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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第1章 最果ての見張り棟編 (オウマ~旅立ち)
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第10話 はるかな南へ!

前回のあらすじ:マシタ・アカネと共にオウマの見張り棟を去る事に決めたガンダブロウ。5年の歳月を費やした草刈りという苦役も今となっては途中で投げ出すのは少し名残惜しい……と感傷に浸るガンダブロウにアカネはある提案をする。


※最初の段落は通常通りガンダブロウ視点。後半が第三者視点になります。



「なら、最後までやってから行きましょうよ! その草刈り(しごと)!」



 アカネ殿は事も無げにそう言った。


 最後まで? 俺は5年かけてようやくほんの一部の伐採を終えたのだ。この雑草が生え放題の原野はまだ何百、何千万畳(およそ数km四方)と続いている。


 俺は彼女の言葉の意図を考えようとしたが、それより先にサシコが疑問を投げかけた。


「最後までって……無理に決まってるじゃない! 手つかずの原野は1年、2年では到底刈り尽くせない程広がっているのよ!」


「まあまあ、サシコちゃん、そう言わず……ちょっと見てなさいって。ガンダブロウさん、剣を出してもらえますか?」


 剣とは牛鬼と戦った時にサシコから受け取ったあの刀の事だ。おれはあの刀を気に入り、今も腰に差していた。


「出すって……こうか?」


 言われるがまま、刀を抜きアカネ殿の方に掲げた。すると、アカネ殿はニヤっと笑い、陰陽術の詠唱を始めた。



万神真祖(ばんしんしんそ)の塔に座す…… (あお)燭台(しょくだい)()り人よ…… ()の地()の者を()に染めて……白夜(びゃくや)を灯す篝火(かがりび)と為せ! …………火行(かぎょう)極光天照(キョクコウアマテラス)】!」   


「なっ!?」


 直後、刀身に極彩(ごくさい)の光が集まると、腕が羽のように軽くなり、それでいて巨人の腕のような力強さと途方もない活力が漲って来るのを感じた。

 

「あなたの剣に補助強化の陰陽術を使いました」


 まるで掌とこの大地そのものが繋がっているようである。刀の(つか)というより、神の手を握っているような……ともかく形容し難い偉大な力が刀に宿っている事を感じた。


「この術は物質の働きを一時的に数千倍に引き上げる陰陽術……らしいです」


 確かに陰陽術における火行(かぎょう)の特性は"燃焼活性(ねんしょうかっせい)"──炎を発する直接攻撃の他に、身体能力の活性化や武器の攻撃力倍増も火行(かぎょう)の専売特許である。しかし、これほど凄まじい活性効果は見たことが無い。


 これが地異徒(ちーと)の術の力か……やはり、異界人恐るべし!

 

「その状態で草むらに向かって剣を振ってみて下さい。この術は使用者の力が強ければ強いほど、倍増効果も高まるんです。ガンダブロウさんのパワーなら…………きっと、やれるはずです」


 俺は頷いて煌々(こうこう)と輝く刀身を後ろに引き「脇構え」の姿勢を取った。


 そして、一呼吸置き────横なぎに剣を振り抜く!


「うおおおっ!!!」


 打ち込んだ自分自身が驚愕する程に凄まじい衝撃波が切っ先から放たれる!


 剣閃はかまいたちとなって横一線に広がり、あたり一面の延び放題の野草が次々と刈り取られ宙に舞い上がっていく……


 この光景を空を飛ぶ鳥たちが見下ろしたのなら、緑の湖面に波立つ波紋のように見えただろう。


 俺が放った斬撃は何百、何千万畳の雑草を刈り上げ、朝もやすらも吹き飛ばし、数里先の彼方でつむじ風となって消えた。


 そして、目の前には野草雑草が生え放題だった原野は消え、どこまでも続く青芝の平野が現れていた。

 

「す、すごい……」


 サシコが感嘆の声を上げる。そして俺も同様に感嘆した。今まで二十余年の間、剣術をやっていて最高の一振りだった。


 ミトの戦いで竜騎士を倒した時よりも──エドン公王より太刀守の名を頂戴した時よりも、さらに大きな高揚感の中に俺はいた。この光景は恐らく人生で忘れる事は無いだろう。


 アカネ殿の方を見やる。


 彼女は満足げな笑みを浮かべ、桜吹雪ならぬ草吹雪の中に立つその姿はこの世ならざる美しさを感じさせた。


「これでガンダブロウさんがやり残した事は無いですよね?」


「ああ……」


 俺はアカネ殿にことさらに感謝の言葉は述べなかった。

 言葉にする必要を感じなかった。


 この恩義はこの旅で忠義を尽くすことで返す。命を懸けてでもこの人を守る。その決意に俺の胸中は満たされていた。


 過去のしがらみはすべて断ち切った──

 これで俺は一点の曇りない気持ちで前に踏み出すことが出来る。


 俺は既に光を失っていた刀を鞘に納めて、サシコに尋ねた。


「この刀に…………(めい)はあるのか」


 意外な質問だったのだろう。

 サシコは呆気に取られていたようで、数瞬の間を空けてから答えを述べた。


「……え? あ、いや、多分無銘(むめい)なんじゃないですかね? 何せ物置でほこりを被ってたやつですし……」


「ふむ、そうか。無銘(むめい)か。なかなか良い刀なんだがな……」


 思えば自分が今まで使った刀にはすべて(めい)があった。

 

