第126話 対決・御庭番十六忍衆④! VS金鹿馬北斎(起)
前回のあらすじ:空飛ぶ能飽の方舟に、満を持してあの男が現れる!
一人称視点 アカネ→ガンダブロウ
「この声は……!」
わたしの声に呼応するかのように空飛ぶ船の側面から勢いよく2つの影が飛び出して来る。1人はムチのようにしなる剣を手にした妙齢の美女。そして、もう1人は……
「ガンダブロウさん!!!!」
ピンチの時に見計らったかのように颯爽と搭乗……いや登場したその立ち姿。樹齢何千年という古木を連想させるその佇まいはどんな状況であっても絶対に倒されないと信じられる圧倒的な力強さがあった。
「ちっ!共和国の刺客か…………三池殿!」
やや反応が遅れて更井さんが、敵襲に対して警戒を促す。
三池というのはどうやら先程観客席に出現したキノコ兵士たちを操っている者の名前のようだった。
「ハイハイ。言われなくてもやりますヨ……ット!!」
ガンダブロウさんに数体のキノコ兵士たちを差し向けるが、ガンダブロウさんはすれ違いざまに最小限の動きで放った斬撃で一瞬にしてキノコ兵士の首をはねてみせた!
そして、ガンダブロウさんはその勢いのままわたしの居る場所まで歩み寄る。
「遅れてすまない。アカネ殿」
そうガンダブロウさんは謝罪するけど、こんな最高のタイミングもないというくらい完璧な登場だ!ガンダブロウさん、格好良すぎですよ!
「ほー、君が太刀守かね」
相変わらず宙に浮いている金鹿はガンダブロウさんを見下ろして睨めける。馬と鹿の双頭のおぞましい視線にもガンダブロウさんは臆した様子はない。
「そうだ。お初にお目にかかるな、金鹿馬北斎…………いや玲於灘"御珠守"瓶中!」
玲於灘"御珠守"瓶中……ガンダブロウさんは金鹿に対してそう呼んだ。
御珠守…………名前の響きから察するにガンダブロウさんの太刀守と同じで何かしらの称号なのだろう。
先程の山一つ吹き飛ばす異界人以上に強力な陰陽術……さしずめ最強の陰陽術師に与えられる称号ってとこかしらね。
「話は聞かせてもらったよ。残念だがお前の野望もここまでだ」
「ヒェッヒェッヒェ! 栄光の太刀守も【統制者】の犬に成り下がったようじゃのォ!」
トウセイシャ?
またよく分からない単語……どうやら何か今回のこの騒動の裏にはわたしの知らない秘密があるようだね。
ガンダブロウさんはその辺りの事情を理解している様だけど、今はそれについてゆっくり聞いてる時間はない。
「ガンダブロウさん」
わたしはガンダブロウさんに視線で合図を送る。
「アカネ殿は後ろの守りを頼む。こいつは俺が……」
そう言いながら、ガンダブロウさんは草薙剣を構えまっすぐ金鹿に相対した。
「倒す!!」
「ほほっ!最強の剣士と最強の術師……果たしてどちらが強いか?これは実に面白い実験じゃの〜!」
金鹿も黒い杖をガンダブロウさんに向けると、同時にわたしも観客席の方に走った。
称号を持つ至高の強者同士の戦い。
恐らくは戦闘の影響は周囲にも及ぶ……ガンダブロウさんは後を頼むと言った。それは背中を守るという事ではなく、観客たちに被害が及ばぬように守れという事だ。
「ヒェッヒェッヒェ!! 火行【天道球】!!」
金鹿の杖の先から複数の光球が出現し、ガンダブロウさんに放たれる!ガンダブロウさんはそれらの攻撃を難なく回避するが……
「うわああ!!」
はずれた攻撃の一部が観客席に向かう!
……させないよ!
「火行【濃灯火壁】!!」
わたしは流れ弾から観客たちを守るべく、結界を展開する。
飛んできた光球は炎の壁にぶつかり、相殺されて消滅した。
ガンダブロウさんは後顧の憂いがなければきっと負けない。ならばわたしの役目は彼を金鹿との一対一に集中できる環境を作ること。それが今はわたしのやるべき最善の行動だ。
「ガンダブロウさーん!こっちは大丈夫なんで、構わずやっちゃって下さーい!」
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「フッ……!」
さすがアカネ殿……どうやら俺の意図を察してくれた様だな。
金鹿馬北斎との決戦に際して一番気がかりだったのは周囲の被害だ。この逃げ場のない船内で太刀守と御珠守がお互いに全力でぶつかり合えば、攻撃の余波が広範囲に及ぶ事は必至だが、六行を使えぬ者にはその余波を防ぐ事は出来ない。
聞く限りバリバリの選民主義者である金鹿は、優秀な人材と認めた大会参加者たちはまだしも観客たちへの被害などは考慮するはずもないだろうから、そこに配慮して戦わざるを得ない俺は必然的に攻撃の選択肢が減って不利となる所であった。
「ほれ、まだ行くぞぃ!! 火行【天道球】!!」
「スゥー……エドン無外流『逆時雨』……!」
しかし、アカネ殿がその憂いを払ってくれた。ならば、俺も太刀守の名に恥じぬ戦いを存分に披露する事ができる。
「 " 火 の 玉 返 し " !!」
俺は迫りくる火の玉を草薙剣ではじき返す!
「ほっほォ!吾輩の技を打ち返してきおったか!」
火球は金鹿の結界に全て阻まれる。
結界には傷一つつかない……か。
流石に強力な結界を使っているようだが、それに加えて放たれた術にさほど威力が無かったという事もある様だ。山一つ吹き飛ばす技の威力は先程隠れて見ていただけに、もう少し強力な術を使うと思っていたが……
ふむ。小手調べに呪力を温存したともとれるが、これは恐らく船をなるべく傷つけない為だろうな。人の命には無頓着でもこの船は大事か。大方、やつらの新世界計画とやらに関連しているのだろうが、あれほどの大技を使えないとなればこちらとしても好都合。
油断は禁物だが、さらに接近して直接剣を当てられる間合いならば十二分に勝機は……
「む!?」
と、思考を巡らせていたところ背後から攻撃の気配!
振り返るとすぐ後に三池乱十郎のキノコ兵士が迫ってきていた!
「ノココココ!僕がいる事を忘れちゃいないかネ?」
三池の半不死キノコ分身たちを操る術……ふん、相変わらず鬱陶しい技だ。御珠守と戦国七剣を両者同時に相手するのはいかに俺でも難しいが……
「……お前こそ私の事を忘れていないか?」
「何ッ!?」
筆ほどの大きさのの鋼の槍が横殴りの暴風雨のように迫り、キノコ兵士たちのうなじ付近を正確に射抜いて首を飛ばした!
「ガンダブロウ!三池は私に任せろ!」
そうだ。背後には明辻先輩もいる。
信頼する仲間たちの支援があればこそ俺は全力で戦える。
戦いはタイマンであっても1人じゃない。
いくつもの名もなき人たちの様々な思惑や悲喜こもごもの感情が入り乱れた果てにたまたま俺が剣を握っているのだ。金鹿、お前だってそのはずだろ?
俺は明辻先輩と再会し、リャマナスでの戦いを思い起こした事で改めてその事を認識するに至った。ここに至るまでに関わった数え切れぬ程の意思はそれが善であれ悪であれ、六行の能力だけに頼って判別されるべきではない。
そういった思いを一顧打にせぬ者どもに……俺は負ける訳にはいかんのだ。
「今度はこっちから行くぞ!」




