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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第117話 めぐりあい宙船!

前回のあらすじ:能飽の方舟の船外ではガンダブロウ・泉綱コンビと幻砂楼の遊民が激戦を繰り広げていた。一方同時刻、船内では金鹿から逃げるコジノの前に意外な人物が姿を見せる。


一人称視点 マキ→アカネ




「まさかこんな所でコジノちゃんと再会するなんてねぇ!元気してた?」



 巨大船に侵入し、不穏な呪力の気配の方へと進んでいると意外な人物が追われているのが見えた。妖に変身してると思われる兵が味方とも思えなかったし、とりあえず私は彼女を助けた。



「ええ、お陰様で。マキさんもお元気そうで何よりです」



 かつて史上最速で紅鶴御殿の近衛兵に抜擢された天才剣士・武佐木小路乃(ムサキコジノ)──2年振りでも幼さの残る容姿は変わっておらず遠目でもすぐに分かった。彼女はさらなる剣の高みを目指して出奔し、旧エドン公国領に向かったと聞いていたけど…………まさかこんなところで会う事になるとは、人の縁とは不思議なものだ。



「危ないところ、助けて頂き感謝します。しかし、マキさんが何故こんなところにいるのですか?」



「なーに、ちょっと知り合いに呼ばれてね」



「知り合い……村雨岩陀歩郎(ムラサメガンダブロウ)ですか?」



 そう。私がここに来たのはまたしてもあの男絡み──村雨岩陀歩郎に呼ばれたからに他ならない。



「まあね〜」


 

 ふふふ、私も結構忙しいし本当は1人の男ばかりを相手にもしてらんないんだけど…………「マガタマの在処の手がかりを掴んだ」と言われちゃあスッ飛んでいくしかないのよね。


 マガタマの手がかりが分かったら連絡してくれとは確かに言った。でも実際にヨロズ神の神社を経由して私に知らせが来た時には本当に驚いた。彼らと別れてからそんなに日も経ってなかったし、最初はまさかという思いの方が強かった。しかも【富嶽杯】とかいう玩具大会の副賞で本物のマガタマを見ることが出来るという胡散臭さ満点の情報だったから正直私が直接行く価値があるのかは迷った。


 しかし、御庭番十六忍衆(ガーデンガーディアン)や大商店の板岱屋が関わっているという事から、キナ臭さの裏に真実につながる「何か」かがあると感じとった。私のカンはよく当たるしね。


 ただ、そんな不確かな情報では規律のめちゃ厳しい紅鶴御殿で外出許可が出るはずもなく(前回の外出で司教の仕事も溜まっていたというのもある)、いちいち申請が通るのを待ってちゃ大会日程に間に合わないし、七重婆やヒデヨちゃんたちには内緒で飛び出してきてしまったワケだけど…………町についた時に感じた不気味な気配、落ち合うはずの場所に姿を見せないサシコちゃん、村雨くんから事前に知らされていた緊急事態用の狼煙が見えた事、その狼煙を追っていって目撃した河原での(アヤカシ)人間たちと村雨くんの戦闘など、立て続けに起こる不穏な事態から私の行動は正しかったのだと直感した。このミヴロで「何か」が起こっていて、その「何か」がマガタマに関わるものであると……そして、この巨大船から発する極めて異様な呪力を感知した時、その直感は確信へと変わった。


 という訳で私は優勢に戦っていた村雨くんに加勢するよりも、敵に存在を気づかれる前に船を偵察しとこうと思って船内に侵入してみたワケだけど、計らずも彼女の窮地を救うにはドンピシャの判断だったわね。



