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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第143話 禁断の金鹿ファイル!(後編)

前回のあらすじ:マキが能飽の方舟から回収した金鹿の研究資料……そこに書かれていた衝撃の内容とは?


一人称視点 ガンダブロウ



 マキが語る金鹿の研究資料の内容及び現在に至るまでの彼の計画の変遷は想像の限度を遥かに超えた次元の話だった。



 まず、金鹿が今回の新世界計画とやらを起草したのはなんと実に60年以上も前に遡るのだというから驚いた。



 ヤツは当時既にデグモー大聖堂の大司教の地位にあったらしいのだが、その頃はごく善良で博愛主義の聖職者だったという。彼は六行の技の黎明期〜過渡期において様々な陰陽術の開発に携わって大きな成果を上げ、御珠守の称号を得るまでになった。だが、純粋な人類の発展のためと研究してきたそれらの技術が各国の為政者たちによって戦争の具として使われ、いつ終わるとも分からない戦乱の世界を生み出す原因となっている事に絶望。彼は荒んだ世界を救済する事を志向するようになったが、いつしか「世界を救う」という発想は「世界を作り直す」に変わり、「新たな世界を創造する」という狂気に取り憑かれるようになっていった。


 彼はその狂った夢を実現するため様々な研究と試みを繰り返した。まず彼は自身の陰陽術の実力によって世界を征服する事を考えた。しかし、それはすぐに頓挫することになる。何故なら当時は俺の先代の太刀守……朝青遍竜(アサオヘンリュウ)が健在の時代であり、どこの国にも所属せず世界の統一を試みる者が現れるとそれと対峙し圧倒的な力で阻止するという彼を倒す方法が当時の金鹿にはなかったからだ。


 彼が次に着手したのは人を超える生物を生み出し、既存の生物や人間を駆逐し新たな生態系を作るという事だ。独自に開発した六行を物体に半永久的に宿す技術(紅鶴御殿の研究で実用化される50年前に既に開発していたらしい)を応用し、野生動物に六行の力を付与した改造生命体──(アヤカシ)を生み出した。



「え!? じゃあ金鹿が(アヤカシ)の生みの親って事!?」



 サシコが驚きの声を上げる。



「んー、正確にはそれよりもっと昔から(アヤカシ)のような超自然の生物……例えば【幻妖の渦】の沼御前とか聖帝の三従魔とかは居たには居たのだけど、今野生で出現する(アヤカシ)のほとんどはこの時期に金鹿が造ったやつみたいね」



 む……確かに、伝承としての(アヤカシ)ではなく実際に現世に現れる災禍として(アヤカシ)が公に認知されるようになったのはここ何十年かの事。その時期に金鹿が大量生産して世に放ったというのなら辻褄は合うが……まったく何とはた迷惑な事をしてくれたものか。



「でも結局、(アヤカシ)を制御する事は難しかったのと既にかなり発展していた人類の軍事力をねじ伏せる程に(アヤカシ)を大量生産する事はできなかったみたい」



 と、いう訳でまたしても金鹿の計画は頓挫。


 ちなみに人の理性を持った(アヤカシ)を作る技術……転妖の術もこの流れで開発されたものだそうだ。


 こうして幾度か挫折と挑戦を繰り返した金鹿はついに極論に至る。

 もう、面倒だから今の世界は破滅させて0から創り直してしまえばいい……という破滅的な結論に。


 そして、金鹿は世界を破壊する陰陽術【神奈河】の理論を確立。

 しかし、この理論を実証する為には術者が六行の中の5属性(火・水・風・空・識)を使える事と、ほぼ無尽蔵の呪力が必要不可欠だった。


 前者は属性を付与する術の発明と大量の【玉視】──これを持っている者は常人よりも呪力が強くなるという──を使う事で解決し、後者は伝説の神器マガタマの力を利用する事で解決する事を計画した。


 そして、必要量の【玉視】を集めマガタマの在処をエドン公国だと突き止めた時……彼は齢130歳にもなっていたという。



「折しも時代はキリサキ・カイトによる世界統一で、マガタマを管理する【統制者】の力は減退していた。【統制者】の事は金鹿も知っていたみたいだけどこれを好機と見た彼はすかさずマガタマに接近する為、野望を隠して御庭番十六忍衆に入隊した。その後の経緯は知っての通りね」



 ふぅむ……半世紀を超える悲願、か……


 この話を聞くまでは金鹿はただのトチ狂った終末論者だと思っていた……いや狂っているというというのは間違いないだろうが、己の私利私欲のために非道な行為を行う輩どもより多少なりとも同情に値する部分があるだろう。


 ……いや、それも違うか。

 数百年以上も続いた戦乱の世も、それを形成してきた為政者や兵士の1人1人はそれなりに崇高な理想や大義を持って戦っていたに違いない。その中にはかつての俺も含まれていた訳であるが、理想や大義というものは誰かの犠牲なくして達成はされぬもの。そしてそれらの異なる理想と大義がぶつかり合えばその犠牲が積み重なり悲劇の歴史が繰り返される。その連鎖を止めるためには金鹿のような方法しかないのかもしれないが……



「ともかくヤツは綿密な計画と自身が開発した技術の数々を武器に野望をあと一歩で完遂するところまで行った。私が在処の手がかりにすら辿り着けなかったあのマガタマを一時的とはいえその手中に納めて……正直、いち研究者としては畏敬の念を感じずにはいられないわ」



 ヤツのしでかした事は許されるべき事ではない。

 しかし、金鹿を否定し、このまま人類が彼の絶望した未来から脱却できると言い切る事も俺には出来ないし、言う権利もない。



 俺に出来る事はヤツの絶望した人類の汚点をサシコや能飽の方舟に集められた子供たち、次の世代に引き継がせる事なく、いつか彼らがこの世界を少しでも良い方向に持っていってくれる事を願うだけである。



「……ただまぁ、その感慨とは別にヤツの研究資料には刮目して見るべき文章が他にある」



「な……まだ何かあるのか!?」



「というより現状の私たちに関係がある話はむしろここからが本題でね。ヤツの資料のこの記述を見て欲しいんだけど……」



////////////////////////////////////////////////



 計画に必要なマガタマの1つ【シヴァニタマ】がエドン公国の【統制者】によって管理されている事は分かった。世界の再編には残りの2つのマガタマも必要になるが、世界の破壊を完了した後に探す事もできる。まずは【神奈河】を起こす為に必要な【シヴァニタマ】の入手が最優先事項であり、その方法は…



////////////////////////////////////////////////



 な!? マガタマの……1つ……だと!?



「え!? という事はつまり……」



「そう、つまりマガタマは複数あるのよ!」



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