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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第2章 北方の旅路編 (ツガルンゲン~アイズサンドリア~キヌガー〜ウィツェロピア)
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第13話 最初の町ツガルンゲン!

前回のあらすじ:オウマから旅立ったガンダブロウとアカネは最初の町ツガルンゲンに到着した。


「へえ~、ここがジャポネシアの町か~!」


 アカネ殿が物珍しそうに町を隅々まで見渡す。


 旧エイオモリア領ツガルンゲン──果実の産地としても有名なこの町はサイタマ共和国の北方地域では5本の指に入る主要都市である。商いも盛んで、旅に必要な物資は大方ここで入手する予定だ。


 食料などは通りの市場で揃えれば良いとして、問題は馬だ。出来れば荷台も手に入れたいところだが、何分ふところが寂しい……購入するのは無理としてもどこかで賃借できないものか。


「おお、綺麗! こういうの夏祭りとかでよく見るな~! やっぱり日本と少し似てるんだなァ」


 アカネ殿は市場通りの飾り提灯やら祭り用の山車などを見て、はしゃいでいる様子であった。


 はあ、まったく呑気なものだ……


「写真とっておこっと!」


 アカネ殿は神器(ジンギ)八咫鏡(ヤタノカガミ)……もとい()()()と呼ばれる鏡板をあちこちにかざしていた。


 ふむ、あれはおそらく「撮影」という機能を使っているのだろう。


 俺はここまでの道中、あの鏡板の持つ不思議な機能について説明を受けた。

 正直、俺の頭では半分も理解出来なかったのだが、どうやら地図を投影するだけでなく、「写真」という風景を映写して絵のように保存する力や、遠くにいる同じ神器を持つ者と意思疎通をする事が出来る機能もあるのだという。


 確かにこれだけの万能さがあれば(いくさ)においても情報戦を圧倒的優位に進められるであろう。キリサキ・カイトの超然とした軍略もこの()()()の功があったというのなら納得がいく。


 俺がアカネ殿の()()()捌きを眺めていると、今度は鏡面を小刻みに叩くような動きをしている事に気づいた。


「うん? それは何をしておるのだ?」


「え? ああ、これはトークアプリ……と言っても分からないと思うけど、スマホの中の機能の一つを使って神様に連絡をしているんです」


「ほう、神にな。それはご苦労…………て神に!?」


「そう。簡単に言うとこの板の上で書いた手紙が一瞬で相手のスマホに表示されるんです。それで、相手が手紙が届いたことに気づいて返信を書くと……ほら、メッセージがここに表示されるでしょ?」


 アカネ殿が鏡面をこちらに見せると、そこには何やら文章が浮かび上がってきているようであった。



::::::::::::::::::::::


 無事に最初の町に着きました>(★‿★)


【神】<おお良かった!


【神】<ぜんぜん連絡無いから心配しとったんや!


【神】<ワシ寂しくて寂しくて


【神】<嬢ちゃんに会いたくてふるえとった…


 笑>(★‿★)


 ていうかスマホの地図情報が古いんですけど>(★‿★)


 情報更新されないんですか?>(★‿★)


【神】<え~、そうなん?


【神】<知らんかったわー


 あとモンスターいない世界とか言ってましたけど>(★‿★)


 普通に出てきたんですが、それは>(★‿★)


【神】<うそ!? マジ!?


::::::::::::::::::::::



 なにやら随分と砕けた感じのやり取りである。

 仮にも神に対して、無礼ではないのだろうか……?


 まあ、それはさておき。


「俺はこれから馬を探しに行こうと思うのだが」


「お馬さん? この町には馬が買えるお店があるんですか?」


「ああ、だが馬を買うほど路銀に余裕が無い故、いくつか心当たりを当たって馬を貸してもらえないか聞いてみようと思う」


「あっ……そっか。わたし、ガンダブロウさんにお金の負担までさせてしまってましたね……迷惑ばかりかけてしまって本当に申し訳ないです……」


 ぬっ、しまった。余計な心配を掛けてしまったか……

 連れの女人に金の心配をさせるとは我ながら何と情けない。


「いや、心配には及ばぬ! 俺はこう見えて顔が広い故、馬を借りるなど造作も無いことだ!」


 とりあえずアカネ殿を安心させるために虚勢を張ってみせた。ここの町にはサムライ時代に知遇を得た商人や町人がいる……なに、馬の一頭ぐらいきっと貸してくれるはずさ。


「アカネ殿は異人の格好で目立つであろうから、俺一人で行ってくる。その間はあそこの茶屋で休んでいてくれ!」


 オウマを出てから丸一日。まだ手配も回っておらぬだろうし、きっと大丈夫さ……



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「悪いな村雨(ムラサメ)さん……余分な馬は全部売っちまってね。今は貸せる馬は一頭もいないんだよ」


 アカネ殿と一時別れてから、およそ2時間──俺は自分の考えが大いに甘かった事を知った。


「このところ不景気でねえ。お上が思いつきで作物の生産や流通に介入してくるせいで、市場が不安定なんだ」


 俺は5年もの間、俗世とはほとんど繋がりの無い極北の見張り棟にいたせいで世間の事情には疎くなっていたが、どうやらキリサキ・カイトの無茶な国策のせいで経済に混乱をきたしているようであった。


「遊戯施設がたくさんあった方がいいとかで働き盛りが首都で工事に従事させられたり、小麦の生産を増やさないと帝の望む食文化が作れないとかで畑を無理やり変えさせられたり……とにかく、お上の都合で俺たち商人はめちゃくちゃに振り回されてるんだよ。今ある商売が明日も続く保証は無いんだ。申し訳ないけど、人に馬を貸してる余裕はねえんだよ」

  

 結局、心当たりを全て当たってみたがどこも同じ回答であった。

 ううむ……戦がなくなったからといって市井の暮らしがよくなるという訳でも無いのだな。こんな事ならオウマの見張り棟の馬を使えばよかったか?いや、しかし国営施設の従事動物を勝手に持ち出したとあっては盗っ人もいいところ……流石にそれは出来ない。


 ん?いやいや、待てよ?その前に帝直属の兵士を斬り伏せてしまっているのだから、そんな細かいことを気にしても仕方無かったのでは?


 ……うーん、考えてもラチがあかん。とりあえず随分待たせてしまったのだからアカネ殿のいる茶屋に戻ろう。



 しかし、アカネ殿には格好良く啖呵(たんか)を切って見せたのに、これでは恥の上塗り。それに馬なしで旅となれば追っ手がかかればすぐに追いつかれてしまう……くそう、旅は始まったばかりというのに上手くいかない事だらけだ。


 俺は頭を抱えながらアカネ殿と待ち合わせた茶屋に戻る……と、茶屋の周りの様子が何やらおかしい事に気づく。


「……ん!? 茶屋の周りに人だかり!? 何事だ!」


 

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