第116話 月下、討ち入り!(後編)
前回のあらすじ:手下を倒された三池乱十郎が、ついに動き出す!戦国七剣VSガンダブロウ、開幕!
一人称視点 ガンダブロウ→コジノ
※分かりにくいですが、108話で遡った時系列が107話時点まで追いついたのでコジノ視点もそこから再開です
「な、な…………なんだこりゃあ!」
どちらを見渡してもキノコ、きのこ、茸!
分身(?)した三池たちは全員が半妖体に変化すると、もともとキノコの傘のような髪型をしていたが、顔そのものまでも正真正銘のキノコに変わってしまった!
「ノッコココ!! トッタリア新当流『髏涅讃崇』!! 奥義"菌界衆轢"!!」
強者とは誰が見ても圧倒的と分かる程に迸る力を持つ者と、常人の理解を超えた奇怪な力を持つ者とに別れるが、この男は確実に後者の方だ……ヤツのこのけったいな術がどのような原理なのかはまったくもって謎!ただ一つ言える事は……
「ガンダブロウ!こいつは識行使いだ!」
この技の属性が識行であるという事だ!
先程までの三池の挙動……指を鳴らすと同時に燃え上がった焚き火の炎や興奮と共に徐々に隆起していく筋肉など、いかにも火行使いと思わせるような言動はすべて欺瞞!こちらを勘違いさせる為にあえてそのような細かい幻覚を見せていたのだろうが……まったくアジな真似をしやがるぜ!流石は戦国七剣と言ったところか!
「さァ、行きなサイ!我が分身たちヨ!」
キノコ人間たちが、刀を構えて一斉につっかけてくる……!
ちっ!感心してる場合じゃねーか!
「く……!」
「先輩!ここは俺が……」
先輩は大技を使って呪力の回復に時間がいるし、今度は俺が戦って時間を稼がねばならない。しかし、識行の剣士は呪力の気配を読みづらく、火行の連撃よりもさらにやりづらい!正直、俺が最も苦手とする手合いなのだが……
「ハァッ!」
弱音吐いてる場合じゃあねえ!
キノコ分身たちの攻撃を捌き、返す刀で二人を斬る!
「ア゛ア゛ア゛ア゛……!」
む、この手応え……どちらも実体か!?
識行使いがこの手の技を使ってくる場合、①分身の幻覚を見せている、②召喚した式神を自分の姿にかたどっている、のどちらかという事が多くその場合はいかに精巧に構築した術でも触れた瞬間に実体か幻覚かを判別できる。
今斬った感触は間違いなく実体であったが……
むぅ……?ますますヤツの技の正体が分からなくなってきたぞ?
「……お、おい!? 嘘だろ!?」
明辻先輩の声に反応し振り返る。
と、斬り倒したはずのキノコ兵士はすぐに立ち上がり、再びこちらに向かってきていた!
「なぬ!? こいつら不死身か!?」
そんな馬鹿な……と思いつつも、俺は攻撃を避けて先輩を抱えて大きく跳躍後退した。
「ノコココ!時間稼ぎですカ〜?」
空いた間合いをキノコ兵士たちが走って押し寄せるが、とりあえず四方を囲まれる事だけは避けた。本来、識行使いは接近戦が不得手。新たな術を使う猶予も与えてしまうし、識行使いとの戦いで遠間を得意とする風行使い以外が不用意に距離を離すのは上策とはいえない。一流の使い手ならばこの隙きを見逃さんだろう……しかし、俺の狙いはあえて追加の技を出させて、『逆時雨』での呪力吸収する事だ!
相手の術を見破れないのなら、見破れないなりの戦い方がある!さあ、来な!
「フムゥ、ここは一気に……」
よしっ……!
「ん…………いや、違うナ…………この気配……これは罠ですネ?」
なっ!?
気づかれた!?
「危ない、危ない。方法は分からないケド、さっきの技のように僕の技の呪力を利用する気だったネ?悪いけどその手には乗らないヨ。僕は極力、呪力を使わずにじ〜っくりと、攻める事にしヨウ」
く……冷静だな!
「ア゛ア゛ア゛ア゛!」
再びキノコ兵の攻撃!
しかし、それは単純な斬撃で俺に呪力をかすめ取らせないように識行の力は込められていない……く!これでは俺も『逆時雨』が打てない!
「ガンダブロウ!呪力なしの相手ならば私も戦える!」
明辻先輩もキノコ兵士との戦いに参加!しかし、呪力を完全に回復させるには時間が足りず、また半減した呪力のまま絶え間ない攻撃への対処に削られいつまでたっても大技を使えるまでには回復しない!
単なる物量攻撃……だが、何度斬っても無限に復活してくるキノコ兵士には体力・呪力以上に気力が削られる!
「ノコココ!やはり、こちらが呪力を使わなければさっきの技は使えませんか!」
俺たちがヤツの術の正体を見破るのが先かヤツらの波状攻撃に力尽きるのが先か。我慢比べになるが、俺にはサシコやアイツの援軍の可能性もある。狼煙に気づいていればそろそろここに現れていてもおかしくはないのだが……
しかし、この思惑ははずれた。俺たちは意外な長さで三池との終わりの見えない消耗戦を強いられる事になるのであった。
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「な……何だ、こ……れは……!?」
サシコちゃんを背負って船の中を逃げる最中。
追手として迫る金鹿馬北斎の手下・怒鳴寺荼毘蜻は、突如として廊下の四方の壁から出現した針に貫かれた。
「ぐう! この痛みは……幻痛!? 識行の幻覚か!」
飛び出した針は実体のない幻覚!
しかし、瞬時にこれほど真実味のある術を発動させるなんて、並大抵の術士には出来ない芸当だ!
「おや、もう気づくとはやるねー」
怒鳴寺の背後から女性の声がする。
「あ、あなたは……!?」
艶やかで、人をからかう様な掴みどころのない声。
「ち!新手か……舐めやがって!」
怒鳴寺はトンボのように変化した羽をはばたかせ、空中で方向転換。廊下をゆっくりとこっちに向かってくるその女に再び突進する。
女は針を出現させる「触媒」に使ったであろう団子か何かの串を怒鳴寺に投げるがアッサリと回避される。
「そんなものに当たるか!」
「……それじゃこっちはどうかしら?」
串の回避に一瞬気をとられた怒鳴寺は女が鉄の筒のようなものを自分に向けた事に気がつくのが遅れた。そして次の瞬間……パンッ!という破裂音と共に鉄筒から小さな鉛が発射され、彼の胸を貫通するのが見えた。
「ぐはっ!」
い、今のは術じゃない!
妖の力で強化された動体視力でようやく確認できるほど高速で小さな鉛を弾き出すからくり……恐らくは彼女が発掘した遺物の一つだろうけど……
「こ、これは……幻……じゃねえ……ガハ!」
怒鳴寺は血を吐き、床に墜落して倒れた。
ふ……相変わらず、巫女らしくもなくヤンチャな事をする人ばい!
「……マキさん!」
「お久しぶりね、コジノちゃん!」




