第118話 富嶽の頂きへ!
前回のあらすじ:【富嶽杯】決勝戦のカードはアカネVS謎のオッサン津久田玄場!
一人称視点 更井→アカネ
「ちょっと君!確か更井くんと言ったね!」
【富嶽杯】決勝戦の直前、貴賓席の老人たちに呼び出しをくらう。
「これは一体どういう事なのか説明してもらえるかな?」
この大会や小懸騎士の開発に多大な投資をしている資産家や豪商たち──正直彼らの相手をするのは気が進まないが板岱屋の人間としてそういう訳にもいかない。
「はい〜?何の事でしょう?」
彼らの言わんとする事はすぐに分かったが、あえて何を言っているのか分からぬそぶりを見せた。
「とぼけるな!決勝戦の顔合わせの事だよ!」
老人たちは憤激する。はあ……やれやれ。計画の当事者たる金鹿先生には文句が言いづらいからといってこっちに当たるのはやめてほしいのだが。
「予定では才能のある少年たちが勝ち上がる事になっていたのに何だこの組み合わせは?」
「マツシタは女だし、津久田に至っては少年どころか中年じゃないか!」
ちっ、僕だってこんな事になるとは予想出来なかったさ。
確かにマツシタ・アカネは小決闘はほぼ素人だが、もともと六行の覚醒者。決勝に残る可能性も考えないでもなかったが、津久田のやつがまさかここまで食い下がるとはな……
「だから宣伝のためとはいえ、津久田商店の小倅なんぞを大会に出すのは反対じゃったんじゃ!」
津久田玄場は板岱屋のかつての商売敵で、老舗の玩具屋・津久田商店の元御曹司……彼をこの大会に起用したのは、板岱屋との競争に敗北して潰れた商売敵が我らの軍門に下った様を衆目に見せる事で、小懸騎士がいかに優れた玩具かを宣伝しようと目論んだからだ。しかし、彼がこれほどまでに小懸騎士を研究し、腕を磨いてきているなんて思いもしなかった。これじゃあ、こっちがいい面の皮だ。
「いやー、これは私どもとしても想定外というか、そのぉ……」
【富嶽杯】の目的は子供たちが小決闘で活躍する様子を全国に風聞し、さらに爆発的な小懸騎士の流行を生みだす事だ。その上で小決闘を通して数多の少年たちを六行に覚醒させ、金鹿先生の創る新世界に連れていくという計画だったが……正直大会の経過は当初の目論見からだいぶ外れてしまったというのは否めない。しかし、老人たちが怒るのは彼らが玩具の販促を願っているからでも少年たちの活躍を純粋に楽しみにしていからでもない。
「新世界計画が成就した暁には少年たちの身体を儂らが新たな器として使うのだ!」
「そうだ!投資した額に見合う、なるべく若くて才気ある少年たちを選別してもらわねば困るのだぞ!」
老人たちは主張をまくしたてる。
…………そう。彼らが新世界計画に出資するのは、自分自身の若返りが目的とその後の酒池肉林を約束されているからだ。金鹿先生の術で彼らの老いた身体を捨て、若い少年の身体に魂を移し替える……と、約束されている。そうでもなければ彼らのような私欲の塊が御庭番十六忍衆やキリサキ・カイトと敵対する危険を侵してまで我らの計画に協力などしたりはしない。
「ご心配おかけして申し訳ありません。しかし、準決勝以下で敗退した子供たちでも相当な六行の才能がありますから……皆さんの器は充分に確保されております。なので、どうかご安心を……」
なんとかその場を取り繕おうと説明するが、老人たちは納得しない。
「フン。ただでさえ儂らが新世界で孕ませる雌の数が足らんというのに、これ以上計画が遅れれば板岱屋だけに任せてはおられなくなるぞ」
「我らが一体いくら投資してると思っとるのだ!」
「外でも何やら騒動があったようだし、まさか共和国側に感づかれたのではあるまいな?」
「金鹿先生はなんと言ってるんだ?エエッ?」
…………ふんっ!強欲じじいどもめ!
