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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第109話 大義と名誉と!(中編)

前回のあらすじ:御庭番十六忍衆にスカウトされたという明辻泉綱にガンダブロウは過去の出来事を思い出す……


※今回はまるまる前回の続きで過去編



「明辻ィ……貴様、今何と言った?」



 作戦会議が始まって早々。

 伊冬(イトウ)師団長は明辻先輩の意見具申に明らかに不快感を露わにした。



「この時期のリャマナス侵攻は愚挙だと申し上げています。今は国境の防衛にのみ専念すべきかと」



 先輩らしい、愚直な口振りだ。

 思った事は周りにはばかる事なくズバリと言ってのける。


 しかし、その無遠慮な言い回しは時に周囲と軋轢を生む。自分より目上、歳上の多い会議の場では特にだ。



「理由は3つあります。まず1つ目は…」

 


「誰がそんな事を問うたかァ!!」



 師団長は机に拳を振り下ろし、明辻先輩の言葉を遮った。



「ワシが意見を求めておるのは、リャマナスをどう攻め、どう落とし、敵城の天守に我が栄光のエドン軍旗をどう掲げるかという点だけだ!作戦そのものの是非についてなど問うてはおらん!」



 師団長の怒号は寒冷地の冷たく張り詰めた空気をさらに凍てつかせた。普通の者であればここで引き下がるところであるが、上司である師団長の圧力をもってしても明辻先輩の心胆を寒からしめるには至らなかった。



「……では、その3点についてご意見いたしましょう。まずどう攻めるかについて」


「な……!?」



 明辻先輩は師団長の言葉を使って切り返し、平然と自分の意見を述べ始める。むぅ……この人と口喧嘩して勝てた試しはないが、やはり頭の回転も早いし口も上手いな……



「この時期にチェチェブ山脈を越えるには豪雪と氷点下の寒さでも凍えず行軍できるだけの完全な防寒対策が必要です。それに険しい冬山を2ヶ月分の食料を積んで難なく踏破できる程精強な牛馬もあと五百頭はいるでしょう。それらの準備が整わねば、攻め入るどころか山を越える事すら出来ません」



「む……そんなものは士気の高さがあれば何とでも……」



「次にどう落とすかという点。チェチェブ山脈を踏破した我々は狭隘(きょうあい)な盆地で疲弊したままリャマナス軍と戦う事になる訳ですが、当然彼らは我々が来る事を予測しております。容易に迎撃できる用地を抑え、地の利を活かした陣を張って準備万端で待ち構えている事でしょう」



 明辻先輩の意見は反論を差し挟む隙間すら作らず、淡々と進行した。



「それを破るには敵に最低4倍する兵力と、奪った敵領地に橋頭堡を確保維持し、更に補給物資を生産させ得るだけの兵員・資材が必要です」



「ハッ……敵を過大評価しおって!リャマナス軍は我が方に比べ兵器も兵の力も貧弱!4倍どころか半分の兵でも攻略可能だ!それに敵地に小砦を築けるだけの工兵も確保しとる!補給などは現地調達でいくらでも……」



 そこまで師団長が言葉を述べた時、明辻先輩の目がカッと見開いた。



「占領民から略奪をするおつもりですかッ!」



 普段はひょうひょうとしている先輩らしからぬ強い口調。今度こそ座は一斉に凍りつく。


 現地調達と言えば聞こえはいいが、こんな冬山で我が軍全員の食い扶持を野生の動植物で賄うなど到底不可能。ならば必然、飢えた軍は領民の持つ食料を強奪する以外に手はない。経済的にも豊かとはいえないリャマナスにあって、厳しい冬を越すために蓄えたなけなしの食料。それを奪ってしまえば彼らがどうなるか。後の批判に対し、知らなかった……とは言い張れないだろうな。



「そもそも今回の戦の大義は何ですか?」



 明辻先輩は、大義……すなわち俺たちが戦う理由を正した。


 相手から土地を奪い取り、エドンの民を豊かにするためか。

 あるいは他国を併呑して後、同じ国としてその地を治めるためか。

 それとも……



「リャマナスとは3年前の戦の折に停戦協定を結んでいます。その内容には相互不可侵も含まれる。それをこちらから一方的に破って侵略した挙げ句、領民から略奪まで行ったとあれば、いかに難攻不落の敵城を落としたとて高らかに仰ぐ軍旗に栄光が宿ろうはずもありません!」 



 先輩の主張は、師団長以外の軍議に参加する将兵に忸怩(じくじ)たる思いを抱かせたのは間違いない。口を挟まず、神妙な顔つきで彼女の独演を聞いているのがいい証拠だ。


 俺とて敵兵を倒すのはよしとしても、何の罪もない住民たちから略奪などはしたくない。俺はそんな事をする為にサムライになったのでも、剣を修めたのでもない。自分の信ずる正義にもとる行為に及んでまで得た豊かさに意味など無い事は重々承知している。だが……



「乱世の世で弱い者から食われるのは必定だ。我が国の侵攻がなくともリャマナスはどのみちいずれ滅びるだろう」



 師団長は先輩の正論に対し、そう言ってのけた。

 その言葉は酷薄であるが真理でもある。


 リャマナスは我が国との国境紛争に敗れて以降、他国との戦にも負け続け、国境線は不安定で政情も乱れている。ならば他の悪辣な国家に併呑され、不安定な占領を受けるよりも経済的・政治的にも安定したエドンが早い時期に統合して、未来の憂いを断ってやるのが大義とはならないだろうか?


