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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第128話 刹那の逡巡!

前回のあらすじ:ガンダブロウVS金鹿の戦いはガンダブロウが優勢のまま戦況は推移するが……


※一人称視点 明辻泉綱




「エドン無外流『或命流(アルメイル)』!!"河の太刀・嵌入曲(かんにゅうきょく)"!!」



 空飛ぶ船での戦い。

 私は愛刀・霪藏旡(いんぐらむ)の刀身を水行の力で延ばし、相対する三池乱十郎(ミイケランジュウロウ)に攻撃を仕掛けた。



「ふッ…………トッタリア新当流『髏涅讃崇(ルネサンス)』!! "菌界衆轢(きんかいしゅれき)"!!」



 三池は地上での戦いでも見せた、自身の半妖体と同じ姿のキノコ兵士を大量に出現させる技で対抗する!瞬く間に私の周囲をキノコ兵士たちが囲んだ!



「……ッ!!」



 声もなくキノコ兵士たちは一斉に攻撃を仕掛けてくる!


 数に物を言わせた物量攻撃……しかもこの兵士たちは何度斬っても立ち上がってくるという不死に近い性質も持っている!



 先程の地上での戦闘ではガンダブロウと2人、こいつらには随分と手を焼いたが……



「明辻くん!キミは彼らの相手でもしていなサイ!あいにく僕はキミの相手だけをしてる暇はナイのでネ!」



 三池本体(と思われる個体)は大量のキノコ兵士で私を攻撃させたまま、くるりと背を向けて戦線を離脱する。


 む? ガンダブロウと戦う金鹿に加勢するつもりか?


 と、キノコ兵士たちの攻撃を捌きつつも三池の動きに注視したが、彼の向かう先はガンダブロウの方ではなかった。



「ホーッ!これまた見事な結界だネ!」



 ヤツが向かったのは観客席。

 その前で戦闘の巻き添え防止の結界を展開させる少女の前であった。私は迫りくるキノコ兵士たちを順々に斬り伏せながら三池の様子を伺う。



「……アナタも金鹿の仲間?」



 少女は歩み寄る三池をにらみつけて言った。



「然り!僕は三池乱十郎!御珠守殿とは旧い友人でネ!及ばずながら彼の演出するこの舞台に客演させてもらっているのサッ!」



 異様なまでの上機嫌。

 三池の口ぶりはジャポネシアを破壊し尽くし新世界を創造するという金鹿の理想に賛同したというよりも、単に世界を揺るがす様な規模の戦いに参加し剣を振るう事自体に意味を見出してるかのようでもあった。



「君は異界人のマシタ・アカネ君だろう?」



「……そうだとしたら?」



「ノッコッコッコ!いやはや惜しい……実に惜しいネ!」



「惜しい?何がですか?」



「配役がサ!これ程高度な術を操る異界人のキミが、こんなゴミどもの護衛役じゃあ役不足もいいところだろう!」



 三池は剣を構えて、結界の主である少女に相対した。



「キミのような優秀な演者はもっと絵になるような役……例えば狂乱の剣士と死闘を演じる役なんかが相応しい!そうは思わないか?エエッ?」



 観客を守る彼女を無理矢理戦いに引きずり込む気か……戦闘狂の変態め!自分が楽しむ事しか眼中にないのか!



「くっ!」



 三池は結界を張るのに集中している少女に対して無慈悲に切り込む!


 おそらく結界を解除すれば彼女はヤツの攻撃に難なく対応出来るだろうが、そうすれば無防備になった観客たちを戦闘に巻き込む事になってしまう……観客の多くは子供たち。誇り高きサムライとして、また二人の子を持つ母親としてこれを見過ごす事は出来んな!



「"雨の太刀・空魚神立(そらうおかんだち)"!!」



 私は108片に分裂・先鋭化させた刀身の矢を三池に向けて放つ。



「明辻泉綱!?もう来たのかッ!?」



「言ったはずだぞ!お前の相手は私だと!」



 三池は私の雨の太刀の矢を剣で防ぎながら後退。

 それに伴い三池と少女との間合いは大きく空き、その隙間に割って入るように私は陣取った。



「ええっと、明辻さん……ですよね?」



「ああ。はじめましてだね。マシタ・アカネ」



 私は彼女が私の名前を知っていた事には驚かなかった。ガンダブロウが事前に教えていたのだろう。

 そして、少女の方も私が彼女の名前を知っていた事にも驚いた様子はなかった。



「助けて頂きありがとうございます」



「礼には及ばん。君はこのままガンダブロウが金鹿との一騎打ちに集中できるように支援していてくれ。ヤツの相手は……」



 視線を三池に向ける。間合いを空けて体勢を立て直した三池は再びこちらに攻撃を仕掛ける素振りを見せていた。



「私一人で充分だ!」



 私は切り離して分裂させていた刀身を元に戻すと、今度はまたムチのようにしなり伸縮する形状に変化させ三池の斬撃を打ち払った。



「ノコココ!明辻くん!僕の相手がキミ一人では役者不足と言うものだヨ!」



 三池はそう言って手を振り上げると、その合図でまたもやキノコ兵士たちがワラワラとこちらに向かってきた。



「それはどうかな? エドン無外流『或命流』"河の太刀・嵌入曲(かんにゅうきょく)"!」



 私は剣を延ばし、正面ではなく切っ先を迂回させてキノコ兵士たちのうなじ辺りを深く斬り裂いた!


