第133話 詰めの一手!
前回のあらすじ:三池乱十郎VSサシコ&コジノ勃発!
一人称視点 サシコ→マキ
「"破崘炎舞"!!」
「"宿禰嵐"!!」
アタシとコジノさんは迫りくるキノコ顔の兵士たちに連撃を浴びせ、その尽くを斬り倒した。しかし……
「なっ!?」
倒したはずの兵士たちは斬られた事などまったく意に介さない様子で立ち上がり、再び襲いかかってくる!
「なにこれ!?まさか不死身!?」
これがあの三池とかいう男の術なの!?
斬っても斬っても無限に襲いかかってくる敵……一人一人の強さは大した事ないけど、これを続けられればいつかこっちの体力が尽きてしまう!
「何度斬っても立ち上がる敵か…………サシコちゃん!コイツらはウチに任せるたい!」
そう言うや否やコジノさんは半妖体に変身。周囲に雷を放ってキノコ兵士たちを一時的に怯ませた。
……コジノさん。何か考えがあるのね。
それなら……
「わかりました!お任せします!」
アタシは怯んでいるキノコ兵士の隙間から一気に駆け出し、後陣に控える三池の本体を狙った!
「"蹴速抜足"!!」
風行の力を身に纏い加速!
その勢いのまま三池に斬撃を加える!
「……おお!風行の力で己を加速させたか!中々に鋭い踏み込みじゃないか!エエッ?」
三池は一瞬驚いた様子を見せるも、すぐに落ち着きを取り戻しアタシの攻撃をいとも容易く受け太刀した。
「しかし、一対一になってよかったのかネ? 君一人だけでこの僕を相手にするのはいささか荷が重いと思…………ぬゥ!?」
アタシは鍔迫合いの体勢のまま三池を押し込んでいく。
今までの風行の力だけでは体格に勝る相手を押し返すなど出来なかったが、新たに手にした力がそれを可能にした。
「たああッ!!」
「この馬力……火行の力か!?」
そう。この力は火行による身体強化。
風行の力で加速して相手の反応を上回る速度で近接戦を挑むのがアタシの【武蔵風】の特性だったけど、一発一発の威力は低く火力不足が弱点だった。しかし、火行によってその弱点は補われ、技の完成度は飛躍的に向上した。そして、更にそれに加え……
「……おおッ!!」
剣撃に空行の力を付与させる!!
「空行の電撃!? 3つ目の属性だと!?」
「"志那津火雷"!!!!」
火行の「燃焼活性」の作用による身体能力の強化!
風行の「拡散放射」の作用による加速!
そして、空行の「電導浸食」の作用による破壊力の付加!
この3つの効果を合わせた即興の剣技は、自分の想像していたよりもはるかに強い攻撃力を発揮した!
「のおァ……!?」
三池は鍔迫り合いから後方畳ニ十枚分ほど吹き飛び、船壁に激突!
壁は派手に崩れ、三池は飛び散った瓦礫と粉塵に飲み込まれた!
「がはっ……ごほっ……なるほど、その眼……ノッコッコ……そういう事か!」
しかし、それだけでは三池を倒しきる事は出来なかった。
三池はよろめきながらも埃を払って立ち上がると「そうか、そうか」と独り言を呟きながら剣を構え直す。
「宮元住蔵子くん!君のその眼……【龍の玉視】だな!」
「だったらどうだっていうの?」
と、彼の問に答えたが、三池はこちらの言葉など意に介さず自分だけで納得しているような様子を見せる。
「つまり君は御珠守殿の属性付与の被験体か……御珠守殿がずっと躊躇していた5属性目の付与を突然行ったのはそういう事情があった訳だ! なるほど、なるほど! まったく、そんな面白い事を黙ってやっているなんて御珠守殿も人が悪いネ!」
うん……あれだ。
こいつも金鹿と同じだね。
興奮すると人の話をまったく聞かないで自分の世界に浸っちゃうやつ。
「しかし!そういう事なら俄然やる気が出たヨ!5つの属性をその身に宿す【龍の玉視】を持つ剣士!僕の相手役にこれほど相応しい者もいない…………とすれば!」
むむ……!