 その為には多少の犠牲はやむをえないのかもしれない。


 確かに論として正しいのは明辻先輩の方だが、現実の事情を鑑みれば選択は必ずしも正論だけに限定される訳ではない。まじめに話し合えば議論百出してなお万人の納得する結論はでないであろうが、それならば今この場においては最大の権限を持つ師団長に従うべきではないかとも思われる。



「乱世の弱国の行く末を見届ければ、他国も身の振り方を考えざるをえんだろう。来る我が国のジャポネシア統一に際し、余計な流血を避けられるかもしれん」



 ……そうだ。我が国にはジャポネシア統一を果たし天下泰平をもたらすという名分もある。

 ダイハーン、バラギスタン、ミューエと大国に連勝した今のエドン公国に対抗できる国家は今のジャポネシアにはいない。乱世を終わらせるには今が好機なのだ。それに……



「恐怖による圧力……ですか?」



「覇業の上ではそれもいた仕方なし。それに、此度の戦には八百万協会が見聞に来ているのは貴様も聞いたろう」



 それに…………太刀守!

 今回の戦いには俺が太刀守の称号を得られるかどうかがかかってるのだ!国家の大義と関係なく、俺個人としては是非とも戦いたい理由がある!



「20年以上該当者のいなかった太刀守を我が国から輩出したとあれば、諸国に大陸統一を目指すエドンの覇業の正当性を知らしめる事もできよう」



 む、なるほど!

 俺の太刀守襲名はエドンの統一戦争に大義を与える一因にもなるのか!確かに八百万(ヤオヨロズ)協会の選定する称号はジャポネシア一の権威……この称号を絶対視する者も未だに多いし、威光に従う者との戦いを避けられるようになるなら師団長の言う通り流血も減る!


 ……うん、これは筋が通っているな!では、やはりここは多少強引であったとしても侵攻を行うのが正解に思えるのだが……先輩は一体何を懸念しておられるのだろうか?



「リャマナスはその生贄という訳ですか?その様な打算めいた理由で一国を滅ぼす事がエドンの覇業だと言うのですか?であれば、我々は暴虐の国家の尖兵として歴史に汚名を……」



「言葉を慎め、明辻!この侵攻作戦は軍の最高幕僚会議で決められ、公王も承認されたものだ!現場のイチ連隊長ごときが口を差し挟む事ではない!」



「し、しかし……」



「黙れぃ!我が国の覇業を理解できんというなら貴様はもういらん!即刻この帷幕から出て行けい!」



 師団長の態度には有無を言わさぬものがあった。

 先輩は更に何かを言い返そうと逡巡したように見えたが何も言わずに一礼した後、命令に従い帷幕から出ていった。



「ハァ、ハァ……よもや他に作戦に反対する者はおるまいな?」



 明辻先輩が退室すると、師団長は鋭い眼光で参加者たちを見渡した。


 そう最高指揮権者に凄まれれば、言い返す者はいなかった。



明辻泉綱(アケツジイズナ)の隊長職を一時剥奪する……代行は村雨岩陀歩郎(ムラサメガンダブロウ)、貴様がやれ」



「え!?」



 師団長の突然の提案に驚く。


 お、俺が……先輩の代わりに隊長!?

 いや、俺は確かにいずれは隊長、師団長の地位に就く事を望んでいた。だが、明辻先輩の席を奪ってまで出世する事などは望んでいなかった。

 

 しかし……しかし、代行とはいえ隊長に指名され、遥か遠い存在と思えた太刀守の称号すら手の届きそうな所まで来た……唐突にやってきたこの望外の機会に高揚感がないと言えばそれもまた嘘になる……


 ……だ、ダメだ!

 心の整理がまったく追いつかない!



「村雨。貴様には公王も特に期待を掛けておられる。此度の戦、多少あざとくても良いから大きな戦果を上げ、見事太刀守の称号を獲得してみせよ」


「……は……はっ!」



 落ち着け、ガンダブロウ……俺はエドン公王の忠実な臣下で誇り高きサムライだ。

 国の命令とあればどんな敵とも全力で戦うし、命を賭して民の盾ともなろう。太刀守の称号を取れと言われれば……それに従うのみ。そうだろう?



「リャマナスは弱軍。まあ、貴様の力量ならば武勲を立てる事もそう難しくはないだろうが……」



 確かにリャマナスは師団長の言う通り、比較的弱い部類の敵だ。それは前回の戦役にも参加して俺自身も分かっている。


 詰まるところ、これは勝ち戦だ。

 よほどヘマをしない限り負けることはないが、逆に言えば他の部隊でも戦果は比較的容易に上げられる。その競争の中で果たして俺がどれだけの功を積み上げられるか……



「他の隊でも敵と遭遇する機会があれば、出来るだけ村雨の一番隊を呼び寄せて戦わせるようにしろ!いいな!」



 師団長が激を飛ばす。

 うーむ、そうして貰えると俺としては非常に助かるのだが……それを聞いた周りの将兵たちは辟易した表情。武勲を立てる機会を譲れと言われているのだから、彼らの士気が下がるのは無理もない。


 しかし、皆には悪いが俺は師団長や公王の期待に答えなければならないし、それも作戦の目的のひとつでもある。今後のエドンの戦略を左右する重大事項なれば、今回ばかりは譲ってもらおうではないか。 


 そう……俺はこの戦で太刀守になるのだ!

 なってエドンの……いや、大陸を統一しジャポネシアの平和を!

 必ず実現してみせる!


 明辻先輩だって分かってくれる………

 いつかきっと分かってくれるさ!


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