第123話 船出の汽笛!
前回のあらすじ:マキVS百合沢喪奈、決着!そして、アカネVS津久田玄場のコケットーも佳境を迎え……
一人称視点 アカネ→コジノ→ガンダブロウ
「こ……これは……!?」
水蒸気が晴れてステージの上に見えたのは赤黒の金剛石、真向海猪どちらも倒れ地に付す様であった。両小懸騎士とも目に宿る呪力の光も消えていて、動き出す気配はなかった。
むう……結果はまさかのダブルK.O!
勝利の女神はどちらにも微笑まなかったわけね!
「両者……戦闘不能だって……?」
「ど、どうなるんだよこの場合……」
観客たちがざわつく。
明確な形での決着を期待していた彼らはこのような締まらない結末を望んではいないだろう。
「ふん。とんだ茶番だ」
来賓席に座る偉い人たちも辟易した表情……
うーん、この場合どうなるのかしら?
再試合?判定決着?
事前に渡された大会規則は読み込んだけど、確か試合のルールには引き分けた時の記述はなかった気がする……
「えー、大会規則では……両者戦闘不能の場合の規定がありません……さ、早急に有識者で協議して対応を検討……」
「いいじゃないか!両者優勝で!」
その時、観客席の最前列あたりから声が上がった。
「こ、甲三くん!?」
声の主はオヤマ村の甲三くんだ。
彼はよく通る大きな声で両者優勝を主張した。
「2人の小決闘は素晴らしかった!2人とも優勝者の資格がある!」
その声に、乙ニくんと丙一くんも反応する。
「そうだ!」
「アカネさんもそっちのオッサンもよく頑張ったよ!」
彼らに呼応し、会場のあちこちから賛同の声が上がる。
「……ああ、その通りだ!」
「両者優勝!それがいい!」
「し……しかしですね……」
壇上の更井さんは会場の声に気圧されながらも、独断で勝敗を決してもいいのか逡巡しているのだろう。どうジャッジしていいものか悩んでいる様子だ。しかし、その判断を後押しするように控室から敗れた選手たちが姿を現し、会場のマジョリティに同調した。
「俺達も異存はないぜ!」
そう声を上げたのは1回戦の対戦相手、駝場文鳩だ。
「いい小決闘だったよ。悔しいが、君たちは凄いよ」
「ふん。次こそはワシが勝ってみせる」
果東毎里男……甲斐田震源……
「神は言っている。2人を祝福せよと」
平南土塔令まで……
…………ぶっちゃけ、わたしは今からもう一度呪力を送れば赤黒の金剛石を動かして勝利を主張する事もできるんだけど……
でも、それを今からやるのは無粋ね。
「マツシタ・アカネ」
ふと、横を見ると津久田玄場が歩み寄ってきていた。
「……この決着はいずれ必ずつけよう。その時……改めて僕の気持ちを伝えるよ」
津久田は手を差し出し握手を求める。
……やれやれ。
本当にキモいやつだけど、こうまで爽やかに握手を求められたら突っ込む気も失せるね。
わたしと津久田が握手を交わすと観客席から地鳴りのような歓声が沸き、次いでわたしと津久田の名を呼ぶコール……
「ア・カ・ネ! ア・カ・ネ!」
「ツ・ク・ダ! ツ・ク・ダ!」
ははは、悪い気分じゃないね。
ま、本当はわたしもどっちも勝者みたいな白黒つかない決着は好きじゃないんだけど……たまには悪くないか。
…………ん?
でも待てよ……何か大切な事を忘れているような気がするけど……
と、フワフワした感慨に耽っていた時──
突如としてとてつもない振動が会場を襲った!
「なっ……!? 何!?」
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「な、何たい……この振動は……!?」
能飽の方舟の甲板……
物陰でサシコちゃんを休ませていると轟音と振動が船体を揺らした。
「金鹿が何かしようとしとるとか……?」
「……う……ん……」
「! サシコちゃん!」
振動で揺り起こされたのかサシコちゃんが意識を取り戻す。
「コジノ……さん……こ、ここは?」
「能飽の方舟の甲板たい」
「…………この揺れ……は……」
ふと、サシコちゃんの瞳を見る。
金色のはずの【龍の玉視】が虹色の光を放っていた。
まるで振動と共鳴するかのように……
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「こ……これは……!?」
能飽の方舟の停泊地の河川敷。
三池乱十郎と不死身のキノコ兵士たちとの戦いの最中……突如として能飽の方舟から異常なまでの呪力が発せられ、大気を震わせる。
「中で一体何が……?」
「オオ……御珠守殿……今、始めるつもりなのカイ!」
今まで戦っていたキノコ兵士たちの中から一人が跳躍し、船の甲板に飛び移った。
「中々楽しい余興だったが……君たちの相手はこれまでだ!」
む……何だか分からんが、アイツが本体なのか!?
ならば逃さん!
「ガンダブロウ!追うぞ!」
「はい!」
しかし、残りの十数体のキノコ兵士が三池本体と俺たちの前に立ち塞がる。
「ちっ!」
「残念だが君たちは乗船の資格がない……そこでそいつ等と一緒に見ているがいいヨ!新世界【富嶽】を目指す我々の航海!その偉大なる船出の刻をネ!」
そう言うと三池の本体(と思われる)は船の中へと消えていった。




