第136話 対決・御庭番十六忍衆④! VS金鹿馬北斎(結)
前回のあらすじ:金鹿馬北斎との戦いはついに最終局面を迎える!
一人称視点 マキ→ガンダブロウ→ガンダブロウ(回想)→ガンダブロウ
「ああっ! 私のマガタマがぁっ!」
長年その存在を追い続け、ようやく手の届くところにまで迫ったマガタマは無常にも地上の闇へと消えていく……
むむむ……金鹿の手から呪力の源であるマガタマを切り離してあの術を止めるにはこれしか方法がなかったのだろうけど…………て、えっ!?
「やってくれたのぉ!」
金鹿は初めて焦りを感じさせる態度を見せる……が、それでもなお発動中の術は止まらない!
そ、そうか……!
無限の呪力を供給しているマガタマは離れたけど、金鹿固有の呪力が尽きるまでは術は止まらないという事ね……しかし、術が解けるのは時間の問題か!
「むん!」
「ぐはっ……!」
金鹿は鋭利な刃物のように変形させ明辻泉綱を貫いていた腕を引き抜くと、落下するマガタマを手元に引き戻すべく凄まじい勢いで腕を伸ばす…………が!
「あっ!」
突如ものすごい速度で飛来した影に金鹿の伸ばした腕が切断され、マガタマの回収は阻止された!
「ぬおおおっ……!?」
噴射する炎が直線状の排煙を残し、無機質な黒い三角形の翼を翻して空中に現れた未確認物体は何故か私のよく知る呪力を放っていた。
「…………ふぅ!間一髪か」
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ミヴロの夜空──月に映る異様な巨船の影は地上からは威圧感と不気味さを感じたが、いざ近づいて見てみれば何とも滑稽に見えた。
ふむ……人が造った巨大な建造物というものは、地を這うものからは畏れられても、空を自由に飛ぶ鳥たちからはこのように見えていたのだな。
「貴様かァ……村雨太刀守ッ!!」
と、感心してる場合ではないな。
この背負式六行からくり機巧による高速飛行──なんとか要領を掴めてきたのはいいが、もたもたしていたら燃料切れで今度こそ地上に墜落してしまう事になる。それに……
「……ガンダブロウさん!? 傷は平気なんですか!? てか空飛んでますけど!?」
空中で結界を発動させ、金鹿の陰陽術──【神奈河】とやらを防ぎながらもアカネ殿がこちらに気づく。
「ああ、心配かけてすまん! 詳しい事は後で話す! アカネ殿はもう少しだけその結界を維持していてくれ! その間に…………俺が金鹿を倒す!」
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「ん? ここは……?」
目が覚めるとそこは怪しげな蔦に覆われた不思議な場所であった。
……俺は操られた明辻先輩に傷を負わされ、三池乱十郎に空飛ぶ船から地上に落とされたはず……あの高さから落ちて生きているはずもなく、とすればここはあの世という事になる。しかし、天国にせよ地獄にせよ緑のけったいな蔦に覆われた世界というのは生前伝え聞いたあの世の様子としては聞いたことがない。まあ、所詮死者の世界についての情報など一度も死んだことのない生者たちの想像の及ぶところでは無いのだろうが……
「気がついたか……つって?」
聞き覚えのある珍妙な口癖の男の声。
上体を起こし、周りを見渡すと想像通りではあるが、しかし意外な声の主の姿が目に映る。
「ら、羅蠅籠山!?」
傭兵団・幻砂楼の遊民の一人で、明辻先輩に倒された男、羅蠅籠山!
何故この男がここに!?
もしやこの蔦はコイツの術!?
まさか落下する俺を助けたのか!?
だとするとその目的は!?
というかそもそも生きていたのか!?
「詳しい事は説明してる暇はない……だがアレを見ろ!」
と、頭の中を様々な推理が巡ったが、羅蠅の指差す上空に目を向けるとそれらの疑問はすべて吹っ飛んでしまった。
「おお……何だアレは!?」
夜空に浮かぶ能飽の方舟──その怪しい影から空を舞う巨大な龍と見紛うほどの呪力の濁流が流れ落ちる滝のごとく地上に降り注がんとしており、その地上までの中間点にこれまた巨大な鳳凰の翼のような炎が展開されそれを阻止していた。
この世のものとは思えない壮絶な光景……にわかには信じ難いが、この光景の意味するところが何なのかは考えるまでもなく理解できた。
「あれは御珠守がマガタマを触媒に発動した陰陽術【神奈河】! あの術で地上の全てを洗い流すのが御珠守の目的だっつって! 今はマシタ・アカネが結界で防いでいるがそれも長続きはしない!」
…………アカネ殿……ッ!
「分かるか? 一刻も早く御珠守本体を叩くかマガタマを切り離さないとジャポネシアはあの呪力の洪水に飲み込まれて滅びる事になるっつって!」
くっ……!