三池の放つ呪力が急激に上がった!なにかしてくる気ね!
「トッタリア新当流『髏涅讃崇』!! 裏奥義"阿駆楠"!!」
禍々しい呪力が三池の体から立ち昇る!
「ハッ……ハッ……フゥー…………トぶ! ああああ〜! ブッッッッ……とぶネェッ!!」
三池の体中から紫色のキノコが何本も生え、体の色も真っ赤に変色。
同時に体のあらゆる血管が浮き出し、異常な興奮状態に突入する。
そのおぞましい変容と共に飛躍的に戦闘力を向上させた事が伺えた。
「ノッコッコ!!コ……この技を使ウとナァァ……識行デ精製した脳内麻薬がドバドバ出て理性……ガ!! ハァッ…………シバラく理性がトんジマウ代わりにィ……!!」
そうまくし立てながら三池は跳躍。
ものすごい勢いでもってアタシの方に突っ込んできた。
「アッッッ倒的な力がァァァ…………湧いてくるのだァ!!」
「…………くぅっ!」
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「…………あらら、これは……」
怯える群衆、死屍累々の戦場、禍々しい雰囲気の剣士と戦うサシコちゃんとコジノちゃん、そしてマガタマを使役し洪水のような術を発動させている金鹿……
差し向けられた妖たちを倒し、金鹿の開けた穴から船の甲板に這い出ると、そこには混沌極まる光景が広がっていた。
「うーん、かなり出遅れた感があるわね」
村雨くんに先んじて船に潜入後、コジノちゃんから事情を聞き金鹿と接触したまではよかったけど、妖に手こずり随分と時間を浪費してしまい出てくる機を逸してしまった感が否めない。
だけど幸か不幸か、今この状況にあっては私の存在は誰も注目していない。なんとかこの隙を利用して、金鹿からマガタマをかすめ盗りたいが……さて、どうしたもんか?
村雨くんかアカネちゃんがいれば共闘できるのだけど、彼らの姿は見当たらない。うーむ、さっきから識行の作用を強めるがらけーを触媒に気配を探索しているにも関わらず、彼らを感知できない…………まさか、既に戦いに敗れて殺されてしまったというの?あの村雨くんとアカネちゃんがあっさり負けるとも思えないけど……
「…………そこの人」
と、思案を巡らせていると思わぬ方向から声がする。
驚いて振り向くとそこにはうつ伏せに倒れた妙齢の女性が、かろうじて顔だけを上げてこちらを見ていた。
「その手持ち鏡板と……風体から察するに……君は吉備牧薪だな?」
私の名前を呼んだこの女性は、確か先程船の外で村雨くんと共に戦っていた剣士……おそらく村雨くんの手紙に書いてあった明辻泉綱さんだろう。
「ガンダブロウを探していたのだろうがヤツは今ここにはいない……詳しい状況は説明している暇がないが、とにかくここは私達だけで何とかせねばならん……」
息も絶え絶えながら明辻さんは言葉を絞り出す。
「今は何も言わずに協力して欲しい……私に考えがあるんだ……」
「……協力たって……あなた、その身体で戦うつもりなんですか?」
「ああ、数十秒だけなら何とか動ける……だが、私一人では無理だ。金鹿に剣を届かせるには一手……どうしても一手足りない」
「……その一手を私が打つ訳ですか」
「そのとおり」
ふーむ。随分と唐突な提案だね。
村雨くんの先輩でサムライ時代の恩人という事だけど、突拍子もない事をいきなり頼んでくる感じ。どことなく村雨くんと似ているね。
……正直、はじめて会った人を無条件に信じられる程私はお人好しではないのだけど、他に何か案があるわけでもないし、ここはこの人に賭けてみるしかないか。
「……いいでしょう。で、私は何をすれば?」




