! その貴方がこの地に来てくれたという事はやはり我らと協力して…」
「壇戸さん。前にも言いましたが、我々は帝と事を構えるつもりはないのです。今もその思いは変わりません」
そう言うと同時にアカネ殿の表情も確認する。しかし、その表情からは真意は読み取れない。俺は再び壇戸さんに向き直る。壇戸さんもそこまで期待はしていなかったのか、苦笑いした後に「ああ、そうでしたな」と悪びれずに答えて頭を撫でてみせた。
「だから俺たちをここに呼んだ目的が一緒に戦うという事なら申し訳ないが……」
「いやー、分かっております! 分かっておりますとも! ただ、実は私もその事は他の組織の連中にも説明したのだが、幹部連中の一部はそれでも太刀守殿たちに協力を仰ぎたいとどうしても聞かんでな」
ふっ……自分もあわよくばと思っていたくせに調子のいい人だな。キヌガーの人々といい、丙一や乙ニといい、トッチキムの人は皆こういう性質なのだろうか。
「貴方がたをお呼びしたのはその幹部連中の意向なのですよ。特に此度の連合の盟主がさぞ貴方がたに会いたいと申してましてな……申し訳ないが最上階の軍議場まで一度ご足労頂き、貴方がたの意思を彼らに直接話しては頂けないだろうか?」
……なるほど。やはり俺たちが呼ばれたのはそういった事情からか。
まあ、彼らの立場で考えれば無理からぬ事だ。あのキリサキ・カイトと事を構えようというのだから戦力は少しでもあるに越した事はないし、御庭番を次々撃破しているという俺たちの噂を聞けば協力を仰ぐというのはむしろ当然の策略。俺が彼らの指導者でも同じようにするだろう。
だが、俺たちはあくまで此度の戦争には反対の立場。出来れば彼らを説得して戦いを避ける道を模索したい。そういう意味で反乱軍の指導者たちと話し合う場が設けられたのは有り難い事だ。
無論、今ここに至っては彼らを止められる可能性は限りなく低いだろう事は疑いない。暗躍する御庭番十六忍衆や統制者の権謀がどこまで影響を及ぼしているかも分からぬし、何より熱狂した群衆の意思は指導者の言葉1つで変えることが出来ぬものである事もよく理解している。それでも、俺は出来る事をしたい。針先よりも細い突破口でも双方最悪の未来を回避する可能性があるのならそれを探る努力を怠りたくはないのだ。
それに気掛かりなのは……
「盟主というのは?」
マキが壇戸さんに質問する。
「旧ゲンマ皇国の反政府組織六昴群星の最高指導者・吾妻氏だ」
そう、気掛かりなのはまさにこれだ!
あの燕木の弟子・武佐木小路乃がサシコに警告したという反政府組織・六昴群星……やはりこの砦にいたか!しかも反乱軍の盟主とは……
金鹿の資料によれば彼らはマガタマの在処についても何らかの情報を持っていると思われる。俺たちが反乱軍の砦にやってきた目的はキリサキ・カイトとの全面対決を避ける方法を探る事と、もう1つマガタマについての情報を探る為でもあった。お互いの利害関係が定まらぬ不安定な情勢下において、理想と現実の狭間に妥協点を見出すのは容易ならざる事であろうが……しかし、アカネ殿の為。ここは剣術ではなく誠意と論理を持って何としてでも状況を打開せねばならん。
「ゲンマの……吾妻? はて、もしかして……」
マキが首をかしげる。どうやら六昴群星の指導者だという者の名前に何か心当たりがある様子だが……そういえばゲンマ皇国はジャポネシアの国の中でも特にヨロズ神の信仰が厚く、神殿や聖殿に仕える神職者も数多くいると聞いたことがある。一応はヨロズ神道の司教たるマキに知り合いがいてもおかしくはないが……
「……してご返答は?」
……色々と懸念はあるが、ここに来て引くという選択肢はない。
俺はマキ、サシコ、アカネ殿の顔をそれぞれ見渡し、彼女たちの意思も同じである事を確認すると壇戸さんに向きかえって言った。
「分かりました。お会いしましょう」