何とかしてこの状況を打開したいが金鹿のいる場所は遥か上空。一度あの空飛ぶ船から地上に降りてしまった俺にはあそこに戻る手段は……
「あれを止めたければ……太刀守!」
切歯扼腕の思いで空を見上げていると羅蠅はおもむろに行商人の背負う行李の様な箱を取り出し、肩掛けを俺の腕に通した。
「コイツを背負えって翔べ! つって!」
「はァ!? な……何だよこの箱は…………背負って翔ぶってどういう……」
「これは能面法師の無線傀儡、見呼黒子弐號に高速飛行の為に実装されていたからくり機巧だっつって! アッシも詳しい事は分からんが、こいつを背負ってこの箱に呪力を込めると……」
羅蠅は俺に背負わせたからくり機巧を呪力を込めた掌でバシンと叩く。
すると……
「のおわわっ!!??」
背中のからくり機巧の両側からジャキンと鋭角の翼のような装置が展開し、突如俺の身体を上空へと飛翔させた。
「あとは自分の呪力を流し込み続ければ火行の推進力が発動して空を自由に飛行できる……らしいっつって!」
「おっ、おおおっ…………!?」
羅蠅の言葉の通り背中に呪力を集中すると飛行は安定した。
なるほど、身体の重心と呪力の強弱で進行方向や速度を調整するのだな……コツを掴めば意外に簡単に自由飛行ができそうだが……
むむむぅ……しかし、まさか呪力で空を飛ぶからくりが存在しようとはな!確かに紅鶴御殿の自動扉や小懸騎士など六行を物質に宿す技術は既知のものだが、既にこれほど先進的な技術にまで発展しているとは思わなんだ!
「だが、気をつけろ! 呪力は自分の許容量で出力を制御できるが、箱に込められた火行の力と燃料には限りがあるっつって!」
「なに!?」
「連続飛行は10分が限界! だから行くなら早く行けっつって!」
まぁ、そりゃそうか。
一時的に浮遊するだけならまだしも連続して高速飛行を続けるなんて最上位の陰陽術師でも一握りのものにしか出来ない芸当。それをからくり箱1つで実現するならそれなりの時間的制限があるのも頷ける。
しかし、10分か……既に飛行をはじめて数十秒……残り9分ちょっとであの金鹿を倒し切らなければ俺は今度こそ地上に墜落してお陀仏か。
危険は大きいが、他にあの船に戻る方法もない。今は四の五の言ってもられないか!
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……と意を決して文字通り飛んできた訳だが、到着したのはギリギリもギリギリの状況だった。もう数秒遅ければマガタマは再び金鹿の手に戻っていただろう。
マガタマが金鹿の手から離れたのは船で誰かが金鹿を妨害したからだと思われるが、明辻先輩がやってくれたのだろうか?ここからでは船の中の様子は分からないが……
しかし、いずれにしてもこれは絶好機!
俺は仮にも最強の武芸者の称号を与えられた男。先輩やアカネ殿が繋いでくれこの千載一遇の時…………無駄にするなら太刀守じゃない!
「なんと……なんと、なんと、なんと……! なんと予想外の事態の連続か! 次から次へと障害が湧き出おる……能面法師……明辻泉綱……【統制者】……そして……」
金鹿馬北斎は追い詰められたこの状況で取り乱しつつも、何故か少し楽しげな笑みを浮かべる。
ふん……全くとんでもないヤツだが、何十年と計画を準備してきた情熱とこの土壇場にあってもどこか超然とした態度は大したものだ。
「太刀守!! 分かったぞぇ!! 貴様の存在こそが我が計画の最大の不安要素だったのじゃ!! 貴様を倒さずして新世界……富嶽の頂を拝む事は出来んという事かァ!! ならば……」
金鹿はそう叫ぶと船の上から虚空へと飛び出し、放出し続けていた【神奈河】の射線をアカネ殿から俺へと振り向けた。
「我が偉業の最後の障壁よ、滅ぶがいい!! 貴様の名は新世界創造を阻もうとした邪神として創世神話に幾星霜と語り継がれるであろう!!」
火・水・風・空・識の5つの属性で構築された呪力の暴流。
このジャポネシアの全てを破壊し尽くすというだけであり、間近で見ると凄まじい迫力だ。しかし……
「金鹿……いや御珠守よ……新世界創造だか何だか知らんが、俺を……俺たちを倒すには……!」
「飲まれて消えろ、太刀守!!」
「少し工夫が足りないな!! エドン無外流【逆時雨】──
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▒ 裏 返 し ! ! ! ! ▒▒▒
」
跳ね返された呪力の波は術者である金鹿へと向かい、彼の野望ごとその身体を飲み込んだ。
「お、おおおおおおおおおおおおオオオオオオッッッッ…………!!!!」
地上を洗い流すはずであった暴流は天へと上り、雲を貫いて遥か高みで霧散する。六行の光は空気に溶けていき、その様子はまるで天空を彩る極光のようであった。
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