第115話 月下、討ち入り!(中編)
前回のあらすじ:ガンダブロウ・泉綱VS幻砂楼の遊民!
「エドン無外流『或命流』!"雨の太刀・空魚神立"ッ!」
「ぐぼほぉ!?」
ミヴロ川河川敷での乱戦──先輩は刀身を無数の小さい槍に変えて水中を動きく魚群のように一斉発射。飛び跳ねて攻撃してきた敵の一人を着地際に仕留める……よし!これでまた1人!
「さす……がッ!」
俺も斬り込んできた犬顔の剣士の攻撃を捌きつつ、一旦間合いを空けて体勢を整える。
「ふぅっ!」
戦いが始まりおよそ5分ほどだろうか。
先輩が3人を倒して残りは11人……俺も六行の充填を着々と進められているし、ここまでは至って順調だ。
俺はチラリと奥に控える三池乱十郎を見る。
「おやおやおやおや……」
床几椅子で足を組んで観戦していた三池は表情は変わらないままだが、その口調はやや苛立ったものになっていた。
「村雨くんの力をじっくり見たかったのだが……まさか、彼にほとんど技を使わせないまま明辻泉綱一人に倒されるつもりなのカイ?そんな無様な姿を晒せば例え生き残っていてもどーなっちゃうか……分かってるよネェ?」
「ひぃ……や、野郎ども!気合入れ直せぇ!」
三池の恫喝に反応した残りの幻砂楼の遊民の兵士たちは俺に割いていた人員を明辻先輩へも振り向ける。
遠距離攻撃のできる兵士が彼女を狙い、炎を噴出して加速するクナイを投げたり、鶏の姿に変身した者が硬質化させた羽根を射出するなどしたが彼女の変幻自在の刀身による防御と華麗な身のこなしで一発たりとも命中しない。
俺も舐瓜頭の兵士が投げた果物状の爆弾を回避しつつ、一時先輩と川の淵で合流する──と、その瞬間!
「かかったな!」
「む……!?」
すぐ背後の水面下から、カジキマグロのような魚型の半妖兵士が現れる。ち……遠距離攻撃は俺たちをこの地点に追い込むための布石か!
「死ねい!」
カジキ男は両手に持つ銛と尖った角のような上唇でこちらを突き殺そうと迫る……が……
「あぎぇッ!?」
更に水中から刃が針のように伸びてカジキ男が俺たちの間合いに入る前に突き刺した。これは明辻先輩の技……既に水中にも配置していのか。
「そっちもちゃんと見えてるわ」
これで残り10人……冴えてるぜ、先輩!
俺は感心しつつも、更なる奇襲に備えて先輩と背中合わせに360度を見渡せるよう構える。
「絶好調ですね」
「まあね。それに運もいいみたい」
「運?」
「ここの河川敷の砂利が砂鉄をかなり含んでいるようでね。恐らくすぐ上流に鉱山か何かがあるんだろうけど……」
「! では……」
「ええ、アレが使えるわ」
おお……!
なんと、それはツイている!
先輩の『或命流』は自身のもつ剣の刀身を核に大気や地中に含まれる金属質の成分を吸収し、水行の流動変質を用いて変形させる技だ。その性質上、金属質のものが多い場所であればあるほど力を発揮する。
「まだだッ!攻め続けろ!」
「ウオオッ!!」
今度は接近戦を仕掛けるべく巨体の兵士二人(サイとカブトムシの姿に変身している)が突進をかけてくる。それぞれが火行と土行の力によって身体を強化させているようであった。遠・近で間断のない攻撃を仕掛け続ける事で俺たちの消耗を狙っているようだな……しかし……
「一気にカタをつける……エドン無外流『或命流』!"海の太刀・波紋大螺淡弑"ッ!」
先輩が足場に剣を突き刺すと、地面が波打ちながら隆起していく!
「なにぃ!?」
隆起した地面は形を変えていき、身の丈の何倍もある巨大な剣士の立像に変形。剣士の巨像は両手に携えた剣を振り、サイとカブトムシの兵士二人を薙ぎ払った。
「ごふぅッ!」
「げはァ!」
……2人撃破!残りは8人!
"海の太刀"は金属製品が多い軍施設内や鉱山などの鉄分を多く含む地質の場所でしか使えない先輩の奥義……呪力の消費もそれなりに多いが、発動さえ出来ればこの技をまともに破れた者はいない!
このまま敵を一挙に殲滅できるか……!?
「けっ!いつまでも好き勝手できると思うなよ!ウオオオオッ!」
敵の一人の身体から再び煙が立ち昇る。
既に半妖化の変身をしているのに更に変身……?
