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兄を訪ねて三千世界! ~草刈り剣士と三種の神器~   作者: 甘土井寿
第3章 混迷の中原編 (オヤマ村周辺〜ミヴロ)
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第104話 六分の五行!(前編)

前回のあらすじ:金鹿の身体の至るところには【玉視】が埋め込まれていた!一方アカネは果東毎里男を破り【富嶽杯】3回戦を突破した!


一人称視点はずっとサシコ



「最も……欲しいもの……?」



 金鹿馬北斎(カネシカマホクサイ)はアタシの問いに対して親指以外の4本の指を立てて見せた。すると人差し指の先から火、中指の先からは風、薬指の先からは電気が発生し、小指は蜃気楼のようにぐにゃりと曲った。


 こ、これは……!



「……ご覧の通り吾輩は火・風・空・識の四つの属性を扱える」



 よ、4属性!?

 そんな馬鹿な……!



「通常、人間がその身に宿す属性は2つまで。あの地異徒の術を使う異界人の帝でさえも操る属性は3つ……しかし、新世界を創造するには人の常識を超えた存在にならねばならん」



 そうだ……確かアカネさんも言っていた。

 神様から与えられる属性はどんなに多くても3つまで……それ以上の六行の属性を宿すことは人間である以上、不可能だと。




「しかし、吾輩が目指す天地創造には少なくとも5つの属性をこの身に宿す必要がある。そこで吾輩は人の身体に新たな属性を付加する方法を研究し、半世紀以上の歳月を費やしてついにその術を編み出した」



 半世紀以上……とんでもない執念ね。金鹿馬北斎……夢に向かう姿勢は立派だし、それを成し遂げた実行力も凄いけど、目的が人類を滅ぼす事だと言うのだからやはり称賛はできない。その情熱と才能をもっと別の事に役立てていれば今頃は太刀守殿のような偉大な人物になれていただろうに……



「……吾輩はその術を使い、六行の4つの属性を我が身に宿す事に成功した。しかし、5つ目の属性を宿すには理論上【龍の玉視】に匹敵する膨大な呪力が必要じゃった。吾輩は足りない呪力を補うためジャポネシア全土から【玉視】をかき集め、それらを身体に埋め込む事でようやくその条件も満たすに至った」



 【玉視】を集めるって、つまりそれだけの人を殺したって事よね?今までこいつの狂った夢のために、何人が犠牲になったというの……

 



「じゃが、問題が1つ。5つの属性を身体に宿すなぞ当然前例のない試みじゃ。理論は確立しとるものの、実証実験がなければ本当に出来るかは証明できん」



 瞬間、またも身体が引っ張られる……

 宙に浮かされて身動きの取れないまま、アタシは金鹿の研究室の中を移動する。



「今までは適当な人間を捕まえて人体実験を行い理論の証明をしてから自分の身体にも施術しておったが、今回はそれも出来ん。何しろ【龍の玉視】に匹敵する呪力を持つ者など世界に何人もいるものじゃないからの。かといって失敗する事も許されん。どうしても証明実験したいが、こればかりは吾輩も解決策が見いだせないでおったんじゃが…………つい先程解決策が吾輩の目の前にやってきた」



 【龍の玉視】……理論の証明……同じ条件で……


 人体…………人体実験!?

 ま、まさか……!



「理解したかね?吾輩が今もっとも欲しいもの……それは()()。六行の属性5つが人体に宿せるか……【龍の玉視】を持つ君の身体で実験させてもらうぞぇ!百合沢くん!」


「はぁい、準備万端でーす」



 アタシが移動させられた先には何やら菱型の陣が床に描かれていた。

 そして、菱形の四隅には硝子の水槽に入れられた目玉……



「う……あれは……」


「……属性付与の方法についてはまだ説明してなかったの。あれは生前、六行の力に覚醒していた者の眼じゃよ」



 水槽の目玉はそれぞれ赤、青、黄、茶の宝石のようであり、濁った硝子ごしにもキラキラと光を放っているのが分かった。



「無論、全て【玉視】!【玉視】は所有者の六行の力を留める器!その残留呪力を抽出し、人に移植するのが吾輩の開発した属性付与の術式なのじゃ!」



 金鹿がバッと手を上げる。

 その合図に百合沢喪奈(ユリサワモナ)が頷き、移動させられたアタシの身体を菱形の陣の真ん中あたりで叩きつけた。



「ぐぅ!」



 また重力増加……!

