第12話 峠道にて!
前回のあらすじ:兄を追って異世界転生を試みたアカネは異空間にて神と名乗るオッサンに出会う。そして、ジャポネシアに転生する直前、アカネは神との奇妙な交流を持つ事になったのであった。
「…………つまりアカネ殿はその"神の世界"に滞在し、そこで力と知識を神から授けられたという事か?」
オウマの見張り棟を出て数里──ここは旧エイオモリア領ツガルンゲンの郊外である。
峠道を進みながらもアカネ殿は異世界転移の経緯について俺に説明をしてくれていた。
「まあ、平たく言うと」
アカネ殿によれば、その「神のおじさん」と仲良くなることで世界の理のような知識を断片的に得ることが出来、その時にこのジャポネシアの世界についても深く知見を得たという。この世界の神官や預言者などが語る神の啓示とは比べるべくも無い程、具体的すぎる神との交流談である。
「むう……神に愛され、神託と加護を受けるとは……アカネ殿はやはり只者ではないな」
「神託っていうか8割以上は仕事の愚痴とか若者のへの不満とか、そんな話ばっかでしたけど…………あと、この力に関しては転生者は誰でも得られるんです」
「そうなの!?」
キリサキ・カイトは自身の"地異徒の術"を選ばれし者だけが得ることの出来る力と嘯いていたが……
「転生する先の世界に合わせてカタログから好きな力を選べるようになっているんですよ……この"陰陽術"もそのカタログから選んだ力のひとつです」
「カタログって……」
「たとえば"結界術・熟練度100"とか"火行・熟練度100"とかね……他にも剣術とか体術とか色々なスキルが選べるようになっていました」
アカネ殿の話はにわかに信じがたい……が、彼女の"地異徒の術"を見てしまえばその話も真実味を感じざる得ない。
「兄貴はそんな事説明しなかったですよね? たぶん自分だけの特別な力だって事にしたかったんじゃないかな」
彼女の話を聞いていると今まで畏怖していた異界人キリサキ・カイトの印象もずいぶんと変わってきた。元々、大層な人格の持ち主とは思っていなかったが、アカネ殿の話が全部真実とするなら……なんというか可愛そうなヤツである。
「それで結局、兄を……キリサキ・カイトを連れ戻す手段は神より授かる事は出来たのか?」
「ううん、具体的なとこまでは結局教えてくれなくて、ヒントだけ教えてもらったんです……」
そう言うと、アカネ殿は"神の世界"で聞いた情報について回想した。
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「ええか。マガタマや。マガタマを探すんや」
「マガタマ……ですか?」
「そや。君がこの世界に来たのはエレベーターを使った方法やろ?」
「はい」
「それは千年くらい前に当時の神がプログラムした異世界へ行くための隠しコマンドやねん。元々は人間が使うもんやなくて、神たちが現世にお忍びで降りた時に天界に戻るために使う方法やったんよ」
「え? そうだったんすか?」
「おお、しかもその方法は本来エレベーターやのうて、神の浮遊術を使って上下移動する事を想定しとんねん。当時はエレベーターなんてもんは無かったし、まさかそんなもんを人間に開発されるなんて思いもせんかったからの。ほんで、こんな方法やったら誰も真似出来ひんやろ! ちゅうノリで異世界への行き方は設定されたんやけど、結果的に現代ではめっちゃ簡単な異世界転移方法になってもうたんや。アホやろ~?」
「はあ」
「でな、こういう隠しコマンドは実は他にもいくつかあんねん……君たちの世界で神隠しって現象があるやろ? これは知らず知らずのうちに隠しコマンドを実行してしまって異世界転移してしまってるってケースがほとんどやねん」
「なるほど、なるほど…………あっ」
「気付いたか? その隠しコマンドを実行できればまたここを経由して元の世界に戻ることが出来るんや」
「……という事はマガタマを使えばその隠しコマンドを実行できるって事ですね?」
「無論手に入れるだけじゃダメやけどな。そのマガタマをある祭壇に供えて、あるワードを……っとこれ以上はアカンかな」
「……ッ! 十分です! 本当にありがとうございます!」
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「…………という訳でこの旅は兄貴に会う事と、マガタマを見つける事……その二つの目標を達成しないといけないんです」
隠しコマンドで神隠し……よくは分からないが、これまた突拍子も無い話である……
「なるほど、マガタマか……確かにマガタマを使った儀式で鬼の世界への門が開くという伝説は聞いたことがあるな」
「あれ? もしかして、ガンダブロウさん、マガタマについてもご存知だったりします?」
「昔話で聞いたことがあるという程度だがな」
「どこにあるかとか知っていたりしますか?」
アカネ殿の無邪気な質問に俺は何故か少しだけ胸に痛みが走った。そうか、やはりアカネ殿は早く元の世界に戻りたいのだな……
「いや……マガタマは伝説上の道具で、今どこにあるかは見当もつかない。ただ、マガタマに関しては俺よりも遥かに詳しいヤツが知り合いにいる」
「本当ですか!?」
「ああ。昔と居所が変わっていないのであれば、ウラヴァへ行く道中、そいつのところに寄っていけるぞ」
「そうして頂けると助かります!」
「分かった……だが、その前にアシを確保しないとな。さすがに千里を徒歩で行くのは骨が折れる」
峠道が下りに向かう折、目下に町並みが広がる。
「見えてきたな……旧エイオモリア領の首都ツガルンゲンだ。どこに向かうにせよ、まずはあそこで馬を調達せねばならん」




