第127話 対決・御庭番十六忍衆④! VS金鹿馬北斎(承)
前回のあらすじ:御庭番十六忍衆・金鹿馬北斎VSガンダブロウ!最強の剣士と最強の陰陽術師の称号を持つ者同士の極限バトルが今はじまる!
「はあッ!」
俺は身の丈の数倍ほどの高さに浮遊する金鹿に対し大跳躍し、草薙剣による斬撃を加える。
金鹿はとっさに杖で剣を受け止めるが、剣の圧に押されて高度を落とす。
「ほッ! 凄まじい斬撃じゃの! しかし、吾輩は君の技を理解したぞぇ!」
「何ぃ〜?」
「ヒェッヒェッヒェ!君の技の本質はズバリ後の先!相手の六行を逆利用する事に特化した反攻・反作用を基本原理とする剣だ……しかも相手の技の威力が強ければ強いほど己の技も威力を増す性質と見たが、違うかな?」
む……今の短い攻防で俺の技の本質を理解するとは尋常ならざる分析力。その正確性と推理の速さは驚嘆に値するが……
しかし、そんな分析はするまでもなく、金鹿は直近まで御庭番に所属いたのだから、黒子人形から報告を受けて俺の技の特性は知っていて当然と思っていた。
そういえばアカネ殿は以前熊野古道伊勢矢に捕らえられた際、黒子人形から正確な情報共有がなされていなかったが故に警戒されずにスキを突けたと言っていたな。御庭番の中でも完全に情報の伝達ができている訳ではないという事か……
「……加えて究極と言って差し支えのないその剣腕と体捌きを組み合わせればまさに無敵の強さ!並み居る剣豪たちを討ち倒して太刀守の名を襲名したのも納得じゃ…………が!」
金鹿は得意げに己の分析を披露しながらも数歩後方に下がる。
んん?間合いを空けて体勢を立て直すつもりか?
「裏を返せば相手が強力な六行の技を使わなければ返し技の威力も出せないという事!つまるところ君の弱点はコレじゃろう!」
そう言うと金鹿は懐より何やら札のようなものを数枚取り出し、無造作に宙に放り出した。
「 解 ★ 封 ! 」
札より突如として無数の魑魅魍魎が出現!
各個体は猫か犬ほどの大きさでしわくちゃの球体状の身体から手足が直接生えているという滑稽な姿であり、短い手足をシャカシャカ振って足元を走り回る!
「これは……式神か!?」
魑魅魍魎たちは倒されたキノコ兵士たちが持っていた剣や槍を拾い上げると、そのままこちらに向けて投げ放った!
「ちっ!」
俺はそれらの投擲を剣ではじいて防ぐ。
この程度の遠距離攻撃ならば躱すこと等造作もない……が、投げられた武器自体には呪力は込められていないので、六行を吸収する事はできない。
……なるほど、六行を使わない物理攻撃の応酬か。
紅鶴御殿で熊野古道伊勢矢の部下たちが見せた戦法と同じだが、遠間から攻撃を放つ分反撃の猶予も少ない。しかし、この程度の物量ならば戦場においては珍しくも無いし、当然ながら対応できるだけの鍛錬はしている。これが『逆時雨』への対応策というなら余りにもお粗末だが……
「金鹿!こんな事をしても時間稼ぎにしかならんぞ!」
と、再び金鹿に対して攻勢に出ようとした時……
「そうじゃ、今のは単なる時間稼ぎ!」
召喚された魑魅魍魎たちの一部が、俺とは逆の方向にヨタヨタと船の甲板を走っていくのが見えた。二手に別れて左舷と右舷の両端にまで辿り着くと、地面からせり出してきたからくり機巧を器用に操作し始める。
むむ……あれは……!
「連弩砲!!」
なんと能飽の方舟には戦艦のような固定式の連弩砲が実装されていた!
しかも通常は船の外側にしか回らない連弩砲の射角が、船上にいる俺の方に対して向けられる!
「ヒェッヒェッヒェ!撃てィ!」
金鹿の合図と同時に左右から壮絶な弩弓の砲火が浴びせられた!
ズガガガガッ!という激しい速射音と共に、一発一発が通常の弓矢の貫通力の倍はあろうかという剛の矢が放たれる!
確かにこれは身のこなしと受け太刀だけでは防ぎ切れんな……だが!
「エドン無外流『逆時雨』……」
俺は水行の力を操り、横一文字に剣を振るった!
「" 借 箭 返 し "!!」
交差するように展開させた水流の渦が、放たれた無数の矢の軌道を変化させる!左舷側から放たれた矢は右舷側に、右舷側から放たれた矢は左舷側にそれぞれ弾き返す!
左右の連弩砲からの同士討ちによって射手の魑魅魍魎たちを一掃!
「ギュピィィィ!!」
「ホホォ〜ッ!やりおるわい!」
俺の『逆時雨』で利用できるのは何も相手の技だけじゃない。
必要とあれば味方の六行でも吸収して使う事も出来るし、六行使い同士が入り乱れる戦場ならば空気中に自然と滞留する呪力の残滓を集めて技を放つ事も可能だ。今回は船の上に色濃く残る水行の力を利用させてもらった。
これは水行使いの明辻先輩が今まさに近くで戦闘状態にあるという事もあるだろうが、それ以前にも強い水行使いがこの船上で技を使った形跡を感じられた。他にも火行の残滓が濃いがこれは金鹿の技の他、アカネ殿が小決闘で使用した六行の分であろう。であれば水行も恐らくはアカネ殿の対戦相手の誰かが発したものと推察できるが、何にせよそいつのおかげで技を発動出来たのだから、感謝せねばならんな。
「流石は太刀守! 吾輩の予想以上じゃ! 美美っきたぞぇ! 美美っとォ!」
ちっ、まだ随分と余裕そうだな……
むろん、金鹿は仮にも御珠守を冠する男だ。またまだ厄介な戦闘手段を持っていてる事に疑いはないが、俺もまた絶好調。いつにも増して技はキレている。
たとえヤツがどれだけ強力な奥の手を隠していても今の俺ならば全て弾き返せる。その自信があった。
「さあ、手札がまだ残っているのなら全部出してみろ!どんな技だろうと全て弾き返し……」
そう言って再び金鹿に突っかけようとした時──
視界に入った光景に思わず足が止まった。