「それよりコジノちゃん……背中におぶっているのはもしかして……」



 コジノちゃんに背負われている栗色の髪の少女の顔をのぞく。ぐったりしていて顔がよく見えなかったけど、かすかに感じるこの呪力の気配は……



「やっぱり、サシコちゃん!? 何々? 大丈夫なの?」



「ええ生きてはいます。ただ、かなり衰弱していて、どこかで介抱しないと」



 村雨くんが寄越した手紙の内容ではサシコちゃんは町で私と合流するか村雨くんに加勢が必要な状況になれば援軍に向かう手はずであった。そのサシコちゃんが合流場所におらず、村雨くんとも離れて何故今船内にいてこうまで弱りきっているのか。というか、そもそも何でコジノちゃんがこの船内にいるのか。


 廊下の奥から感じる異様な気配も非常に気がかりだけど……先に進む前に、聞いておかなければならないわね。



「コジノちゃん……一旦安全な場所に移動したら、ここで何があったのか話してもらえるかしら?」




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「くっくっく……まさか君がこの決勝戦まで残るとは驚いたよ」



 熱気に包まれた大観衆の見守る中、船上の特設ステージ。津久田玄場(ツクダクロバ)は闘技場に向かう入場者通路でわたしの隣に並んで、思わせぶりに話しかけてきた。



「……おじさんこそね」



 わたしはウザ絡みされても困るので短く答えたが、当の津久田はそんなわたしの意図など察することも無く更に馴れ馴れしく話を続けた。



「僕の教えた情報は少しは役に立ったかな?」



「まあ、多少は」  



「そうか、そうか。それは良かった!はっはっはっはっは!」



 津久田は大人気もなく興奮気味に高笑いしてみせたが、正直今はコイツの事を気にしている余裕はなかった。



 【富嶽杯】の決勝戦──


 数々の強敵を破りたどり着いた頂点を決める戦い。小決闘(コケットー)を愛する子供たちにとっては夢の舞台だ。これに勝てば真偽はどうあれ、優勝特典によってマガタマを見る事ができると言うし、本来ならわたしも多少は昂るのだろうけど……うーん、今は流石に興が乗らないね。


 だいたい、わたしは今こんな事してる場合なのかしら?外では間違いなくガンダブロウさんが戦っている。あれだけの閃光と爆発……おそらく『逆時雨』の大技を放ったのだろう。それなりの強敵と戦っているものと予想されるけど……



「どうした、マツシタ・アカネ。緊張して声も出ないのかい?」



 うーむ、今は話しかけないで欲しいのだけど……


 よりによって決勝戦の相手がこのおしゃべりオジサンだなんて、まったくツイてない。



「僕も緊張しているよ。ただ、それ以上に感動を覚えている。小懸主(コケマスター)最大の栄誉にあと一歩まで近づいた事もそうだが、それ以上に偶然、控室で話しかけた君とこの最高の高みで相見える事になった奇跡にね」



 はいはい……




「思えば君と戦いの前に邂逅したのは運命だったのかもしれないね」



 うわ、ついに運命とか言い出したよこの人……こういう無駄に感受性の強いオジサンは本当に苦手で……


 て、んん?待てよ、この流れはまさか……



「そうだ。間違いない、これは運命だ!」



 背筋に寒気が走る。



「……はあ?」



 え?いやいや、オジサン流石に……流石にそれはないでしょ?

 


「戦いの中で出合った二人は、それぞれの道を歩み、数々の苦難を乗り越えて再び巡り合った。僕は44年の人生の中でこんなに胸が高鳴るのは初めてだ……」



 何言ってんだ、こいつ!

 ただの吊橋効果だからそれ!ホント無理無理!無理だから!


 てか44!?

 冷静に考えておかしいでしょ!?17歳のJKと44歳のオッサンて……いや、この世界の慣習は知らんけどさ…………て、なんかキメ顔してるし!いやいやいやいや!ホントキモいから!ホントキモいし、痛過ぎるからオッサン、ホントそれ以上は……



「マツシタ・アカネさん。この勝負に僕が勝ったら、僕と結婚してくれないか?」



 いぃやああああああぁーーー!!!!

 言ったあああああ〜〜〜〜〜!!!!



「それでは、これより【富嶽杯】決勝戦を始めます!マツシタ・アカネ、津久田玄場、両選手は入場して下さい!」




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