 造られた時に刀匠によって名前を付けられたものもあれば、戦果を記念して名付けられたものもあった。名刀にはその(めい)にちなんだ言霊(ことだま)が宿るともいう。

 


(めい)が欲しいのでしたら太刀守(たちのかみ)殿がお好きなように呼ばれたら良いかと思いますが」


「なるほど。俺が名付け親か」


 これ程の仕事をやってのけた刀が無銘(むめい)では箔がつかないだろう。旅に出る前に相棒の名を決めておくのも一興か。


「そうだな…………では、オウマの草を刈りつくした刀なのだから、草刈剣(くさかりのけん)……というのはどうだろう?」 


「ええぇ……そのまんま過ぎませんか? せっかくならもう少しいい名前を付けたらいいのに……」


「そうか? では………………草薙剣(くさなぎのけん)……ならどうかな?」


「うーん、あんまり変わってない気もするけど……まあ、太刀守(たちのかみ)殿が気に入られたのなら、それが一番いいと思います」


「うむ、では決まりだ。この刀の(めい)草薙剣(くさなぎのけん)だ」




 こうして俺とアカネ殿はオウマの見張り棟(跡地)を後にした。


 

 目指すはキリサキ・カイトのいる首都ウラヴァ──


 

 遥か南を目指すこの旅には幾多の困難が待ち受けているだろう。



 しかし、俺の心は「なんとなく」──果てなく続く青芝の地平線の様に晴れやかであった。




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 アカネとガンダブロウが旅立ってからおよそ半日後──


 オウマ見張り棟跡地に二人の人影があった。


「ふむ、見張り棟が全壊している…………やはりここで戦闘があったのは、間違いないようですね……おや?」


 黒子衣装で頭巾には不気味な目玉の模様という怪しい出で立ちの男が見張り棟跡地を検分していると、瓦礫の中に奇妙な場所を発見した。そこは土が盛られ、阿羅船牛鬼(アラフネギュウキ)の愛刀・野牛重米(ヤギュウジュウベイ)松吉(マツヨシ)が突き立てられている。その脇には石が置かれており、牛鬼の辞世の句と思しき文が刻まれていた。


「これは牛鬼さんの剣……それでは、倒された牛鬼さんの墓でしょうか?」


「はぐ、はぐ! うまうま!」


 もう一人の男は黒装束の言う事には我関せず、一心不乱に菓子を頬張っていた。


「ふむ…………しかし、変ですね。この周辺に人がおらぬという事は、この地で牛鬼さんを倒した何者かがご丁寧に弔いまでして、その後どこかに去っていったという事になりますが……」


「もぐもぐ……」


「どう思いますか伊達さん?」


「むぐむぐ……ハァー」


 伊達と呼ばれた男は頬張っていた菓子を飲み込むと、黒装束の問い掛けにゆっくりと答えた。


「まっ、十中八九"決闘"だな。牛鬼のやつは"決闘"に負けたんだろ」


 伊達の姿もまた奇抜である。青地に金の模様の派手な着物に髪型は現代で言うリーゼントヘア。そして、三日月型のチョンマゲ。これだけでも十分奇抜であるが、さらに男は両眼の色が異なり、左が青色、右は白銀色であった。白銀側の眼の周りには隈取りの化粧を施しており、その眼の異質さを際立たせた。


 伊達は牛鬼の墓の前に立つと牛鬼の剣を引き抜きつつ、この墓の製作者……すなわち、牛鬼を倒したであろう反逆者に対して、感想を述べた。


「誰かは知らねぇが、なかなか洒落た事するじゃねえの。粋だねえ、伊達だねえ…………だけど、甘いな。甘すぎる。このケーキって"ふわりもち"くらい甘々の甘ちゃんだ!」


「…………しかし、その甘ちゃんが牛鬼さんを倒したのだとすれば、我々も舐めてはかかれませんよ?」


「へへ! んな事ァ分かってる! 御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)伊達我知宗(ダテガチムネ)に油断の二文字はねえ!」


 そう伊達が言うと、牛鬼の剣はみるみるうちに凍りつき、砕け散ってしまった。



「なんせ、俺の作る氷菓子は甘くもなけりゃ舐められもせんからなァ!」

 


《どうでもいい雑記②》 共和国なのに帝??


読まれている方でお気づきになられた方もいるかもしれませんが、サイタマ「共和国」に何故「帝」がいるのか? 大統領の間違いじゃないのか? それとも設定ミスか?


気になる方向けに解説します。


サイタマ共和国はキリサキ・カイトくんが作った国家な訳ですが、彼はもともと日本の一般家庭で育った普通の高校生です。故に彼の中では共和制国家=先進的であり、王国・帝国・公国は後進的であるという強い先入観を持っていました。

そのため、権力を持った時に未開の世界の文明を開化させてやるぜ!というくらいのノリで王公貴族を廃して共和制に移行してみたのです。

ただ、やはりというか、普通の高校1年生程度の知識しかない彼に共和制国家の運営をするのは無理がありました。


まあ、そもそも彼自身が選挙で選ばれた為政者じゃないし、実は議会や三権分立などの現代的な民主主義国家の仕組みをよく理解していなかった。


そのため、共和国とは名ばかりで彼自身に権力が一極集中した歪な国家が誕生しました。平たく言えば北●鮮ですね。


このへんの統治機構のいびつさも、物語のなかで描写できたらなー、と思っています……まあ、あんまり本筋とは関係ないので書かないかもですが。


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