 オウマの見張り棟で食らった阿羅船牛鬼(アラフネギュウキ)の技は身体を重くさせるだけだったけど、百合沢喪奈は逆に軽くしたり任意の方向に引っ張る事も可能で一度嵌ると身体の自由を完全に奪われてしまう。


 さっきから足をジタバタさせて抜け出ようとするけど…………くっ!やっぱりダメ!抵抗できない!



「さあ、実験開始じゃ!」



 金鹿はアタシの着物を鷲掴みにしてたくし上げると、コジノさんにしたように筆でお腹の辺りに何やら術式を書き始める…………と、そこに焼けるような痛みが走る!


 あ、あつい!まるで熱した火箸で触れられたかのごとく、筆で書いた部分から煙が立ち昇る……!



「く……!」

 


「ヒェヒェヒェ! 苦しいのは一時の事! 吾輩の理論は正しい! 成功する可能性は高い……はずじゃ!」



「な、なによソレ……コジノさんの時も大丈夫とか言って失敗したくせに……」



「たまにはああいう事もあるさ」



 金鹿は事も無げにそう言い放つ。

 こいつらにとって人の命など、羽虫ほどの価値しかないのだろう。



「失敗は成功の母、挫折は栄光の父じゃ!失敗が怖くて実験などできんわい!」


 金鹿はアタシの身体に模様を描き終わると、菱形の陣の外まで退き、百合沢喪奈が持っていた杖を受け取る。

 金鹿は鼻歌まじりに菱形陣の四隅をぐるっと巡り、【玉視】の水槽にコツン、コツンと杖で触れていく。



「ふん♪ふふん♪」



「……他人の身体だと思ってッ!もし失敗したらアタシの身体はどうなるっていうのよ……」



「ん? まあ、呪力に身体が耐えられず身体が破裂するか、よくて廃人じゃろうな」



「なっ……!」



「仮にそうなったとしても君の犠牲は無駄にはならん!実験結果は吾輩の計画の礎として新世界の神話に永遠に刻まれるじゃろう!だから失敗しても安心して爆散するがよいぞぇ!ヒェ~ヒェッヒェッヒェ!」



 何が犠牲を無駄にはしないよ!

 すべて自分の歪んだ欲望のためのくせに……!



「さあ、これで準備完了!」



 見ると水槽に入った4対の【玉視】が光り、それぞれの属性の力を放ち始めていた。その力はどんどんと増大していき、陣の中心のアタシの身体に迫ってくるのを感じた。



「まずは1属性目……空行!行ってみようか!」



 金鹿が杖を振ると、黄色の【玉視】から稲妻のような呪力が迸り、アタシの身体……金鹿が模様を描いた箇所を貫いた!



「ぐ……ぐぅあああああっ!!」



 凄まじい衝撃!

 身体中に広がる電撃のような痛み!

 否応なく脳内に死の予感が走る!



 く…………こんな……こんなところで……

 こんなところで、こんな死に方をするなんて絶対に嫌!



 こうなったら絶対に生き残ってやる!

 絶対に生き残って4つの属性とやらを身体に宿して、こいつらにその力で復讐する!アタシやコジノさんにした事を後悔させてやるんだ!

 


「ぬ……うぐぐぅ……!」



 アタシはその一心で歯を食いしばり、激しい痛みに耐える!



「ハァ……ハァ……」



 み…………見ててくださいよ、太刀守殿……!

 アタシはこの責め苦を耐え抜き、さらなる飛躍を遂げてみせますから!



「ヒェヒェヒェ!どんどん行くぞぇ…………次、土行!」 

 



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