第149話 魔の都へ!
前回のあらすじ:突如現れた無差別テロ組織・踏越死境軍!彼らはクリバスの門を力付くで突破せんと暴れ始めるが……
「ヌーッ!?」
踏越死境軍の男が衛兵を処刑せんと振り下ろした刀に草薙剣を合わせる!
「それ以上の狼藉は許さん」
「ほう……邪魔立てする気か?」
そのまま刀同士が鍔迫り合いになる格好に持ち込むと、男は俺の剣をいなすように剣を引き、一度間合いの外に飛び退いてこちらの様子を伺う。
「只者じゃないなァ、兄さん。アンタのその眼は死線を知っている眼だ。さぞや名のある剣士と見た……だが!」
男は再び剣を構え直すと、戸惑うことなく大地を蹴り、こちらに突進してきた。
「俺たちは! 誰が相手であろうと止まるつもりはない!」
「ちっ……!」
戦狂いめ!話の通じる相手じゃないか!
「ハァッ!!」
俺は二度、三度切り結ぶと今度はこちらが一度引いて相手の様子を伺った。
ううむ……!
この斬撃の鋭さといい巨体に似合わぬ身のこなしといい、やはりこやつ並の使い手ではないな!そして、その体格以上に感じる剣の重さ……六行の属性は恐らく土行!
しかし…………はて?
この太刀筋はどこかで見た事があるような……?
「太刀守殿! あたしも助太刀します!」
背後から援護を申し出るサシコの声。
かつてのサシコとは違い、今や彼女は自分の身は自分で守れるほどに成長した。実際、今の彼女なら御庭番級の強者とも充分に渡り合う事もできるだろうが……
「ヌゥ!? 太刀守!? 今、太刀守と言ったか?」
「あっ! しまった!」
俺の名をあっさり口にして敵に知られてしまう等、戦場の気配りはまだまだのようだな。
「なるほど、そうか……貴様が太刀守・村雨岩陀歩郎か!」
……相手によっては太刀守の名の威光で、戦わずして退かせる事が出来たかもしれないが今回の相手はあの悪名高き踏越死境軍。過去に対戦した伊達我知宗などもそうであったように、こういう戦闘狂じみた輩にはこの名はむしろ逆効果だろうな。
「ヌククッ! なんという僥倖! なんという因果! まさかあの太刀守と剣を交える事が出来る日が来るとはな!」
案の定男は太刀守の名に戦意を刺激されたような反応を示す。
やれやれ……しかし、どのみちこの様な手合いは明瞭な決着がつくまで引き下がりはすまい。それならば、太刀守の名に惹かれて俺だけを狙ってくれる様になれば被害が少なくなってむしろ好都合か。
「しからば、太刀守よ! 改めて俺から立ち合いを申し込むぜ! 俺は 踏越死境軍が一人、猪村地備衛! 流派は…」
と、男が立ち合いの作法に則った名乗りを上げようとした時……
「やめなさい、地備衛!」
踏越死境軍の別の男が決闘を止めに入る。
「……なんだ、三蔵寺! 今いいところなんだ! 邪魔すんじゃねえよ!」
猪村が男を睨み返すが、男も彼の圧力には屈しない。
「やめるのです」
静かだが低く迫力のある声で男は猪村を諭す。
むう……
これは、どうしたというのだ?
踏越死境軍は自重とは程遠い戦闘狂集団……決闘に割って入るならまだしも止めるとはにわかに信じがたい。
「おい、三蔵寺。踏越死境軍は一度進むと決めたら死んでも止まらない屍の兵団だろ? それをお前は止めるっていうのか?」
「より大いなる死線のためです」
そう言われると猪村はしばし押し黙り、何か考える素振りを見せたあとゆっくり刀を鞘に納めた。
「………………ふんっ! 分かったよ!」
猪村は憮然としつつも、三蔵寺とやらの指示には従い、兎にも角にも戦闘は平和裏に終結した。
俺も剣を納めて戦闘の意志が無いことを示すと、猪村は踵を返したが去り際に意味深な捨て台詞を囁いた。
「いずれまた会うだろう……我が流派と貴様とはどうやら奇妙な縁で結ばれてるらしいからな」
「なに?」
流派との奇縁……だと?
名乗りを途中で止められてしまったので何流の剣術かまでは分からなかったが確かにヤツの太刀筋には覚えがある。ヤツ自身とは初めて剣を交えたはずだが……やはり俺はヤツの流派とはどこかで立ち合っているのか?
そう疑問が頭に浮かぶが、猪村に問い正す前に今度は三蔵寺という男がこちらに話しかけてきた。
「太刀守殿とその御一行……クククッ! 噂はかねがね……」
慇懃無礼なハゲ頭の初老男性。もとより細い目が柔和な笑顔でいっそうと細めるが、その穏やかな表情の奥にどこか狂気を匂わせる。
猪村が指示に従ったところからも、恐らくこの三蔵寺という男が踏越死境軍の中で司令塔的な役割をしているだろうという事が分かる。
「だーれが御一行よ〜」
「……この人たち私達を知ってるの?」
「太刀守殿……油断は禁物ですよ!」
マキ、アカネ殿、サシコはそれぞれ三蔵寺という男に警戒感を示す。
「あなた方の暴れっぷりは我らの耳にも届いていますよ……なんでもあの御庭番十六忍衆を短期間の内に何人も倒したらしいじゃないですか?」
む……!
こやつらも俺たちが御庭番十六忍衆と戦っている事を知っているのか……確かにウィツェロピアで会った反サ革の首領壇戸さんもその事は知っていた。
どうやら各地での戦いの噂が本格的に流布されてきている様だな。成り行きでの事で仕方がなかったとは言え、ウラヴァに着くまでは人の耳目を引くその手の風聞はなるべく拡散されない方が都合がいいのだが……
「我々ですら御庭番十六忍衆とはまだ戦った事がないというのに……いやはや羨ましい限りです」
「で、村雨くんの威名に恐れをなして矛を納めてくれたってわけ? 踏越死境軍は恐れ知らずの戦闘狂と噂で聞いていたけど、本当は随分とお利口さんのようね」
マキも踏越死境軍の豹変ぶりには何か違和感を感じたのだろう。挑発気味に探りを入れる。
「こちらにも色々事情がありましてねェ」
しかし、三蔵寺は少なくとも表面上の理知的な態度を崩すことなくマキの挑発を受け流した。
「まァ、あなた方もウラヴァに向かわれるのなら、いずれどこかの死線で顔を合わせる事になるでしょう……その時、敵になるか味方になるかは分かりませんが」
「何? それはどういう事だ?」
「あなた方は自分たちで思っている以上に死線の中にいるという事ですよ……では」
三蔵寺がスッと手を挙げると、残りの踏越死境軍の面々は崩れたクリバスの門を越えて旧サイタマ領へと消えていった。
「……一体なんだったんですかね?」
「分からん。分からんが……」
奴らがあえて俺たちとの戦闘を避けた事に何かしらの意図があるのは間違いない。
より大いなる死線……と、言っていたが、やはりあ奴らも他の反政府組織と合流してキリサキ・カイトと事を構えるつもりなのだろうか?
では、戦闘をここで避けたのはその時の為に戦力を温存するためか?
それならあり得ない話ではないが……
ううむ……いずれにせよ旧サイタマ領内で噂以上にただならぬ事態が起こりつつあるのは間違いなさそうだ。
「やはりウラヴァの前に行くしかないか……反政府組織が集結しているという街、クギに」