計画には後乗りしただけのくせに文句ばかりは達者に言いやがる!自分で計画を進める実力も度量もないのだから、黙って金だけ出しときゃいいものを……
「まァまァ。落ち着いて下さい。先生からは後で直接話してもらいますから……っと、そろそろ時間だ!」
僕は強引に老人たちの話を打ち切り、決勝戦の審判をするために闘場に向かう事を告げた。
「ふん、若造めが!」
「いいか!伝えたい事は伝えたからの!」
悪態をつく老人たちに愛想笑いしながら頭を下げ、小決闘の舞台に上がる。
…………まあ、せいぜい吠えられる内に吠えているがいいさ!
我らが必要なのはお前たちの資金だけ……新世界計画はまさにあいつ等のような古く腐ったゴミどもを世界から取り除くために行うのだ。我々の真の理念を理解しない者どもとの約束が、果たして守られるかどうか……少し考える脳があれば分かりそうなものなのだがなァ。
「それでは、これより【富嶽杯】決勝戦を始めます!マツシタ・アカネ、津久田玄場、両選手は入場して下さい!」
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「さあ、ついに!ついに、ついに!最強の小懸主を決める熱く長い戦いもあと一試合!決勝戦を残すのみとなりましたァ!」
「「「 ウオオオオオオォォ…………!!!! 」」」
今までにも増して凄まじい歓声。
【富嶽杯】の決勝戦……思えば今まで部活の試合や習い事のコンクールでもこんな大舞台に立った経験はない。問答無用で魂を揺さぶり、肌が粟立つ。
「この最高の舞台に立つ栄誉を勝ち取ったのは意外な二人!まずは東の方角!数々の番狂わせを演じ、優勝候補たちをなぎ倒してきたのは地元トッチキム代表、女流小懸主マツシタ・アカネ選手だァ!」
「うおーーー!!アカネさーーん!!」
「ここまで来たら絶対優勝して下さいよー!!」
観客席の最前列にいる甲三くん達の声援もより一層の熱がこもる。
ここまで来たら優勝したいという思いはわたしも同じ。マガタマについてはこの目で真偽を確かめたい……だけど、流石に今は外の状況が気になるのと、相手のせいでどうもテンションが上がらないというか……
「えー、対するは西の方角……カムナーガ代表、津久田玄場選手。御年44歳です」
「ブゥーーーー!!」
「引っ込めぇ、おっさん!!」
う……凄いブーイング。
紹介も投げやりだし、運営にも観客にも嫌われてるみたいねアイツ。
ま、わたしも嫌いだから同情とかはないけど。
「ようやく……ようやく、この場に立てましたよお父さん。僕は今から奴らの玩具で大会に優勝し、アナタの無念を晴らします。そして……」
うっ……何かブツブツ独り言言ってるし……
「最高の伴侶と添い遂げてみせる!!」
「イヤー!キモいー!てか、誰も負けても結婚するなんて言ってないからね!」
今までのやたら挑発的な子供たちもアレだったけど、キモいおじさんに好意を持たれるのはもっと困る!
「両者位置について!」
更井さんのコールで闘場の開始線まで移動するが、その間も津久田玄場はこちらを見つめていた……ううー!怖い!
「「「 ア・カ・ネ! ア・カ・ネ! 」」」
会場はわたしの応援で一色……これはわたしに優勝して欲しいというより津久田玄場の優勝を阻止したいという意味も含まれているようだね。
会場の後押しはプレッシャーにもなるけど何か「勢い」のようなものも貰える気がする……プロのスポーツ選手とかはよく応援が力になったとかインタビューで言うけど、何となく彼らが言わんとする事を理解できたような気がする。
よし!この流れで一気にあのオジサンをぶっ飛ばして優勝しちゃいましょうか!
「泣いても笑ってもこれが最後の試合…………両者準備はいいですね?それでは、待ったなし! 小決闘発揮陽〜…………轟!!!!」