むっ!これは……
「ウゥゥ……グモオオオオォ……!!」
男の身体はみるみる内に巨大化し、先輩の作った巨像に匹敵する熊の姿となる!これは御庭番十六忍衆と同じ、完全な妖化!
こいつら半妖体になるか完全な妖体になるか選べるのか……!
「ゴアアアァ!!」
巨大熊は先輩の巨像に抱きつき動きを止める!
「今だ!くらえぃ!」
と、すかさず舐瓜顔の男が果物爆弾を飛ばして明辻先輩を攻撃!海の太刀を使用中は「核」を飛ばすことが出来ない先輩は回避が間に合わず、何発かの爆発に巻き込まれ手傷を負う!
「……くっ!」
ち……もしかすれば先輩一人で押し切れるかと思ったが、流石に御庭番十六忍衆と並ぶと謳われた伝説の傭兵集団!やはり、そう甘くは行かないか!
だが……
「先輩っ!」
俺は先輩の前に飛び込み、剣を構える!
呪力充填の為の時間稼ぎとしては十二分!更に敵は先輩に集中攻撃するために固まった陣形……まさにおあつらえ向きの状況だ!
「エドン無外流『逆時雨』…………」
「……おおっトォ!ついに出すかネ!」
三池乱十郎が椅子から立ち上がりこちらを注視する。
『逆時雨』は、既存の六行の属性の枠組みにはまらないその特性上、初見の対戦相手にはほとんど予測ができず、反則に近い強さを発揮するが紅鶴御殿での戦闘のように特性を知られてしまえば対策を取られてしまうという事もありうる。だからこの戦いの真打ちである奴にはギリギリまで手の内を見られたくなかったのだが……今は敵の数を減らすのが先決だ!
「秘 剣 !! " 百 鬼 夜 行 返 し " !!」
俺は草薙剣を振るうと、今まで溜めた六行の力を一斉に開放!
「な、なんだこりゃ…………ムオオオオオ!?」
火・水・風・土・空…………あらゆる属性の作用が無軌道な暴流となって放たれ、残りの敵を一挙に飲み込む!
「うわああああああぁぁぁ…………!!!!」
暴流は複雑な色の閃光を放ちながら右へ左へと軌道をかえ、あちらこちらで爆発する。恐らくは能飽の方舟や、町の人々にもこの光は見えている事だろう。
うーむ……相変わらず吸収した属性がごった煮だと、技の威力をまったく制御できんな。まったく、我ながら扱いの難儀な技よ。本来の戦場でこのような大技を使用する際には仲間を巻き込まぬ為に配慮する事が必要だが、長年の相棒だった先輩は慣れたもので既に俺の技の射程から離れていた。
ふっ……やはりこの人と組むと本当に戦いやすいな……!
「おっ、おっ、おっ!? これは凄〜イ! 火・水・風…………一体いくつの属性を使えるんだネ、村雨くぅん!?」
三池は興奮気味に俺の技を観察する……ふん、仲間が倒されていく事よりも俺の『逆時雨』の性質が気がかりか?だがな……
「ん?」
高みの見物を決め込んでいた三池の方に俺の放った呪力の暴流が鉄砲水のごとく放出される。
「おお!?」
『逆時雨』は敵の呪力の強さに比例して威力も範囲も向上する!ことさらに狙っていた訳ではないが、半妖化で強化された奴らの呪力をたっぷりと吸収した『逆時雨』は前線の敵を突き破った勢いのままに後方に控える三池の位置にまで到達!轟音とともに三池のいた辺りの地面をえぐり、大きな砂煙を上げた!
ふ!油断していたな!
今のがしっかり命中していれば倒せないまでもかなりの手傷を負わせられただろうが…………ぬぅ!?
「……ノッコッコッコ! 分かったぞ! 相手の六行の力を利用したナ〜? エエッ? そうだろ、村雨くぅん?」
どこからともなく三池の声が響く。
「う……こ、これは……!?」
い、いや……どこからともなくじゃない!
三池の声はそこかしこから聞こえる!
周囲を見渡すといつの間にか何人もの敵に囲まれていた。
敵はすべて倒したはず…………と、敵の顔を見渡し戦慄する。
「気をつけろガンダブロウ!既に三池は技を発動しているぞ!」
周りを囲む十数人の敵……その姿、全てが三池乱十郎のものであった!
ぶ、分身!?
「ちっ!」
俺は先輩の声に反応して再び彼女と合流して背中合わせに構える。
「「「 さて、次は僕の番だネ!"トッタリアの妖刃暴"三池乱十郎の独演……とくとご覧あれ!! 」」」
複数の三池たちは全員が身体から煙を上げはじめる。
ま、まさか……分身全員が妖に変身できるのか……!?
「「「 半妖変化ッ!! 」」」




