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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第137話 ビヨンド・ザ・ニューワールド!(前編)

前回のあらすじ:御庭番十六忍衆・金鹿馬北斎 撃破!!


一人称視点 ガンダブロウ→サシコ



 五属性を駆使した驚異の陰陽術【神奈河】──

 『逆時雨』によって逆流した呪力の大波は金鹿を呑み込んで天へと昇った。


 

「ハァ……ハァ……!」



 慣れない空中で姿勢を制御しながらの大技…………我ながらよく決められたものだと感心するが、恐らくこの結果は俺だけの力ではないだろう。


 いかに俺の『逆時雨』が相手の技の反射に特化していようと、返せる規模には限度がある。一連の戦闘で金鹿の呪力は削られていたのに対し、俺は羅蠅籠山(ラハエロウザン)の介抱でどういう訳か呪力まで回復していた。

 この差がなければ結果は逆になっていてもおかしくはなかった……いずれにしても紙一重。薄氷を踏んだ勝利だという事に疑いはないが……



「ガンダブロウさん!! 私は信じてましたよ〜!!」



 アカネ殿が火行の式神【鼯火(ムササビ)】で空を飛びながら俺に抱きついてくる。



「むおっ! 危ない!」



 俺はアカネ殿と違ってからくり機巧を背負ってかろうじて飛べているだけで、そこまで自由に飛行できる訳ではない。空中で抱きつかれると姿勢制御が難しいのだが……ふっ、まあいいか!



 と、勝利の余韻と布越しに感じる弾力に浸っているのはつかの間。



「…………ん!?」


 

 空中を漂う巨大船、能飽の方舟に起こった異変に気付くと弛緩していた空気が再び緊迫感を帯びた。




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「やった……金鹿が……金鹿が倒されたぞおおおぉ!!」



「「「 うおおおおおおおおおおっ!! 」」」



 金鹿馬北斎が太刀守殿に倒されたのを確認すると、今まで固唾を飲んで戦況を見守っていた観客、選手たちが歓呼の声を上げた。



「これで私たち家に帰れる!」

「世界は救われたんだ!」

「アカネさん!そしてあの剣士の人!あの人達は英雄だ!」



 皆この奇跡に喜び、口々に太刀守殿たちへの感謝と称賛の言葉を述べた。



「太刀守殿……やっぱり……貴方は凄いです」



 かくいうアタシも太刀守殿の偉業には感動で言葉を失った。


 これがエドンの……ジャポネシアの……いや、アタシの英雄!村雨岩陀歩郎だ!と大声で叫びたい気持ちでいっぱいだった。



「サシコちゃん、やったんやね……」



 コジノさんはこちらに手を差し述べてくれたので、グッと力強く握手しお互いの健闘を称え合った。

 太刀守殿だけじゃない、コジノさんも本当に凄かった。アタシだけでは到底勝てなかった三池を斬り捨てた鬼神の如き活躍……アタシの感じられる範囲ではあの七重隊長と比べてもなんら遜色ない強さだった。


 太刀守殿に抱くのとは違う憧れの感情が自分の中に芽生えるを感じた。今まで漠然と太刀守殿の役に立つためにとアタシは頑張ってきたけど、コジノさんと肩を並べて戦った事で剣士としての新たな目標が自分の中に生まれた……アタシはこの人の強さに並びたい!そして、いつかはコジノさんと戦い……勝ちたい!



「……」



 コジノさんの琥珀色の瞳をじっと見つめる。



「なんや、サシコちゃん。そんな見つめられたら照れるばい」



「え、あ……いや、その……」


 

 と、その時……



 ズズーン!!

 と、衝撃とともに大きく船が傾き危うく転倒しそうになる!!



「うわああああ!!」



 歓喜の雰囲気から一転、群衆から叫び声が上がる。

 

 ……な、何!?

 一体何が起こったの!?