 すると胴体にはいくら攻撃しても立ち上がって来たキノコ兵士たちがバタバタと倒れていき、それ以降起き上がる事はなかった。



「ほホウ!さっき村雨くんを攻撃した時も迷わずキノコ兵の首を切り飛ばしていたが……ノッコッコッコ!どうやら僕の技の弱点に気づいたようだネ!」



 そう、キノコ兵士たちの弱点は首筋に生えている小さなキノコだ!


 私とガンダブロウは当初それが分からず物量攻撃に苦戦した。三池本人が戦闘に参加し、巧みに弱点を気取られぬような立ち回りをしていた事も相まって中々技の性質を看破できないでいたのだ。

 しかし、三池が船に撤退したあとのキノコ兵士たちは命令による自動操作で動いており、その単調な動きから戦闘中に弱点が首筋にあると暴き出す事に成功した。


 ヤツの技の性質は、識行の力で生成したキノコを誰かに植え付ける事で、その対象が死ぬか意識を失った時に自身の分身であるキノコ兵士として操れるというものだと推測できる。


 操る対象者は全て同じ姿に変身し、首筋のキノコもその擬態で隠されてしまうので視覚情報だけでその弱点を見抜く事は容易ではない。しかし、歴戦の経験を持つ私とガンダブロウは、わずかな呪力の揺らぎや首を必要以上に庇う不自然な動きに気づく事が出来た。そして、その弱点さえ分かってしまえば、キノコ兵士単体での攻撃はさほど恐ろしくはない。

 


「ノココココ!いや見事!実に見事な洞察力!戦闘中に"菌界衆轢(きんかいしゅれき)"の弱点を見破ったのはキミたちが初めてだヨ!」



 技を見破られてなおこの余裕……三池にはまだ何か奥の手があるのだろう。しかし、識行は破壊力や身体能力の強化という面では全属性でも最弱の性能。つまり単純な剣での打ち合いならば私に分があるハズだ。



「でもネェ……」



 キノコ兵士の数もかなり減らした。


 ヤツの奥の手が何かは分からないが多少の危険は承知の上で一気に距離を詰め、短期戦に望むのが得策だろう。識行は発動に時間を要する事が多いし、何よりここは少しでも早くヤツを倒してガンダブロウに加勢したい局面でもある。



「三池乱十郎!覚悟!」



 私は一気に三池の間合いへと飛び込んだ。


 しかし、これは私らしくもない早計……気がせった上での誤った選択であったとすぐに思い知らされた。



「おかあちゃん……」



 突如、目の前に年端もいかぬ少年が姿を表す。



「な……!?」



「ぼく、死にたくないよぉ」



 まさか──ヤツの識行で操られた子供!?

 

 刹那、故郷で待つ息子と娘の顔が脳裏に浮かび、間合いを詰める足が止まった。



「……くっ!」



 ……こんなのは初歩的な幻覚術で、惑わされるなど言語道断だ。かつての私ならばこのような逡巡はなかっただろう……しかし、今の私は頭で理解する前に、本能で身体を止めてしまった。その時間わずかに1秒。


 刹那の時間であるが、その時間は超一線の剣士との戦闘中においてはまさに致命的なスキであった。



「やっぱり君は役者不足だヨ!」



 三池は逆に間合いを詰めてきた。


 予想外の動き……気づいた時には三池は既に剣を振り下ろす動作に入っていた。


 ………ッ! 

 これは……かわせないッ!



「ぐはっ!!」



 三池の剣が肩口から袈裟がけに入る!

 かつて幾度か味わった剣を身体に受ける感触……冷たく熱い痛みと共に鮮血が勢いよく吹き出すと、ぶざまに船の甲板に倒れ込む。



「ノッコッコッコ!こんな単純な幻術()に引っかかるとはネェ!」


 

 私はすぐさま足に力を入れて体勢を整えようとするが……


 …………う、動けない……!


 奴の剣の刀身には身体の自由を奪う即効性の麻痺毒が塗り込まれていたようだ……意識はかろうじてあるが、指一本動かす事もできない。



「……く!」



 剣客同士の戦いにおいてはこれ以上ない決定的な一撃。

 こうなってしまえば、あとは赤子の手をひねるより簡単に私の命を奪うことができる……


 が、三池は倒れた私に近づくだけで何故かトドメを刺そうとはしなかった。



「君は剣士としては一流だが、演者としては二流以下だ。策謀に加担しながらも、自身は非情に成り切れない。そんな半端な覚悟ではこの極限の舞台において立ち続ける事は出来ないヨ」



 敗者に対する愚弄と嘲笑……だが、言い返す事はできない。


 三池の指摘は的を射ている。私は半端者だ。戦いの場において迷いを捨てきれず、結果、大義を果たすことも出来ず惨めに果てる……所詮はその程度の女と言うことだ。



「さて、君にはこのままご退場頂いてもいいのだが……せっかくの舞台だ」



 そう言うと三池はうつ伏せに倒れた私の首筋に剣で小さな傷をつけた。


 う……!?

 こ……これは、まさか……!?



「僕が脚本を書き加えて君に相応しい役を与えてあげようじゃあナイか!

ノッコッコッコ!」



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