「……どうやら、この船を浮かせていたのは金鹿の術だったみたいね」



「えっ!?」



 そう言って現れたのは先程の金鹿との戦闘で腹部に重傷を負った女性──おそらくは太刀守殿の言っていた明辻泉綱さん──と、その女性に肩を貸しながら歩く吉備牧薪(キビノマキマキ)だ。



「あ、マキさん」


 

 吉備牧薪……さっき気がついた時には金鹿と戦っていたけど、いつの間にこの船に乗ったの?

 そういえばアタシは金鹿に攫われる時、この女と合流する手はずだったけど……


 て、それよりも!



「えっと、それってつまり……金鹿を倒してしまったこの船は……」



「ええ、地上に落下するわ」



 う……やっぱり……!



 

「金鹿馬北斎……あれ程強力な陰陽術を発動させつつ、船の浮遊にまで呪力を割いていたとは……やはり恐ろしい男やったね」


「感心してる場合じゃないです! このままじゃ皆死んじゃいますよ!」



 呪力を失った能飽の方舟は空に浮かぶただの木箱でしかない!

 差し詰め縄の切れた巨大な釣瓶!奈落の底に落ちて粉々に砕け散るのが自明の理だ!



「それだけじゃないわ……私はここに登ってくる前、船の中枢部を見てきた。そこには恐らくこの船を浮かせ続けるのに必要と思われる膨大な六行の力が蓄積されている動力炉があった……そこから感じた呪力は並の陰陽術師の数千倍。あれが落下の衝撃で暴発しようものなら街の一つや二つは軽く吹っ飛ぶでしょうね」



 な……ただでさえ切迫した状況なのに、まだそんな問題が……!



「まだ金鹿の術の残滓が残っているから落下速度はゆるやかだけど、それも長続きはしない。おそらくあと数十秒のうちに術が完全に溶けて船は真逆さまに急降下。地面に激突してミヴロの街も道連れにみんな仲良くあの世行きね」



 と、吉備牧薪が説明する間にも船はどんどんと高度を下げ、それに反比例して落下速度は次第に上がっていった!



「うわあああっ……!!」


「俺たち、このまま墜落して死んじまうのかよ!!」


「父ちゃん、母ちゃあああん!!」



 観客たちは恐慌をきたし、辺りは阿鼻叫喚をきわめた。

 無理もない……ここに集まっているのはほとんどがアタシよりも歳下の子どもたち。未来ある数百人の命がこんなところで絶たれてしまうなんてあまりに偲びない。



「はぁ、はぁ…………この状況……なんとか船の落下を止めなければ……」



「明辻さん! 無理はしないで!」



 剣を支柱になんとか身体を立たせているが、明辻泉綱は今にも倒れてしまいそうなほど満身創痍であった。



「応急処置はしましたが、その傷は本来致命傷……水行の力で自らの血が流れ出ぬようかろうじて抑え込んでいるようですが、貴方の呪力は既にかなり弱々しい。ここで無理すれば、間違いなく出血多量で死にますよ」



 金鹿に腹を貫かれた傷は見るからに痛々しい……



「…………どのみちこのまま落ちれば死ぬ事に変わりない」



「なにか手立てはないの?」



 吉備牧薪にこの状況打開の策を問うが、彼女は顔を横に振る。



「うーん、私らだけ脱出するなら手はない事もないけど、ここにいる全員となるとね……」



 彼女は言葉を詰まらせる。

 アタシも策を考えるが何も思いつかない……


 と、その時!

 


「それならウチがやってみるたい!」



 コジノさんはそう言うと半妖の姿に変身。

 (アヤカシ)の翼を広げて空中に飛び出すと、船の底に向かった。


 え!? ま、まさか……



「ふぬうううぅっ!!」



 この船の落下を一人で支えて止めるつもり!?

 いくら妖の力で身体能力が強化されたとはいえ、そりゃいくら何でも無謀が過ぎる!




「そんなっ! 無理無理! 一人の力だけでこのバカデカイ船を支えるなんて到底……」



「一人じゃないよ!!」



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